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「科学は熱狂と狂言に対するすぐれた解毒薬である」
─アダム・スミス「国富論」より抜粋─


◇トレセン学園 とある空き教室

「ふむ…不随意筋が随意筋になるとは…マッスル・コントロールの精度を上げる実験の第一歩としては中々の成果だねぇ」

アグネスタキオン、蓋世不抜の競技者にして自身の顔見知りとトレーナーに対し平然と投薬実験を行う危険人物の視線の先──

そこには象形文字のような体制で床に伏す彼女のトレーナーがいた

・か、体が…

「どうだい、全身を意のままに動かせる感覚は?
ステロイドの過剰投薬について調べていたら一昔前の面白い動画を見つけてね
それを参考に新しい薬品を作ってみたんだ、全身の筋肉が一瞬で膨張・収縮するなんて刺激的でファンタスティックだろう?
残念なことにその動画の薬効は一時的なドーピングだったのだがね…惜しいことだよ」

・さ、最近こんな感じのクスリを作るペースが速くなってないか…?


彼女が大きな決断をした日──己の足に爆弾を抱えながらも夢を追うと決めたその日から、科学者アグネスタキオンの実験はその頻度を劇的に増していた


「"こんな感じ"というのが何を指しているかの議論は置いておくとして…
当然だろう? 最近になってキミの業務効率が跳ね上がっているのだからねぇ」

・えっ?

「やはり無自覚だったようだねぇ
『科学とは狂信と熱狂に対するすぐれた解毒薬である』という言葉が存在するが…
キミは私の科学と走りに触れる度にその狂信と熱狂が深まっている
そのおかげで私が新しい研究に割ける時間が増えるほど仕事に力が入るのだから…
まったく、あいも変わらず筋金入りのモルモットだねぇキミは」

・そ、そうだったのか…

自分のおかげでタキオンの研究が活発になっていることへの喜びと、この状況がある種の自業自得であることに複雑な感情を覚える

だが…


・それならもっと実験をしてくれるか?

「……フフッ
言われなくともそうするさ
狂いに狂ったモルモットくん」

その言葉に含まれているのは呆れと、信頼と、そして自笑

タキオンの視線の先には自分に狂ったモルモットの目と、そこに映るウマ娘がいるのだから

速さの先の先、自分の夢見たその領域に、自分で到達せずにはいられない、どうしようもないウマ娘が

募り続ける狂いと毒
それを止める解毒薬(カガク)はまだ、無い
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