【閲覧注意】 アレクセイ・コノエ×アーサー・トライン


世界はひどく傲慢で、理不尽ばかりとなる。
いつだってそうだ。目の前の敵が嫌いで、だったらどうしてここまで行きついたのか…。もう、誰も解らない。
理由すらも置いてきて、手段が目的に代わってしまった。

「左舷大破っ。イゾルデ一番二番沈黙、右舷ミサイル菅全滅。それにメインエンジン小破および第三エンジン大破、ダメージコントロール急げ!っく…艦長、この船は持ちません!」
アラート音がけたたましく鳴り、手元の画面も真っ赤に染まる。ミネルバでもここまでひどくはなかったが…この船は、ずいぶんともってくれた…。
クルーの退艦を急がせ、艦長…シンの方へと急ぎ向かう。シンはこちらの様子に驚いているが、今は時間がない。
「シン。君に言っておいてはいなかったが、この椅子は君のデスディニーに繋がっている。…解るね」
「ま、まってくれよ副長!…本気、なんですか?」
抗議の声を上げようとするが、こちらの気持ちを察してしまったようで…。しゅん、と先ほどの気迫を失うと、声がか細くなる。死ぬ気はないが、覚悟は出来ている…君はまだ若い、ここで命を散らすのは、僕だけでいい。それに、君が戦場へ出れば勝機は出来るはず…それを踏まえて、君を早めに脱出させた方が良いだろう。
「ただで死ぬ気はない。君も、だろ?…頼むよ、シン!」
艦長席に備えられた脱出シューターのボタンを叩きつける。艦長席はすぐに下へと降り、空洞が出来た。
正常に起動したのを確認し、前方を睨む。
大々的に映し出されたスクリーンには、敵の姿と数が鮮明に映し出され、簡易ながら機体のデータも表示されている。恐ろしいな、ほんとうに戦場は…悪態をつきながら僕は副長席に座り、画面を操作。すべての権限、火器管制、レーダー、オペレート諸々、操作出来るようにする。
使える武器は限られている、…しばらくは付き合ってくれよ。ヴェルダンディ。

「対MS、対艦戦闘用意…」



敵のMSの関節部分から一気に切り落とし、コックピットに向け一突き。続けて取り巻きのMS数基を順々にメインカメラ、武器、そしてコックピットを切り捨てていく。爆発が絶え間なく起きている中、俺はすぐさま落ちていくヴェルダンディへと向かう。
半分ほど火の手が上がっている中、それでも持てる力を振り絞り生き残ったイゾルデを振り、ミサイルと砲台を撃ち鳴らしている。
すると、通信が入る。アグネスからで、開始直後に切羽詰まった声がコックピット内に響く。
『シン!ミレニアムとアークエンジェルが強襲されたわ!今隊長たちが対応してるけど…!』
すぐに回線は切られてしまった。
「はぁ!?アグネス、それってどういう…くそっ」
悪態をつく間もなく、座椅子から警告音と共に流れるまま避ければ、背後からビームが通り過ぎる。
舌打ちを一つ。前方へ向け飛び斜め左から、後ろへ下がるように流れてからビームを数発。次にビームソードを振り、背後のMSたちを残すことなく落とした。ヴェルダンディを改めて見れば、砲撃はもう止んでしまい…持ちそうにない。
すると、一気のMSがブリッジに砲口を向ける。
一歩踏み出しが遅かったためか、引き金が引かれ、ビームは中心を貫通。ブリッジが火の手に飲まれ、焼かれた。

「お前らぁあああ!!!」

パリン、はじける感覚がした。
俺はすぐさま、満身創痍なヴェルダンディへと向けエンジンを飛ばし…ブリッジを打ち抜いたMSを一突き。ソードを乱暴に振り払い、MSの残骸を放り捨てる。ヴェルダンディにとりついていたMSを残像であり分身で一機筒、確実に落としてく。煙が上がり、はじける周囲をかまうことなく進んでいけば…。
煙の中から、わずかに空いた隙間に…副長の姿を見つける。
壁にもたれかけ、煤けた顔と焼かれた軍服。間違いない、この船に残っているのは…副長だけだ。
「副長!」
近くにデスティニーをおろし、コックピット開ける。
こちらに気付いたようで、無理矢理作った笑みで…こういった。

「遅いぞ、艦長…」


「ヴェ、ヴェルダンディ…沈黙」
動揺している、それだけは解っている。あからさまに感情を出しても、その命は帰ってこない。
こんなこと、何度もあったはずだ。だが、…若き命と共に、最愛の人を失うのは…ひどく堪える。無常かな。目の前の敵艦とMSは待ってはくれない、心情なんぞ知ったことではない。
「照準、敵艦へ。取り舵20、下げ舵10。ランチャー1,4『ディスパール』装填、発射」
「左舷にMS10機、右舷さらにMS5機です!」
「迎撃開始。左舷10時、続けて右舷2時照準でき次第発射。リニア砲うちぃーかたよぉーい」
両脇からミサイルとリニア砲によって撃ち落されたMSたちが流れていく。
見るまでもない。ただ淡々と処理をし、目の前の敵が憎たらしく思ってしまうがどのような処遇でもどうでもいい。ムラサメ隊が上空で舞い、フォーメーションを取りながら上に構えていた敵を撃墜していく。
脇に目を向けることはない、目の前の敵が…首であるのだから。
「敵残機残り10、目標イエロー一隻のみ!」
「タンホイザー起動、真ん中をこじ開ける。照準イエロー…てぇー!」
四門のタンホイザーの方向が、残りの船に向け照準が合わさる。目の前の船は戦艦級、大型のためこの四門を使っての攻撃でやっと穴が開く。陽電子砲の近くに居たMS機や小さな船たちが蒸発し、爆発。
目標イエローはわずかに船体をずらし避けたものの、ダメージは大きく大破、と言える。
討ち損ねたか。
「MS反応あり!…デスティニーです!」
アスカ大佐、よかった…生きていたか。確かに早々死なないと思ってしまうも、生存が確認できるのは嬉しいに越したことはない。
「…無用な心配では?」
「それでも怖いものだよ。緊急着艦用意!」
デスティニーがミレニアムのカタパルトを通し、着艦。
「入電!アークエンジェルからです…ヴェルダンディクルーの全員生存確認、このまま敵を無力されたし!」
さて、もう懸念材料はない。
思いっきりできるな。


「気分はどうかね?」
包帯を巻き、傷口を塞ぐ絆創膏を張られたアーサーが目の前に居る。いつもの軍服ではなく、医療用の簡易な服装。落ちたヴェルダンディから命からがら逃げてきて、肌の火傷は免れず、ケロイド痕が見られる。
煤汚れた肌は綺麗に拭われているも、焦げ臭さがあった。
「死ぬかと思いました…でも、また会えましたね」
ふにゃり、といつも通りの笑み。それが今まで以上に、嬉しくもあり愛おしい。
「私は生きた心地がしなかったよ」
そうやんわりとした口調に収めようと必死だ。正直、生きてほしいが故にあのような行動を取るのか。
本来ならば…とマニュアル通りの行動を求めてしまう。マニュアル通りならば、艦長であるアスカ大佐が残ることとなる。アーサーはそれを良しとせず、より生存率が高くなるアスカ大佐を生き残らせるために、船に残ったに過ぎない。
解っているが、気持ちは依然と私情塗れだ。

──今すぐにでも抱きしめたい。

安静にしていないといけない、解っているが…行き場のない気持ちでもだえる。
ジッとアーサーはこちらを見ると、体を起こし手を遠慮がちに広げる。…情けないな、ほんとうに。強くしない程度にアーサーを抱きすくめる。煙の臭いと鉄臭さ、焦げ臭さが入り混じった匂いがいっそう強くなる。
そんな匂いさえ、苦にはならない。
生きている、心臓が規則正しく動いている。それだけで泣きそうになる。私は何も言わないまま、少しばかり力を入れた。

「おかえり…アーサー」
「ただいま戻りました、アレクセイさん…」
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