題名:ホワイトライフ 白い髪の二人と、果てしない道の先 作者:草壁ツノ
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<登場人物>
ライフ:不問 研究所によって生み出された男性。トーハとは強い繋がりがある。力自慢。
トーハ:女性 研究所によって生み出された女性。ライフと傷を共有する体質と、瞬間移動出来る能力を持つ。
マッド:不問 研究所からの追っ手。男性。研究所から逃げ出した2人を追いかけている。
N:不問 ナレーション。
露天商:不問 街で薬を売っている商人。
兵士:不問 街でライフとトーハを取り囲む兵士の1人。慌てて発砲してしまう。
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<役表>
ライフ:不問
トーハ:女性
マッド:不問
N:N露天商+N兵士:不問
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■注意点
・ライフの台詞で一部叫ぶようなシーンがあります。
・トーハの台詞で一部叫ぶようなシーンがあります。
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■利用規約
・過度なアドリブはご遠慮下さい。
・作中のキャラクターの性別変更はご遠慮下さい。
・設定した人数以下、人数以上で使用はご遠慮下さい。(5人用台本を1人で行うなど)
・不問役は演者の性別を問わず使っていただけます。
・両声の方で、「男性が女性役」「女性が男性役」を演じても構いません。
その際は他の参加者の方に許可を取った上でお願いします。
・営利目的での無許可での利用は禁止しております。希望される場合は事前にご連絡下さい。
・台本の感想、ご意見は Twitter:
https://twitter.com/1119ds 草壁ツノまで
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N:果てしなく続く道の上を、二つの影が歩いていた。
一人は、背の高い青年、そしてもう一人は、彼よりも頭一つ小さな少女だった。
トーハ:「ねえ、ライフ?」
ライフ:「どうしたんだい、トーハ」
N:ライフと呼ばれた青年と、トーハと呼ばれた少女。
彼ら二人に共通しているのは、人間味の無い、白い髪と白い肌。
そして、その眼窩にはまった、宝石のような赤い瞳だった。
トーハ:「今度はどこへ行くつもりなの?」
ライフ:「実は、特に何も考えていないんだ」
トーハ:「そっか......でもさ。なんか良いよね。こういうのって」
ライフ:「なにがだい?」
トーハ:「目的のない旅。私そういうの好きだよ。だってほら、なんだか、自由って感じがするじゃない」
ライフ:「(笑う)......そうだね、確かにそうかもしれない」
トーハ:「そうでしょ?」
ライフ:「あ、そうだ。トーハ」
トーハ:「なに?」
ライフ:「今はまだ無理だけど、この旅が落ち着いたら......二人が行きたい場所に行こう」
トーハ:「良い考えね、それ」
ライフ:「トーハはどこか、行きたい場所はあるかい?」
トーハ:「行きたい場所かぁ......そうだ。ねぇライフ。それなら私、雪が見てみたい」
ライフ:「雪?」
トーハ:「そう。雪って私たちと同じで、白くて綺麗なものなんだって。前に本で読んだの」
ライフ:「......雪、か。いいね。それじゃあこの旅が落ち着いたら、二人で雪を見に行こう」
トーハ:「うん。約束だからね」
N:二人は互いに、自分の手首の傷に触れ、そして微笑んだ。
ライフM:僕たちが普通の人間とは違うことを、生まれた時から知っていた。
なぜなら、僕らが生まれたのは試験管の中だから。
研究所で培養され、人間でありながら、特別な力を持った者を生み出そうとした結果が、僕たちだ。
トーハ:「......」
ライフ:「.......トーハ。君、今僕に隠し事をしているだろう」
トーハ:「なにも隠していないわ」
ライフ:「......僕らは二人で一つだって、いつも言っているだろう? 君が隠したところで、僕には分かるんだ」
トーハ:「う......」
ライフ:「ほら、早く足のケガを見せて」
N:ライフが促すと、トーハは足首を彼に見せる。すると、薄く出来た傷跡から血が僅かに滲んでいた。
ライフ:「もしかして、さっき野犬に襲われた時かい? 駄目じゃないか、隠していたら」
トーハ:「だって、ライフ。私がケガしたらすごく心配するじゃない」
ライフ:「当たり前だろ」
トーハ:「.......そうだよね。ごめん。私の傷もあなたの傷だものね」
N:トーハはライフの足元にしゃがむと、同じように、彼の足首に目を向けた。
不思議なことに、二人の同じ体の部位に、傷跡が出来ている。
トーハ:「私よりも大きな傷じゃない......痛くない?」
ライフ:「平気だよ。僕は、君よりも痛みに鈍いから」
トーハ:「でも気を付けないとダメよ。幾らライフが痛みに鈍いからって、放っておいたら大変な事になるんだから」
ライフ:「(笑う)それは僕の台詞だよ」
N:ライフはトーハと比べ、生まれつき痛みに対しての反応が鈍かった。
彼らはお互いの足元に粗末な布を撒き、簡易的な止血をした。
トーハ:「次の街に着いたら、ちゃんと薬を買って手当てしないとね」
ライフ:「そうだね。薬はトーハの分だけ買おう。薬代も馬鹿にならないし」
トーハ:「ダーメッ、薬は二人分買うの!」
ライフ:「けど......」
トーハ:「いいの! はい、この話はこれでおしまい。分かった?」
ライフ:「(溜め息)......はいはい。トーハはあいかわらず、一度言ったら聞かないんだから」
N:二人はそんな話を交わしながら、白く長い道のりを進んでいく。そうして道の途中に現れた街へと立ち寄った。
※シーン切り替え
トーハ:「おじさん。この塗り薬と、そっちの消毒液。あとガーゼを貰える?」
N露天商:「あいよっ、まいどあり。お嬢ちゃん若いけど、医者かなんかかい?」
トーハ:「(笑う)......そんなところです。それじゃ!」
N:トーハは露天商の男性にお辞儀をすると、薬一式が入った紙袋を抱えてライフの下に駆け寄る。
それを見たライフが立ち上がり、彼女を迎えようとしたところに、何者かが割り込んできた。
マッド:「(笑う)――こんなところに居たのか。まったく、随分と探すのに苦労したよ」
N:背の高い、眼鏡をかけた男性である。トーハがその姿を見た途端、明るかった彼女の表情は強張り、青冷めた。
ライフはその男の姿を確認するや否や、急いでトーハの下に駆け出した。しかし。
ライフの道を塞ぐように武装した兵士が現れ、近付くことは出来なかった。
トーハ:「う、......あ......」
マッド:「どうした? しばらく会わないうちに、生みの親の顔を忘れてしまったのか?
それとも......(笑う)言葉を忘れ、本当の化け物になってしまったか?」
ライフ:「くっ......おい、邪魔をするな! トーハ! 逃げろ、トーハ!」
マッド:「(溜め息)やれやれ、まったくうるさいモルモットだ」
N:そうマッドが呟くと、不敵な笑みでトーハの方を振り返った。
マッド:「――さて。研究サンプル《662》。外の世界は楽しかったかい? もうケージに帰る時間だよ」
トーハ:「い、いや......私は......もう、あそこには帰らない」
マッド:「(舌打ち)......躾(しつけ)がなってないようだな。ムチでもくれてやらないと言う事を聞かないか?」
N:苛立つ男の背後で、住民のどよめきが起こった。勢いよく宙に弾き飛ばされた兵士たちが地面の上に転がる。
ライフ:「トーハから離れろ、この腐れ野郎!」
トーハ:「ライフッ!!」
マッド:「おお、研究サンプル《661》。相変わらずの馬鹿力だな。元気にしていたか?」
ライフ:「お前と交わす言葉なんて何もない......トーハ、こっちへ来るんだ」
トーハ:「う、うん......」
N:自由になったトーハがライフの元へと駆け寄る。マッドはわざとらしい素振りで、二人に言葉を投げかけた。
マッド:「......やれやれ、まだ反抗期か? 生憎と私も忙しいんだ。これ以上子供の遊びに付き合ってる暇は無い」
ライフ:「こっちだって、あんたに付き合うつもりはさらさら無いさ。トーハ、頼む」
トーハ:「分かった、任せて......」
N:トーハが目を閉じると、彼女の背中から突如として白く大きな翼が生えた。
彼女はライフの手を取ると勢いよく上空へと舞い上がり、そのまま遠くの空へと飛び去って行った。
マッド:「(笑う)......ああ、いつ見ても素晴らしい力だ......必ず二人とも、私の物にしてみせる......」
※シーン切り替え
N:羽音が空から聞こえて来ると、上空から着地したライフと、それに続いて力尽きた様子で地面にトーハが落下した。
トーハ:「(荒い呼吸)......」
ライフ:「大丈夫かい、トーハ......?」
トーハ:「うん......大丈夫......」
N:トーハは肩で息をしている。彼女は短い時間に限り、鳥のように空を飛ぶ力を有していた。
しかしその持続時間は短く、こうして力を使った後は毎回、息も絶え絶えの状態になってしまうのである。
ライフ:「けど、大分街から離れることが出来た。これならあいつらもすぐには追いつけないだろう」
トーハ:「うん。そう、だね......」
ライフ:「......トーハ?」
トーハ:「ごめんライフ。私もう......」
ライフ:「......トーハ! 大丈夫か、しっかりしろ!」
N:トーハはそのまま力を使い果たしたかのように、地面に横たわり、意識を失ってしまった。
※シーン切り替え
トーハ:「う、ん......?」
N:トーハが目を覚ます。そこは見慣れない部屋の天井で、彼女はベッドに寝かされていた。
トーハ:「私......どうしてこんなところで寝てるんだろう......」
N:彼女はベッドの上で記憶を思い返そうとするも、はっきりと思い出せず、額に手を当てる。
ライフ:「......あ、良かった。目を覚ましたんだね」
N:ノックの音がしたかと思うと、部屋にライフが入ってきた。
トーハ:「ライフ......私、何があったの......?」
ライフ:「......追っ手を振り切るために、君の力を使ったんだよ。その反動で倒れたんだ」
トーハ:「ああ、そうなんだ――どうも記憶が飛んじゃってるみたい」
N:トーハが恥ずかしそうにはにかむ。ライフは困ったような顔をして笑った。
ライフ:「君が力を使ってくれたおかげで、かなりの距離を移動できたと思うけど......油断は禁物だ。明日の朝にはまた移動するよ」
トーハ:「うん、分かった」
ライフ:「そのために、今は少しでも体を休めておくこと。いいね」
トーハ:「うん、そうする。わたし、もう少し寝るね......まだ、ヘトヘトで――」
N:そう言うと、トーハはすぐに健やかな寝息を立て始めた。それを聞いて安心したように、ライフは部屋を後にする。
※シーン切り替え
N:少しの間眠りについたトーハは、夜更けに目が覚めた。すっかり体力を取り戻したようだ。
ライフ:「もう平気なのかい?」
トーハ:「うん。ごめんね、心配かけちゃったみたいで」
ライフ:「(笑う)とにかく、元気になったようで良かったよ。......ところで、トーハ」
トーハ:「なに?」
ライフ:「昼間の、足の傷跡。あれから具合はどう?」
トーハ:「ああ、あの傷のこと? さっき見たら綺麗に塞がっていたわ」
ライフ:「そっか、それなら良かった。たっぷり寝たお陰かもしれないね」
トーハ:「(笑う)そうかもしれない」
ライフ:「それじゃ、僕は部屋に戻るよ。トーハも早く寝るんだよ」
トーハ:「うん、ありがとう。おやすみ」
ライフ:「......」
N:一方で、ライフの足首の傷は、まだ癒えてはいなかった。
※シーン切り替え
N:二人が別れ、ライフが眠りに落ちてすぐに異変が起きた。宿中に騒々しい音が響き渡り目が覚める。
音の中に、聞き覚えのある男の声と、女の子の声がする。ライフは慌てて飛び起き、トーハの部屋へと駆け付けた。
マッド:「おや。随分と早いご到着だな。研究サンプル《661》」
トーハ:「んー、んー!」
ライフ:「またお前か......! けど、どうして。こんなすぐに移動出来る距離では無いはずなのに......」
マッド:「(笑う)生憎と、こちらにも似た力を使えるモルモットがいるのだよ。
もっとも、そこの研究サンプル662とは比べるまでも無い、純度の低い力だがな」
ライフ:「くそっ......」
マッド:「さあ、分かったら大人しくこちらへ来い」
ライフ:「......アンタ達は、なんでそこまで躍起になって、僕らを追い回すんだ?」
マッド:「お前達を生み出すのに私は多額の投資をしている。躍起になるのも当然だろう?」
ライフ:「その割には寝込みを襲うなんて、随分卑怯な真似をしてくれるじゃないか」
マッド:「お前達は互いの傷を共有する特殊な個体だからな。なるべく手荒な真似はしたくないんだ」
ライフ:「(笑う)......なるほど。それは良い事を聞いたな......」
マッド:「なに?」
ライフ:「アンタ、もし僕がこうしたら......どうするつもりだ?」
N:言うやいなや、ライフは自身の首元にナイフを当てた。
マッド:「......一体なんのつもりだ?」
ライフ:「見て分からないのか?」
マッド:「なに......?」
ライフ:「僕が受けた傷は彼女も共有すると言っただろう。つまり......
僕がここで死んだら、彼女も死ぬ。アンタは貴重な研究サンプルを同時に失うハメになる」
マッド:「......脅しのつもりか? そんなハッタリなど」
ライフ:「ハッタリだと思うのか?」
N:ライフの首元に当てたナイフが、くっ、とわずかに刃を立てた。
マッド:「待て!......分かった、この研究サンプルは解放しよう。だから、今すぐそのナイフを下ろせ」
ライフ:「彼女を解放してからが先だ」
マッド:「わ、分かった......」
N:拘束を解かれたトーハがライフの元に駆け寄る。ライフはトーハを背中に隠した。
ライフ:「......いいか。僕らが宿を出るまで、妙な動きをするんじゃないぞ」
マッド:「あぁ、分かった。分かったとも」
ライフ:「......行こう、トーハ」
N:二人は部屋を急いで後にした。二人が居なくなった部屋で、ゆっくりとマッドが兵士たちに命令する。
マッド:「――後を追うぞ。奴らが油断したところを捕まえるんだ」
※シーン切り替え
N:ライフとトーハは、町の広場まで逃げていた。しかし、その周囲を兵士達が取り囲んでいる。
ライフ:「あんた達もしつこいな!」
マッド:「(笑う)昔から諦めが悪いとよく言われたよ。生憎と、欲しいものは力づくでも奪う性分なんでね」
N:ざっ、と兵士達の銃が二人に向けて構えられる。
ライフ:「......僕がさっき言った話を、聞いていなかったのか? 僕が死ねば、彼女も死ぬぞ」
マッド:「分かっているさ。危害は加えない.......なに、少しの間、眠ってもらうだけだ」
N:近くの兵士にマッドが手で合図する。それはマッドが麻酔銃の発砲を命じる合図だった。
近くの民家の屋根に潜んでいた兵士が、二人に向けて麻酔銃を発砲した。
トーハ:「きゃっ!」
ライフ:「ぐっ!......こ、これは......」
マッド:「(笑う)......私が開発した麻酔弾だよ。野生の熊でも、撃ち込めば半日は昏睡する代物だ」
ライフ:「くそ......」
トーハ:「ら、ライフ......」
マッド:「動きが止まったぞ。捕まえろ。手荒に扱うんじゃないぞ、貴重な研究サンプルだからな」
N:マッドの命令に、兵士達が二人に詰め寄ろうとする。ふらつきながら、ライフが声を発した。
ライフ:「......トーハ」
トーハ:「なに、ライフ......」
ライフ:「少しの間だけ、目を閉じていてくれないか?」
トーハ:「一体、何を、するつもりなの......?」
ライフ:「......変わってしまう僕の姿を、君に......見られたく、ないんだ」
トーハ:「ライフ......」
ライフ:「安心して。何があっても、僕が必ず君を守るから。だから、頼んだよ」
N:そう言うと、突如としてライフの腕や足を、白い石のような物質が包み込んでいく。その光景は異様だった。
やがて、変化を終えてその場に立っていたのは、全身白い皮膚に覆われた、怪物だった。
体躯は街の家屋の屋根を超えるほど大きく、手足は丸太のように太い。顔と思しき箇所には口が無かった。
そして額には、宝石のような色をした、赤い色の瞳がひとつ光っている。
N兵士:「う、うわあ!!」
マッド:「まて、撃つな!」
N:一人の兵士が恐怖のあまり変身したライフに向けて銃を発砲した。
するとそれにつられたように、恐怖に駆られた他の兵士達も一斉に発砲を始める。
マッド「馬鹿者! 撃つんじゃない! 貴重な研究サンプルになにかあったらどう責任を取るつもりだ!」
N:トーハに向けて放たれた銃弾の前に立ち塞がると、その体でライフは銃弾の盾となった。
ライフ:「(苦しそうに呻く)......大丈夫かい、トーハ......」
トーハ:「ライフ......!」
ライフ:「......心配、しないで。僕は、痛みに、強いから」
N:白い体から血を流すライフは、トーハを落ち着けるように声をかける。
ライフの白い腕が振りかぶられ、周囲を囲む兵士達を一撃で薙ぎ払った。
マッド:「......すばらしい、すばらしい力だ。研究サンプル661......さすが、私の作品だ」
ライフ:「――あんたに、聞きたいと思っていた、ことがある」
マッド:「私に? なんだ」
ライフ:「......どうして、僕たちを、他の子供達を産み出したんだ?」
マッド:「どうして産んだかだと......? 愚問だな、そんなことか」
ライフ:「そんなことだって......?」
マッド:「(高笑いする)ああそうとも。研究者にとって、研究とは呼吸をすることと同じ! そこに理由なんてもの在りはし無い!
......もっとも、お前達は私が生み出した中でも特に優れていた個体だった。そこは嬉しい誤算だったがね」
ライフ:「望まれず生まれてきた子供達に、申し訳ない気持ちは無かったのか......」
マッド:「申し訳ない......?(笑う)理解不能だな。何故そんな気持ちになる? たかだか、ただの失敗作に!」
ライフ:「......」
マッド:「どうだ、これで満足したか?」
ライフ:「――ああ、満足したよ。ずっと、あんたに聞いてみたいと思っていたから」
トーハ:「ライフ......?」
マッド:「ひょっとしたらアンタの答え次第で、僕の決心が変わるかもしれないと思っていたから......
けど、安心したよ。あんたが――根っからの悪人だっていうことが分かってさ」
N:巨大な大木のように寄り集まった白く、太い腕を勢いよく振り下ろす。
マッド:「(高笑いする)ああ! 素晴らしい! 素晴らしい出来だ! すばら――」
N:激しい揺れと地面を打つ音が辺りに響き渡る。それを最後に、周囲からは先ほどまでの争う音は鳴り止んだ。
ライフ:「――僕は、あんたを恨んだりはしないよ。だから、あんたも僕を恨まないで。父さん」
※シーン切り替え
N:白い皮膚が剥がれ落ちていき、やがて変身を解いた人間の姿のライフがその場に現れる。
彼は膝から地面に落ち、そのまま力なくその場に倒れ込んだ。傷の深さを物語るかのように、赤い血が地面に広がって行く。
トーハ:「ライフッ!!!」
ライフ:「(咳き込む)......トー、ハ。怪我は無い?」
トーハ:「喋っちゃ駄目......」
N:トーハはまだ、先ほどの麻酔弾の効果が効いているようで、少しふらついている。
トーハ:「......ごめん、ライフ。このままじゃ私眠っちゃう。少し、痛いかもしれないけど、我慢して......」
N:眠気に抗うべく、トーハは自身の手のひらにナイフで傷をつける。
しかし、彼女の今付けたばかりの傷跡は、まるで縫い合わされていくかのように塞がり、やがて跡形も無くなってしまった。
トーハ:「なに、これ......それに、ライフはこんなにも傷だらけなのに......なんで私は平気なの......!?」
ライフ:「――ごめん、トーハ......。実は今まで、君に隠していた事が、あるんだ......」
トーハ:「隠していたこと......?」
ライフ:「......僕らは傷の共有なんてしていない。本当は、君の傷を......一方的に、僕が肩代わりしているんだ」
トーハ:「そんな、どうして......」
ライフ:「......僕は君の代用品......完成品である君を守るため、作られた存在......。痛みに鈍いのも、それが理由さ」
トーハ:「そんな、そんな大事なこと! どうして今まで黙ってたのっ?!」
ライフ:「(笑う)......言ったら、君が怒るだろうと思って......」
トーハ:「当たり前じゃない!」
ライフ:「......君を守ることが、僕の生まれた唯一の理由だった......役目を果たせて、良かった」
N:空からはらはらと、白い花が落ちてくる。
ライフ:「――あ。トーハ、見てごらん。......雪だよ」
トーハ:「......」
ライフ:「見れて、良かった。......ずっと、君が、見たがっていたから......」
トーハ:「......違う。私が見たかったのは、こんな雪じゃない。こんな、こんな悲しい雪なんか......」
ライフ:「......別れを惜しんでくれているのかい? 僕は、幸せ者だな......」
トーハ:「嘘つき......」
ライフ:「トーハ......?」
トーハ:「嘘つき。嘘つき嘘つき! いつも言ってたじゃない......私たち二人でひとつだって。今までも、これからだって......!」
ライフ:「......ごめん」
トーハ:「謝って欲しいんじゃない! 行かないでよ......私を一人にしないでよ!」
ライフ:「トーハ......」
トーハ:「私、あなたの居ない世界で、一人で生きていくことなんて......出来ないよ、ライフ......」
ライフ:「......トーハ。僕は......もうすぐ、あの空に行く」
トーハ:「空に......」
ライフ:「僕はあの空の上から、いつだって君を見守っている。けど、君がずっと泣いていたら、僕は安心して眠れない」
トーハ:「......」
ライフ:「君一人でも大丈夫だって......僕を、安心させてよ」
トーハ:「......ずるいなぁ、そんなの。ずるいな......」
ライフ:「トーハ......?」
トーハ:「......分かった、約束する。私、ライフの分まで生きる。精一杯、生きるから.......だから......大丈夫だよ」
ライフ:「(笑う)......ありがとう。僕の、この世で一番、大切な――」
トーハ:「......(泣く)ライフ、ライフ......」
N:白い世界、たった二人の白い兄弟。
雪は、彼の旅立ちと彼女の哀しみに寄り添うように降り続いた。いつまでも、いつまでも。
※シーン切り替え
N:あの騒動から数年の月日が流れた。
当時、二人を追っていた研究所の職員達は、ほどなくして警察の手によって捕らえられ、研究所も閉鎖となったようだ。
それ以来、トーハに危害が及ぶことは無くなり、平穏な日常を送る事が出来ていた。
トーハ:「ライフ......どう? そっちで、元気にしてる?」
N:今日もまた、あの日と同じ雪が降っている。
トーハ:「安心して。私、今もなんとか......あなたが居なくても、うまくやれてるよ」
N:風の音に交じって、懐かしい彼の声が聞こえた気がした。
<完>
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2021.7.10 修正
<小ネタ>
ライフ:Life。人生や生命などの意味。
トーハ:heartを逆さ読み。心などの意味。
マッド:マッドサイエンティストから。