シン・アスカ×メイリン・ホーク


雨がいっこう止まない日だ。
この日は、ずっとズキズキと頭が痛む、めまいも少しする。あの日だ、あの日を思い出して心臓が握りつぶされる。雨も降り、雷が轟くあの日が…僕をずっと蝕んでいる。ずるずると足が、身体が…重い。引きずりおろすように、沈ませていく。
…メイリン。
メイリンを、僕が…討ったんだ。
雨の日に、アスランとともに討った。この手で、デスティニーで討ったあの日を、雨の日と共に思い出していく。繊細に、鮮明に事細かくあの日の状況を思い出していた。アスランの言葉も、レイの言葉も、全部全部思い出していく。あの雨の中、雷鳴の中で見た現実が僕をずっと攻め立てる。目を逸らしても、ずっと攻めていく。
間違えたんだ。あの日から、ずっと。…ちがう、もっと前だ。
僕はまだ、あの時からずっと子供のままだ。考えて、考えても…怒りばかりが湧いていた。メイリンは、そんな僕のそばに居て、隣で、笑っていたんだ。軍では一緒に居られる時間は限られて、休日だけが一緒に居られる。休日には一緒になって遊んで、俺の進めた本を一緒に読んで、メイリンから勧められた映画を視聴し読んだりしていた。
時たま、メイリンがヤバいデータを引き抜いたーなんて言うもんだから、慌てっぱなしもあった。
普段から大人しく、ルナより自己主張は控えめ。それでも、芯となる部分はしっかりして、時に大胆なことをする。やさしく、ずっととどめておいて、どこにも行かせたくないくらいに、僕はメイリンが好き。
好きで好きでたまらない。愛している、メイリンがいたから…僕はまだ保てた。
ミネルバに乗ってからだ、なんだか変わっていったのは。
ちがう、変わっていない。変わっていないけど、メイリンがいたから…ずっと安らげていた。変わっていないまま、安らぎに身を沈ませたまま。

そうして、あの日が来て。
何で、討ったんだろう。

「シーン、ちょっといいー?」

頭の痛みが少し引いた気がする。

「シーン、聞こえてるー?洗濯物たたんでほし…シン?ねぇ、シン…大丈夫?頭痛いの、薬いる?横になっとこ、今シーツ持ってくるからね」

いらない、いらないから。
「シン、でもひどい顔だよ。ほら、横になった方がいいって。頭痛薬持ってくるから…シン?」

要らない、要らないから…僕のそばに居て。
雨が嫌いなんだ、あの雨が…雨が僕を。グラグラとする痛みが、また少し止んでいく。同時に、柔らかい感触がする。メイリンがいつも使っているボディソープのにおい。
トク、トク、と心臓が動いている。もっと近くで聞きたい、そうすれば…この痛みも止んでくれる。

「俺は」
「シン、ねぇ…私の声わかる?」
「メイリン」
「うん、大丈夫だから。…よっこいしょっと」

メイリンは俺を抱きしめながら、床に寝そべる。俺もなすがまま、横になった。硬い床、マットが引かれていてもその硬さは変わらない。天井を一度見つめる、最初にここへ来た時から変わらないまま。天井から目を逸らし、メイリンを見つめる…。赤い髪、ルナよりもずっと燃えるような赤い髪だ。
紅色、紅は高貴な色を指す。それでいて、女性を表すって日系の本に書いてあったなぁ。
「ちょっと寒いねー、シン寄ってよ。わたし寒いの好きじゃないんだから」
「…あぁ」
「シン、あったかーい。シンて体温高いよねー、子供体温なーんてね」
苦しさを覚えるくらいに、メイリンを抱きしめる。メイリンも僕を抱きしめた。
落ち着く。…痛みも、もう止まっていた。メイリンは嬉しそうに笑みをずっと浮かべている、僕はその笑みがたまらなく好きだと実感した。改めて、思った。
一度、手を放したくせに。
もう一度手を取るなんて、ずいぶんと…嫌なやつ。でもメイリンは、僕の手をまた握ってくれる…抱きしめてくれる、口にキスもする、身体を預けてくれる。どうしてここまでする子を、手を放したんだっけ。
「シン、雨きらい?」
「きらい」
「そっかぁ。まだ、頭痛い?」
「いや、もう大丈夫」
「よかった。痛くなったら言ってね、今度はベッドで横になっとこ。本当は薬は飲んでおかなきゃダメだよ。
少しは楽になるから、ね?」
「…うん」
ふあ、と小さく欠伸をする。俺もつられて、欠伸をする…大きな口を開けてだ。
腕の中のメイリンは、おっきな口ーとくすくすと無邪気に笑っている。少し、恥ずかしくなったが…そんなの直ぐに無くなった。
「メイリン」
「うん」
「メイリン…。僕は、俺は」

メイリンを、愛していいですか?

「愛してもらわないと困るんだけど。じゃないと、私ずっと一人じゃん」
「やだな。それは」
「嫌だったら、私を愛するって言ってよ」
「愛してる。メイリン、…僕を愛して」
「愛してるよ、シン。…シン、どこでも一緒だよ。ずっと、一緒…晴れの日も、雨の日も、…ずっと」
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