始まりの物語


 これは、人類が文明を築く前の、原初の大地母神とヌオーの物語。

 遥か昔のこと、母神は竜種という、有望な霊長が絶滅したことによる精神的な痛手から立ち直れていなかった。
母神に残された時間を考えれば、竜種以上に有望な霊長が生じる可能性は極小だった。
自身の悲願である『星より生まれし命が、星々の大海へと旅立つ時を見る』の達成は事実上不可能である。

 なんの責務も役割も持たない可能性だけの生き物を産み出そうと考えたのは、母神がそんな諦観を抱いていたからだろう。
母神の諦観より産み出された生命体、それが最初のヌオー達、“はじまりの六ヌオー”だった。

 ヌオー達は好奇心旺盛で、生命や山々、星を観察したり、大地や河川や海で遊んだりしていた。
この頃には、食べた生命体を弔っていたそうだ。
そのようなヌオー達を、母神は優しく見守り、時には端末越しに触れあった。
ヌオー達も母神を慕っていたという。

 そうした生活を長いあいだしていたヌオー達の転機は、石器を作っている人類との接触であった。
ヌオー達は、石器製作の風景に目を輝かせて、人類との交流を始めたのだという。
人類とヌオー達の交流は、意外に平和的だった。

 ヌオー達が人類に食糧の提供や、人類を天敵である幻想種から庇護したことが主な原因ではないだろうか。
ヌオー達は人類から石器作成をはじめとしたさまざまな技術を学んだが、もともとそういう機能が無かったので習得には苦労した。

 真面目なヌオー達は膨大な時間を費やして、それらの技術を習得した。
おそらく、数千年以上はかかったのだと思われる。
個体としての人間には不可能な、この技術の積み上げが、後のヌオーの超技術につながったと考えられる。

 ヌオー達は、短い時を精一杯生きる人間達を敬愛していた。
だからこそ、人類に影響されて、ソラの彼方に興味を抱いたのだろう。

 ヌオー達は地上から星を観察するより、星に直接行って調べた方が確実だと判断し、最初の“星舟”の作成を開始する。
母神はヌオー達に、『お前達には、まだ早すぎる』と否定的だった。

 “星舟”の作成は難航した。
空を飛ぶのに数千年。
大気圏の離脱に数千年。
舟が空中爆散したりといった危機を乗り越えて、月に辿り着くにはさらに千年かかったという。
 なお、“月の王”はヌオー達を歓迎して、盛大にもてなした。
ヌオーも、それに感謝して、さまざまな物を贈与したのだとか。

 とはいえ、月に辿り着いて以降は、加速度的に“星舟”の改良は進み、太陽圏を問題なく航行できるようになるのには千年もかからなかった。
母神はヌオー達の快挙に喜びつつも、どこか寂しさを抱き始めていた。

 “星舟”作成から合計で1万年以上の月日が流れ、ついに最初の“星舟”が完成する。
ヌオー達はようやく舟に光速の壁をこえさせる手段を編み出し、星々の旅に漕ぎ出す準備が出来たのである。
母神はついに、この時が来たのだと感無量だったが、ヌオー達にとっては最初の航海でしかなく、見てきた物の感想を伝えに戻ってくるつもりだった。

 星々の大海での旅は、初期の“星舟”では無謀なほどに危険な旅路だった。
ヌオー達は、想像を絶するさまざまな光景を見た。
底無しの昏い重力の穴、恒星が死を迎える瞬間、太陽並みに巨大な宇宙生物、“星喰い”の巣。
恒星をエネルギー源に動く、測定不能なほどに超巨大な機械。
“根源”への接続を科学技術で達成した超文明。
肉体を捨てて、高次元の全能者になった精神生命体達。
恐るべき宇宙を、味わったヌオー達は、いったん地球に帰って、次の航海の準備をしようと考えた。
帰還の途でも、さまざまな冒険があった。
いくつかの星間文明に捕獲されかけたり。
別の宇宙からやってきた、名状しがたい生き物に追われたりもした。

 数々の苦労の末に、ヌオーは地球に帰ってきた。
この時、ヌオー達は青く輝く星の姿に涙が止まらなかったという。

帰還したヌオー達を母神は、大喜びで迎え入れた。
実はヌオー達が心配で心配でたまらない星は、大権能による根源への接続を通じて、ヌオー達の旅を見ていたのである。
危機に次ぐ危機の連続に母神は、ハラハラしていた。
だからこそ、ヌオー達に再び直接触れた時は、安堵したのだ。

 ヌオー達より語られる、旅の思い出は母神を感動させた。
見ていたから知っているとはいえ、ヌオー達から直接聞けば味わいも違う。
……母神は気づいていなかったが、母神のヌオーへの執着は抑えきれないほどに巨大なものになっていた。

 ヌオー達は、星々の大海への旅路の経験を活かし、“星舟”の改良を行い、もう一度航海へ出かけようと考えている旨を母神に伝えた。

 母神は思考する。
ヌオー達ならばいくどか航海をすれば、もうこの星に戻ってくる必要は無くなるだろう。
だが危険な航海で、ヌオー達を失ってしまうかもしれない。
いや、どちらにせよ、母神(わたし)は置いていかれる。
……理性は上記の思考を否定し、ヌオー達の旅立ちを祝福しようとしたが。
出力された行動は、ヌオー達の旅立ちへの拒否と、“星舟”の徹底的な破壊だった。

 正気に戻った母神は、自身の愚行に戦慄する。
母とも慕う星の凶行に、驚いていたヌオー達だったが、その行動が寂しさゆえだと理解し、最後まで星に寄り添うことを約束した。

……母神はヌオー達の可能性を閉じた、自身の罪深さと彼らの優しさに涙した。
それが始まりの終わり、セファール襲来以前の“はじまりのヌオー”達の物語。

余談
原初の大地母神と“はじまりの六ヌオー”とのあいだに結ばれた、“ヌオーは星に殉じる”という契約は、ヌオー國での原罪浄化の影響でだいぶ効力が落ちている。
“はじまりの六ヌオー”に近いヌオーは星を離れられないのは変わらないだろう。
しかし普通のヌオーは、星々の海を旅できるようになった。
ひょっとしたら、遠くない未来、人類が星々の大海へ旅立つ時にヌオーが付き添っているのかもしれない。
原初の大地母神は、その時を夢見る。

人物解説

 “母神”
 原初の大地母神の略称だが、彼女は地球の頭脳体である。
ゆえに、地球においては全能と言えるほどの権限を有している。
ヌオー達を産み出したのは気まぐれだったが、温和で努力家な彼らにいつしか絆されていた。
あまりにも愛深き存在であり、地球の生物が精一杯生きた果てならば、地球の死すら許容してしまう。

 そのような存在が、個を愛してしまえば、どうなるか。
結果は、ブラックホールの如き独占欲を発揮して地上から離さなくなる。
彼女自体はヌオー達への所業を大いに恥じており、彼女より派生した大地母神達にもそれは引き継がれている。

 人理修復に対しては、主人公達の勝利を望んでいるが、干渉は極力しないつもり。
せいぜいが、ヌオー達をカルデアで召喚できるようにするとか、ヌオー達にスキル単独顕現Dを付与したり、アーキタイプアースの派遣くらいだろう。

 “星舟”
 超光速で星々の大海を駆ける舟。
全長は300mほどだったという。
装甲材質は、後に作成した水晶髑髏と同じORTの外殻を参考にした、植物と鉱物の性質を持ち熱くて冷たい謎物質である。
この性質により、装甲の性質を適時変化させつつ、強度を保つのだという。

 動力は、疑似太陽であり、上記の装甲の中でもとくに出来の良いもので覆っている。
また星々の大海に潜む脅威への対処に必要であろう、無数の宝具級の道具や、新規に道具を作製するための工房もついている。

 もっとも上記の性能でも、無謀だったとヌオー達が述懐するほど、型月世界の宇宙は過酷らしい。
原初の大地母神に木っ端みじんにされたが、カルデアに六ヌオー達が揃えば宝具として召喚可能。
ただし本人達に召喚を頼むと、黒歴史なので、より出来の良いのを頑張って作るから待っていてくれという返答が返ってくる。

“月の王”
 “はじまりの六ヌオー”達のことは旧友として、大事に思っている。
それと同時に、星の呪縛から解放し、自身の臣下にしたいとも目論んでいた。
そのため、星そのもの以外にも、ヌオー達にもなんらかの謀略を仕掛けたと推察される。
宿敵である“魔道元帥”にも、それがなんなのかわからないので、ヌオー達をそれとなく注視している。
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