ドキドキするのは俺ばかり


「ミャーちゃんは可愛いな。ウチはお転婆ばかりだから、ミャーちゃんに会うとお姫様に会ったみたいな気分になるよ」
「いえ、そ、そんなことありませんわ、私なんて全然…はぅ」

顔を真っ赤にしながらウチの親父に頭を撫でられてるのは、幼馴染のお姫様。
親父からすればオギャーって泣いてる頃から知ってる可愛い可愛い女の子なのだろう。
いやいや、アンタにとっては擦りむいて泣きべそかいてアンタに抱き付いてた『可愛いミャーちゃん』かもしれないけど、そいつもう15歳よ?プラント的には成人で結婚可能年齢よ?
そこんとこの自覚が根っこがオーブ人の親父にはイマイチわかってないらしい。文化の差って凄いわ。
で、照れ屋で奥ゆかしい可憐なミャーちゃん(親父談)は、親父の手の感触を存分に堪能している。
え?恥ずかしいから固まってるんだろって?
アレがそんなタマかよ。
よく見ればわかるが、親父に向けて頭を差し出してるのはアイツの方。
恥ずかしいなら逃げればいいのに、親父に撫でて欲しくてジリジリと間合いを詰めてさえいる。

「ゆっくりしていってね?帰りが遅くなるようならウチの使えばいいし、泊まって行ってくれてもいいからさ」
「ハイ!」

まぁ、いいお返事。

親父は今度もらう勲章の授与式についてお呼ばれとのこと。
キラさんやアスラン師匠と違って戦うこと以外なーんも出来ない親父は今も現役バリバリ。
てか、見た目からしてアンタいくつよ?ってくらい元気元気。親父が派遣された戦場の敵が気の毒なくらいだ。(アンタのデスティニー何年もののロートルなのかわかってる?)

そんな親父を新妻のように見送ると、さっきまでのトロトロに蕩けた顔が一転してスンと澄ました顔になる。

「ねぇ、今日はね、私シンおじ様に私手料理を振る舞いたいの」
「おうおう、存分に振る舞え」
「食材リストと売ってるお店は調べてきたの」
「準備がよろしいことで」
「だから、お願いね」

ポイっと投げて寄越してきたのはバイクの鍵。
てか、俺のじゃねーか。
コイツ、勝手に人の部屋に入りやがったな…?

「ヴァンちゃん、お願いしますわ♪」
「……聞きもしない訳な」


「つーかさ!!」
「なぁ〜に?」
風の音に負けないように、声を張り上げる。
「お前、昔からあんなんだっけ?」
「え?なに?聞こえない!!」
「昔から!あんなんだっけ!!親父に!!」
俺の腰に回した腕に力が籠る。
「知らないよぉぉ!!気付いたら、顔が見れなくなったのぉーー!!」
こっちも負けじと大声。
バイクに乗ってんだから仕方がないけど、コイツが大声出すのを見たことがある奴なんてコイツの親と兄貴達以外なら俺くらいじゃね?
なんて思ったりする。

「なんだよ、それー!!」
「だって!!おじ様といると、ドキドキするんだもーん!!仕方無いでしょー!!!」

あー、そうね、お前のあの照れ顔は演技じゃないもんな。
キラさん譲りのグータラと、ラクスさん譲りの笑顔の押しの強さを兼ね備えたこの暴君は、親父の前だけでは借りてきた猫のようになる。
それもここ数年。
元々猫被ってはいたが、被り物が本物になっているという訳だ。
恋ってやつは凄いな全く。

んでもって、俺の腰に回す手にも、背中に押しつけられてる申し訳程度の膨らみも、躊躇なんざ一切無く、心音も至って平常だったりするのも、つまりはそういうことだ。正直というかなんというかねぇ。

「ヴァンちゃん、何かテンション上がってる?心臓がどくどくいってるよーー!!」
「……うるせー!!こき使われてる怒りのせいだバカヤローーー!!!」

ホントに恋ってやつは凄い。
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