しぃえす☆第三話《エクストラと名の付くものは大抵ダメ》ゆめvsあにま


 「では対戦カード、最後は決勝戦ですねー。3勝0敗、『ゆめ』さん。同じく3勝0敗、『あにー』さんの対戦となります」
 相田が両者の名前を読み上げると、場に緊張が走る。片やCS優勝経験者、それに相対するは本日大会初参加、初心者中の初心者。両者の使用デッキも相まって、場には異様な空気が立ち込めていた。
 「ハハハ、あどの予想が当たったネ。ここが単なる公認とはいえ、私は《ステージュラ》と決勝で当たるなんて夢にも思わなかったヨ、『ゆめ』だけに?」
 「あ、あにーさん……全力でいかせて頂きます、対戦よろしくお願いします!」
 「よろしくネ、期待の新人さん。アナタの力、見せてもらうヨ」
 全員が席に着いたのを見計らって、試合開始のアナウンスが響く。
 「それでは最終戦、ルールは2本先取。デュエマ・スタート!」
 「「最初はグー、じゃんけん、ほい!」」
 ジャンケンはゆめの勝ち。これは予想通りと先行を譲ったあにまの顔が、手札を見て曇る。彼女の手札は《テック団の波壊Go!》《テック団の波壊Go!》《ジョリー・ザ・ジョニーjoe》《月の死神ベルヘル・デ・スカル》《ロスト・ソウル》。今大会における彼女の初期手札の中では最悪の部類に入る。
 (成程、自分の幸運は裏返せば相手の不運。あっちがブン回るだけじゃなく、こっちは常に事故が起きる。豪運は相手にも波及するか、厄介だネ)
 「……先行貰います。《雪精 フユゲ・シッキY》チャージ、1マナ払って《冒険妖精ポレゴン》。G・0で《妖精の裏技ラララ・ライフ》、マナを増やします。増えたマナで《トレジャー・マップ》、《雪精 ジャーベル》を手札に。ターンエンドです」
 ゆめは1ターン目にして1ブースト、1ドロー、1打点の確保。好調と言うにも都合の良すぎる開幕にあにまは……不敵に笑う。
 「序盤から飛ばすネ、そうこなくっちゃ! 私のターン、ドロー。《テック団の波壊Go!》チャージ、ターンエンド」
 「ターン貰います、ドロー。《Rev.タイマン》チャージ、3マナ払って《雪精 ジャーベル》召喚。マナ武装3の効果で……《武家類武士目 ステージュラ》を手札に加えます。《ポレゴン》でシールドを1枚ブレイク、ターンの終わりに手札に戻してターンエンドです」
 ゆめは次かその次のターンにでも《ステージュラ》を出せる構え。受けが強いとは言え、動きの重いあにまには厳しい展開となる。
 「私のターン、ドロー。《怒流牙 サイゾウミスト》チャージ、エンド」
 あにまは当然動かない。ゆめにターンが移る。
 「ターン貰います、ドロー。《薫風妖精コートニー》チャージ」
 (《コートニー》……色ギミックが入る余地なんてあったかナ? ステージュラでの染色のメリット……)
 ゆめのマナチャージを見て考えるあにま。
 「2マナ払って《桜風妖精ステップル》、1枚マナブースト。1マナ払って《ポレゴン》、G・0で《ステージュラ》召喚、効果でマナの《コートニー》を手札に加えて、2マナ払ってそのまま出します。《ジャーベル》でシールドを1枚ブレイク」
 「はーい。S・トリガー、《テック団の波壊Go!》、助かるネ。効果は……そうネ、5マナ以下全バウンスで」
 「バウンス……あ、手札に戻す、ですね。わかりました、じゃあターンエンドです」
 一時は凌ぐが、盤面には《ステージュラ》が残る。それに、再展開力に長けるスノーフェアリーにバウンスの相性は良いとは言えない。
 「私のターン、ドロー。……《闇鎧亜 キング・アルカディアス》チャージ、ターンエンド」
 「ターン貰います、ドロー。ええと、1、2、3…………《コートニー》チャージ。2マナ払って《ステップル》、1マナブースト。1マナ払って《ポレゴン》、3マナ払って《ジャーベル》」
 (先ドロー案件……言わないでおこうかナ。動きは強くてもプレイはまだまだお子様だネ)
 「マナ武装効果で《ステージュラ》を手札に。G・0、《ステージュラ》を2体召喚。効果は両方使いません」
 これで3体の《ステージュラ》と3体のスノーフェアリー、そして6マナが確保された。順当に攻撃を通せば次のターンにゆめの勝利となる。だが、そんな状況でもあにまの笑みが消えることはない。
 「《ステージュラ》でシールドを2枚ブレイクします」
 「通して……S・トリガー、《獅子王の遺跡》に《波壊Go!》。まずは獅子王から、ブースト……単色かァ」
 あにまのマナゾーンには元々多色マナが3枚。ここで多色カードが捲れれば追加効果が発動したが、見えたカードは《ジョリー・ザ・ジョニーjoe》。大幅ブーストとは至らなかった。
 「まぁ出ちゃったものは仕方ないネ。続いて《波壊Go!》、効果は同じくバウンスモードで」
 「はい、手札に戻します。ターンエンドです」
 「私のターン……ドロー……少し考えるヨ」
 ここに来て初めてあにまが真顔になり手を止める。10数秒の思考の後、再び時が動き始めた。
 「《悠久を統べる者 フォーエバー・プリンセス》チャージ、4マナで《超次元ホワイトグリーン・ホール》。《勝利のプリンプリン》を呼び出して《ステージュラ》1体を止めて、手札からシールドを1枚追加」
 あにまがニヤリと笑い、ゆめの目をしっかりと見据えた。
 「私はターンエンド。さァ、ターンをどうぞ」
 「……!」
 言い知れぬ威圧感。勝っているのは確かにこちらの筈なのに、ここから負ける未来が何故か想像できてしまう。まるで、こちらの思考、それどころか自分も知らない山札の中まで全て見透かされているような──
 「わ、私のターン、ドロー!」
 不安をかき消すようにゆめが行動を始める。雰囲気からしてちょうど佳境を迎えた頃だろうと、他の作業をしていた天戸が様子を見に来た。
 「おやおや、どうですあにーさん……って共咲、ステージュラ3枚並んでるし手札もそこそこあるし。対するあにーさんは未だ5マナで展開ナシ……こりゃ厳しいんじゃないですか?」
 「どうだろうネ? 私は全然負ける気はないケド。なんたって、勝負の世界で最後に勝つのは、ピンチでも余裕ぶって笑う奴って相場が決まってるからネ」
 発言の通り、あにまの態度は余裕そのもの。それも、傍観や自棄によるものではない、『勝利を見ている』余裕だ。
 「ええと、《ポレゴン》……うん、《ポレゴン》チャージ、3マナ払ってマナゾーンから《雪精 フユゲ・シッキY》、2マナ払って《ステップル》、1枚ブースト3マナ払って《ジャーベル》……クリーチャーは手札に加えません」
 「回収なし!? って事は、共咲が持ってるのは……」
 「うんうん、だろうネ。ここまでは良しだ」
 これでゆめの手札は1枚。速攻においてそれは彼の突撃を意味する。
 「マスターG.G.G発動、《轟轟轟ブランド》召喚! マナゾーンに火のカードがないので効果は使えません。《ステージュラ》で残っているシールド2枚をブレイク!」
 「……フフ、流石はゆめチャン。本当に《轟轟轟》を持ってくるとは驚いたヨ。私が埋めたトリガーは1枚、それだけじゃこの盤面はもはや返せない……このカードを除いては」
 《ホワイトグリーン・ホール》で仕込まれたシールドが開放される。その中に眠るのは、今だけは『遅く』撃ちたかったこのカード。
 「Take it(これでも喰らいな)──S・トリガー、《オリオティス・ジャッジ》。さっき《フユゲ・シッキ》を出して減ったマナ、合計枚数は何枚かナ?」
 「え……? 1234、5、6……7……」
 そう。元は8枚あったはずのマナゾーンのカード。このまま攻撃すれば《ジャッジ》は不発。……だが、無駄な焦燥感がゆめの感覚を狂わせた。できるだけ高パワーのクリーチャーを。デメリットのないクリーチャーを出さなければ、という不必要な考えが弱点を作り出す。
 「それじゃあ、7コスト以上のクリーチャーにはお帰り願おうかナ。その3枚の《ステージュラ》と《轟轟轟》、ああ、ついでに私の《プリンプリン》もだネ」
 「……ターン、エンドです」
 「フフフ。私のターン、ドロー」
 圧倒的な逆転劇。自分の波に乗ったあにまを止められるプレイヤーは居ない。
 「《ロスト・ソウル》チャージ。6マナ、《ハムカツ団の爆砕Go!》。全破壊して、ターンエンド」
 あれ程に圧倒的だったゆめの勢力は、一瞬にして無に帰した。
 「くぅ、私のターン、ドロー……」
 「……ここからでも共咲の運なら、上から《轟轟轟》を捲って……」
 「無理だネ」
 あにまが天戸の方を向き、きっぱりと言い切る。
 「あんな顔してる子に幸運の女神は振り向いてくれない。潜在的な所に『流れ』ってモノは確かに存在してて、ゆめチャンはたった今自分でその流れを放棄してしまった。私が無根拠な自信で流れを拾ったのと同じように。結局の所、諦めが一番の負け筋ってネ」
 ゆめにはもうどうする事もできない。ただ、山札の並びを信じるのみ。
 「《Rev.タイマン》をチャージ。3マナ払って《ジャーベル》、効果で……《ジャーベル》、そのまま出します。更に効果で……《コートニー》、出してターンエンドです」
 「ほらネ? 私のターン、ドロー。《飛散する斧 プロメテウス》チャージ、3マナで《謎帥の艦隊》。全員手札に戻して、2マナで《裏切りの魔狼月下城》、全て捨てさせてターンエンド」
 またも全面処理。こうなってしまえば誰も太刀打ちできない。
 「ドロー、《桜風妖精ステップル》。1マナブーストして、ターンエンドです」
 「私のターン、ドロー。《クリスタル・メモリー》チャージ、8マナで《煌メク聖壁 灰瞳》、効果でシールドを5枚追加……」
 「……《時の秘術師 ミラクルスター》……」
 「……《大革命のD ワイルド・サファリ・チャンネル》と《無双と龍機の伝説》……」
 「……《謎帥の艦隊》、マナから《ジョリー・ザ・ジョニーjoe》。特殊勝利で私の勝ちと」
 「ぐ、ぐうぅぅぅ…………」
 逆転からの完封負けに唸るゆめ。あと一歩までいっていた、というのが悔しさを倍増させる。
 次の試合も粘ったあにまがフィニッシャー圏内に持ち込み勝利。最終戦はあにまのストレート勝ちで終わりを迎えた。
 「「対戦、ありがとうございました」」
 試合を終え、互いに一礼。
 「あにま先輩、すっごい強いですね……1度も勝てないとは……」
 「ハハハ、褒められると照れるヨ。もう少しで負けるか負けないかの所を何回もやらされるから、こっちは内心ビクビクだったって言うのにネ」
 そう言いつつもあにまは全く態度を全く変えない。マイペースこそ彼女の武器と思い知ったゆめは複雑な気分になる。
 「あ、そうだ。優勝景品のデッキケースとパック、アレ半分ゆめチャンにあげるから」
 「あ、ありがとうございます……えぇ!? 本当にいいんですか半分も!? 私勝ってませんよ!?」
 あにまはうーん、とわざとらしく考えるふりをした後、悪戯っぽくウィンクした。
 「まぁ、あのデュエルは実質ワタシの負けみたいなものだったし。それに、本来ここはワタシの来る場所じゃないから、ネ?」
お知らせ
実務でも趣味でも役に立つ多機能Webツールサイト【無限ツールズ】で、日常をちょっと便利にしちゃいましょう!
無限ツールズ

 
writening