世界一のお宝
作成日時: 2023-12-02 00:07:49
公開終了: -
「黒髭ってヌオーのこと嫌いなの?」
「いいえ、全然!嫌いどころかむしろ大好き!いや、大好きを超えてもはやLOVEですぞ!」
「うそだぁ」
世界を救う我らがマスターが拙者に対してそう言うので拙者自分の気持ちをありのまま言ったのにどうやら信じてもらえない様子!
なんで!?
拙者ほどヌオー大好きっ子な海賊はこの世にいないというのに!!
「大好きならどうしてあんなにヌオーたちのこと避けるの?」
マスターの言う通り、拙者はヌオーのことを避けている。
部屋に入ってヌオーがいたら、視界に入った瞬間に回れ右して出ていくほどに。
それはまさに普段なんとも思っていなかった隣に住む幼馴染の魅力にふとした瞬間気付いてしまい、どう接すればいいのかわからなくなってしまったラブコメ主人公のごとく!
「それに生きてる時もヌオーのこと結構雑に扱ってたみたいなこと歴史に書いてたよ。だから黒髭ってヌオーのこと嫌いなのかなって」
「まぁ……たしかに他の国の神話とかの扱いに比べたらかなり雑ですなぁ」
他の国では神だったりするから、ヌオーはそれはそれは大切に扱われている。
それはまさに屋敷に籠りがちな病弱なお嬢様系ヒロインのごとく!
それに比べて、生前の拙者はヌオーを船の一室に閉じ込めてあまり外には出さなかったし、出したとしても自由にはさせなかった。
それはまさに大好きな彼を部屋に閉じ込めて独占しようとするヤンデレ系ヒロインのごとく!
「ときにマスター。拙者の弱点ってなんだと思います?」
「どうしたのいきなり?」
「いいからいいから、適当でもいいから答えてちょうだい」
いきなり弱点を聞かれて不思議そうにするマスター。
これも拙者がヌオーを避ける理由を言う前振りだと思って。
「えっと……股間?」
「それは拙者だけじゃなくこの世の全ての男の弱点ですぞ!!」
まさかの答えに拙者の股間がヒュンとしましたぞ!
「んもう!そういうことじゃないってば!」
「えー、じゃあなんなの?」
もうちょっとこのやり取りしてもいいけど、すごい面倒くさそうにしてるからさっさと言ってあげますかな。
「それはね……愛ですぞ」
「……はぁ?」
「え、なにその反応?」
胸の前でハートマークを作って完璧に決まったはずなのに信じられないって感じの反応されたんですが。
「だって黒髭って愛とは無縁の存在じゃん」
「さすがにそれはひどくない?」
たしかに女の子サバからは避けられがちな拙者ですが、それはきっとみんなが素直になれないだけなのです!
それはまさに大好きな彼に素直になれないツンデレ系ヒロインのごとく!
「まぁ……拙者もヌオーに会うまで愛なんてくだらないって思ってましたからなぁ」
ヌオーに出会うまでの拙者は愛なんてくだらないって思っていた。
それはまさに仲間なんてくだらないと言って一人で戦う一匹オオカミ系ヒロインのごとく!
「マスターは信じられないかもしれませんが、拙者はちょっと欲張りなんですぞ」
「……ちょっと?」
なんか信じられないって感じのマスターですがここは華麗にスルーしていきますぞ。
「拙者、世界中の財宝が欲しいし、美味いものが食べたいし、女の子にはモテたいし、なにより自由でいたい!だから海賊になったんですぞ!」
我慢して生きるなんてまっぴらごめんだった。
だから海賊になった。
「なのに……あいつに出会っちまった」
あいつに会った時の光景は今でも鮮明に思い出せる。
敵船から奪った宝の地図にあった島。
そこにあいつはいた。
「あいつを一目見た瞬間に思っちまった。『見つけた』ってな」
世界一のお宝だと思ってしまった。
今まで手に入れたお宝は全部ガラクタだったんじゃないかと思ってしまうくらい。
「こいつと一緒にいられるなら無一文になってもかまわない」
世界中の宝が欲しいと思っていた俺が。
「こいつと一緒にいられるなら残飯しか食えなくてもかまわない」
美味い飯を腹一杯食いたいと思っていた俺が。
「こいつと一緒にいられるなら他の誰からも愛されなくてもかまわない」
美女を侍らしていた俺が。
「こいつと一緒にいられるなら奴隷になってもかまわない」
自由に生きたいと思っていた俺が。
「そう……思っちまったんだよ」
そう思っちまった。
海賊であるこの俺が。
「だから、あいつを閉じ込めた。俺が俺でいられるように、誰にも奪われないように」
一緒にいたら俺は俺じゃいられなくなってしまうと思った。
一緒にいたいのに、一緒にいるのが怖いから。
あいつを誰かに奪われるのが怖かったから。
財宝を宝箱にしまうように、俺はあいつを部屋に閉じ込めた。
「愛したいのに、愛せなかった」
あいつを愛したかったし、あいつに愛して欲しかった。
だけど、愛してしまったらきっと俺は俺じゃいられなくなっちまう。
「それはまさに素直になれないツンデレ系ヒロインのごとく!」
大好きな彼に素直になれずについキツくあたってしまうツンデレ系ヒロインのごとく!
「いやぁ!まさか拙者がヒロインポジになりかねないとは思いもしませんでしたぞ!」
海賊系ヒロインティーチちゃん!
これはラブコメ界に新たな歴史を刻んでしまいますぞ!
「拙者!主人公になってヒロインたちとのハーレム作りたいので、拙者をヒロインにしかねないヌオーのことが大好きではありますが、苦手ではあるのでついつい避けてしまうのですぞ!」
それはまさに大好きな彼の後ろを物陰に隠れながら追ってしまう照れ屋系ヒロインのごとく!
「なので拙者とヌオーをあまり会わせないようにしてもらえると助かりますぞ!」
「あー、うん。わかった。気を付けるね」
なんかすごく微妙な表情をしてますが、マスターのことだから気を付けてくれるでしょ!
こんな拙者のことも大切にしてくれるマスター。
拙者、思わずヒロインになっちゃいそう!
「うわっ!今なんか寒気がした!」
「どうする?ナイチンゲール呼ぶ?」
「絶対やめてよ!」
彼女を呼んだらなんやかんやで拙者も巻き添えになりそうだからやめときますぞ。
「ま、そういうことで気を付けてくだちい」
そう言ってマスターと別れる。
このままだともっと情けないことを言ってしまいそうだった。
「言えるわけねぇよ……あいつのことを忘れたくねぇなんてよ」
きっとヌオーたちは俺にも普通に接してくれるんだろう。
それで満たされてしまったら、今はいないあいつのことを忘れてしまうんじゃないかと怖がっているなんて。
「あーあ、本当!ヌオーは怖い生き物ですなぁ!」
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