仮SS:報いとエゴとその後の墓


 銃弾が二人の脳髄を破壊したその時、私は初めて二人を人間と認識できてしまった。
 私たちが殺したこの男女は怪物などではなく、怪物になり果ててしまっただけの哀れな人間であった。その事実が執行後の空気に重くのしかかる。
 無言で私たちは執行室から出て行った。いつもみたいにクズを殺して万々歳とはいかなかったのだ。私たちは人間を殺したことなどなかったのだから。
「な、なあ……」
 嬉々として撃ち殺そうと言っていた筈のSが躊躇い気味に手を挙げた。
「二人のいたあの家に埋めていかないか……?」
「そうしよう。この二人はあそこで眠るべきだ」
 業務違反である提案に対し、私は賛同した。実際のところ、この二人の人間が起こした事件はすでに解決済みで。報いも受けた。だが、私の胸の内には何とも言えない、しこりがあったのだ。
 自己満足にすぎないエゴで誤魔化したくなったのだ。
 私たちは二人の死体を担ぎ運び出していた。道中誰一人も口を開かなかった。

 二人が居たあの海沿いの家はすっかりと活気を失っていた。怪物と化して暴れ回ったせいで、窓も壁も家財も破壊されてしまい、今となっては日常を思わせる名残は残されていない。
 ここに住んでいた二人は私たちが殺したのだから、当然であろう。家は静かに私たちを睨んでいるような気がする。空気が私たちを拒んでいると、私たちは薄々察していた。
 だからなのか。私たちは一礼した後に、二人を柔らかい土へと埋めた。おそらくかなり手入れをされていたのだろう。持ってきたスコップがすんなりと刺さり、埋めることは容易かった。
 墓標代わりの石を置いた後にさっさと立ち去った。私たちは二度とここに来てはならない。戒めるつもりでない限りは。

 そうして私たちは執行役をやめた。罪人にも事情や暮らしがあり、生きた人間であったことを再認識した途端、引き金が重くなったからだ。今でも銃を握ると呼吸が早くなったりする。
仕事を辞めて数カ月。あの日、あの二人を埋葬したあの家へと向かった。償いのためかもしれないし、罪悪感を忘れてはならないという戒めのために向かったのかもしれない。何方にしろ、私には重要なモノだったことは確かだ。
畑があったところにはもうすっかり雑草や木々が生い茂っていた。かつて墓標として置いた石はもう姿かたちも見えなくなっている。数カ月の間に木々は根を張り、小さな森を作り上げていたのだろう。あの最期まで幸福そうに死んだ二人を糧にして。
最期まで重なり合って死んでいた、あの二人組の目印を私は草の根を分けて探した。探して結局は見つけ狩ることはなかった。
私たちが苦悩する間にかつての家屋は草木が覆い、苔もむして、自然へと帰ったのだろうと思わなければならなかった。
いずれ、あの墓は誰の墓とも分からなくなるのだろう。
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