最弱のサキュバスと最強の男


「おいしそうなにおいだな」
屋根の上に腰を下ろした一人の少女がにやりと笑みを浮かべる。
「こんなにおいしそうなにおいがするものがここにはあるのに、
 お父様は危ないから家から出るなって大げさなんだよな」
少女はふと家を出る前の父との会話を思い出す。

「お父様。サキュバスは人のせーえき?を食べる悪魔だと聞きました。
 私もサキュバスです。
 私も外の世界にいかせてください」
「ならぬ。ならぬぞ。カガリ」
カガリの言葉に彼女の父は眉をひそめ、そう返す。
「お前にはまだ早い。それにお前の身体はそれを必要とはしていないだろう」
その言葉にカガリは言葉をつまらせる。
たしかにカガリは一度も狩りをしたことがない。
サキュバスとして必要な生命活動分のエネルギーは
キサカやエリカといった周りの仲間からもらっている。
だが同世代のサキュバスの友人たちは、
すでに初めての”狩り”を成功させている。
サキュバスとして置いて行かれている。
カガリは焦燥感に駆られていた。

そんなカガリは父の言いつけを破り、
人間の世界を訪れていた。
父に与えられた世界では決して嗅ぐ事のできない、
とても甘美な香り。
カガリはこの先の”狩りの予感”に心を躍らせる。

カガリはおいしそうな香りのする方へ飛び続け、
においの正体の許可もとらずに、
その家の中へと侵入した。
カガリの視線の先には、
一人の男がすやすやと眠っていた。
見た目の年齢はサキュバスである自分と変わらないくらいだろうか
カガリは男の姿をしばしながめたあと、
”狩り”をするために男に近づいた。

「誰だ!!」
「え!?」
近づいた瞬間だった。
カガリの耳が自分以外の声をひろった瞬間、
腕をつかまれ、カガリは男に身体を押さえつけられていた。
「女・・・?」
カガリを押さえつけていたその男は、
カガリの姿に気づいたのかそう声を漏らす。
「女の物取りとはな・・・
 どうやって入った?」
男の冷たい声が聞こえた。
「もの・・・とり・・・?」
自分は”狩り”をしにきただけのはずなのに、
どうしてこうなっているんだろう・・・
カガリは涙目になりながら、男を見上げた。
「・・・っ」
そんなカガリの姿に男は言葉を失い、
カガリから身体を動かすために足をずらす。

そんなときだった。
「きゃぅっ」
「え!?」
男がカガリから身体をどかすためにうごかした膝が、
カガリのサキュバスとして生えている尻尾の先をかすめた。
尻尾に男が一瞬ふれただけでカガリの身体に電撃が走り、
カガリはそのまま気を失ってしまった。
消える意識の中カガリが一瞬だけ見たのは、
カガリの突然の甘い声に、
宝石のような緑の瞳を見開き、頬を赤く染める男の姿だった・・・
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