「魔女と約束の剣(つるぎ)」


題名:魔女と約束の剣 作者:草壁ツノ

<登場人物>
マリー:女性 魔女。人の生活に興味があるものの、彼らの生活をおびやかさないよう一人で生活している。
ロイス:不問 教会で働く騎士。自分はこの仕事に向いていないと考えている。魔女のまじないで彼女の世話を妬くことに。
ゲオルド:男性 元教会の騎士団長。数年前から消息が不明になる。現在はカエルの姿でマリーと共に過ごす。
ソナペル:不問 教会の神父。表向きは善人だが裏の顔は他者を物のように考えている。ネズミが大嫌い。
ポワソン:不問 殺し屋。神父との契約の下、街で暗躍する。別の顔は、パブで働く店員。
マオ:女性 ソナペルが溺愛している飼い猫。愛称は「マオたそ」。

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<役表>
マリー+猫:女性
ロイス:不問
ゲオルド+住民1:男性
ソナペル+子供1:不問
ポワソン+子供2+住民2:不問
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■注意点
・ソナペルは後半ネズミになるシーンがあります(4台詞)
・ゲオルドは人間になるシーンと、カエルになるシーンがあります(台詞の頭に記載)
・叫び台詞が含まれます
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■利用規約
・アドリブに関して:過度なアドリブはご遠慮下さい。
・営利目的での使用に関して:無許可での利用は禁止しております。希望される場合は事前にご連絡下さい。
・台本の感想、ご意見について:お気軽にお寄せ下さい。Twitter:https://twitter.com/1119ds 草壁ツノまで
・両声類の方の利用について(2021/11/11追加)
 演者の方ご自身の性別を超える役のお芝居はご遠慮しております。

 可能:「不問」と書かれているキャラクターを「キャラクターの性別を変えずに演じる」こと
 不可:「男性」と書かれている役を「女性かつ両声類」の演者が演じること
    「女性」と書かれている役を「男性かつ両声類」の演者が演じること

 ご意見ある所でしょうが、何卒ご理解の程よろしくお願い致します。
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※男の子、縫いぐるみを取り返して女の子に渡す


ロイス(子供):「ほら、ぬいぐるみ取り返して来たよ。君のでしょ?」

マリー(子供):「......(嬉しそう)ありがとう」


マリー(子供):「どうして、私に良くしてくれるの?」

ロイス(子供):「どうしてって?」

マリー(子供):「みんな、私を嫌ってる。私が、《マジョ》だから」

ロイス(子供):「《マジョ》だといけないの?」

マリー(子供):「......みんなが、そう言ってる」


ゲオルド:「おーい、嬢ちゃん。それに、ロイスも。こんな所に居たのか」

ロイス(子供):「あ、ゲオルド。聞いて聞いて、僕、この子の縫いぐるみ取り返してあげたんだよ」

ゲオルド:「おお。よくやったな、偉いぞ」

ロイス(子供):「(笑う)泣いてる人がいたら、助ける。それが騎士だから!」

ゲオルド:「(大笑い)お前、もう騎士になった気でいるのか」

ロイス(子供):「ねえ、これで僕もゲオルドみたいになれる?」

ゲオルド:「(笑う)馬鹿野郎。そんな簡単に俺みたいになれるか」


ゲオルド:「(笑う)さ、もうそろそろ帰る時間だぞ、ほら、バイバイしような」

マリー(子供):「......ね」

ロイス(子供):「なに?」

マリー(子供):「もし、また私が困ったら......助けに来てくれる?」

ロイス(子供):「もちろん。君がまた困った時は、必ず助けに行くよ」

マリー(子供):「本当?」

ロイス(子供):「うん、約束」

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※朝日が指す部屋。一人の青年がベッドで横になっている


ロイス:「やく、そく......(目を覚ます)夢、か......なんか、懐かしい夢だったな......。
     (あくび)......そう言えば今日は全体朝礼の日か。かったるいなぁ......。
     仕方ない、もう時間だし、そろそろ行くとするか」

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※街の大聖堂。大勢の騎士の前に、一人の司祭が立ち言葉を発している


ソナペル:「――皆様。事態は深刻です。
      このところ、街で謎の疫病(えきびょう)が広まっているのはご存じでしょうか?
      この病にかかった者は発熱と嘔吐を繰り返し、次第に瘦(や)せ衰えていく......」

ロイスM:ねむい......

ソナペル:「疫病にかかった者は、体に黒い斑点(はんてん)が浮かび上がるそうです。
      この症状はその昔、我が国に起こった伝承にとてもよく似ています。
      人々を恐怖に陥れた存在、《魔女》が起こしたとされる伝承と」

ロイスM:《魔女》って......本気で言ってるのか? そんなもんが実在するわけないだろ......

ソナペル:「一刻も早く《魔女》を捕らえ、人々の生活に平穏を取り戻さなくてはなりません。
      皆様はこれから、街で情報収集を行い、《魔女》に繋がる手がかりを探して下さい。それと――ロイス」

ロイス:「えっ? あ、はいっ!」

ソナペル:「あなたはこの後、少し残って頂けますか?」

ロイス:「え、あ、はい......分かりました」

ソナペル:「それでは、本日の朝礼はこれにて。皆さまの活躍を期待しています」


※聖堂から去っていく騎士たち


ロイス:「あの、ソナペル神父。俺に何か......?」

ソナペル:「(笑う)あの中で唯一、あなただけが《魔女》の話を訝(いぶか)しそうな顔で聞いていたので」

ロイス:「えっ、ハハハ......((小声)バレてたのか......)いや、そんなことありませんよ」

ソナペル:「(笑う)本当に、あなたはゲオルドにそっくりだ」

ロイス:「え?」

ソナペル:「居なくなった、騎士団長のゲオルド――確か、あなたの師匠でしたね。 
      彼も、よく私の話を眠たそうに聞いていましたよ」

ロイス:「あ、ハハハ......」

ソナペル:「信じられないかもしれませんが、魔女というのは現代においても、各地で目撃例が報告されているのですよ。
       彼らは農作物を荒らし、子供をさらい、人々の間に疫病を振り撒く」

ロイス:「......それが事実だとしたら、恐ろしい存在ですね」

ソナペル:「ええ。ですから事態が広まる前に、何としてもこれを阻止しなければ。
      ロイス、居なくなったゲオルドに代わり、あなたの活躍を期待していますよ」

ロイスM:期待なんてされてもなぁ......

ロイス:「任せて下さい。俺が必ずや、その魔女を捕まえてみせますよ」

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ロイス:「(溜め息)とは言ったものの、魔女かぁ......。
     そんなもん居るわけが無いし、どうにか仕事したフリして報告だけするか。
     そうと決まればどうするかな。適当にその辺で時間でも潰すか......」


※視界の先で、子供2人が何かを追いかけているのを目にする


ロイス:「うん? あれは......」

ゲオルド(蛙):「ゲロ~~ッ!」

子供1:「待て~っカエル!」

子供2:「待てぇ~っ!」

ロイス:「何しているんだ、お前たち」

子供1:「うわっ! な、なんもしてねぇよ。ちょっとそこのカエルで遊んでただけ!」

ロイス:「やるなら俺の目の届かないところでやってくれ。そうしたら仕事しなくて済むから」

子供1:「何言ってんだ? このオッサン」

子供2:「ねえ、もう飽きちゃった。他のことして遊ぼう?」


※子供その場から走り去っていく


ロイス:「あんの、悪ガキども......ほーら。助かって良かったな、カエル。また捕まらないうちに、さっさとどこか行きな」

ゲオルド(蛙):「ゲロゲロ~......いやぁ助かったぜ大将! この恩は忘れないからよ!」


※ロイス、思わずカエルと距離を取る


ロイス:「かっ、かっ......」

ゲオルド(蛙):「ゲロ?」

ロイス:「カエルが、喋った......!?」

ゲオルド(蛙):「ゲロ? 当たり前だろ、そりゃカエルだって喋るさ。いつもいつでもゲロゲロ言ってるだけと思うなよ?」

ロイス:「つ、疲れてるのかな、俺......」

ゲオルド(蛙):「おっと、いっけね。早く戻らないと嬢ちゃんにドヤされちまう。
       それじゃあ大将、またどこかで会えるといいな! ゲロゲローッ!」


※ゲオルド、ぴょんぴょんと逃げていく


ロイス:「あっ、おいちょっと待て!」

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ロイス:「くそ。さっきのカエル見失った......それにしてもここ、どこだ?」


※緑が広がる草原に、一軒の家がぽつんと立っている。


ロイス:「こんな所に家?......(扉を叩く)すみません、誰か居ませんか?」

マリー:「あら、あなたは――どちら様ですか?」

ロイス:「えっと、突然すみません。教会で騎士をしているロイスと言う者なんですが。
     喋るカエルを追いかけて、気が付いたらこんな場所に......」

マリー:「喋るカエル......?」

ロイス:「そう。.....信じられないとは思うけど」

マリー:「......(小声)あのカエルじじい。勝手に街に出るなってあれほど」

ロイス:「え?」

マリー:「......ああいえ。なんでもありません。そのカエルなら......さっき家の外で見かけましたよ」

ロイス:「本当か?」

マリー:「《縄よ、縛りなさい》」

ロイス、突如現れたロープに後ろでに腕を縛られる

ロイス:「ぐっ!? な、なんだこれ! ほ、解(ほど)けない......!」

マリー:「暴れないで。手元が狂ったら、大怪我するわよ」

マリーがロイスの首に触れる

マリー:「《服従の証をここに》」

ロイスM:っ? 触れられた首が、熱い......!?

マリー:「――これでよし」

ロイス:「(呻く)......おい。今、俺に一体何をしたんだ?」

マリー:「(微かに笑う)そこに鏡がありますよ。ご自分で見てみたら?」


※ロイス、鏡を見る


ロイス:「......この、首の、黒い輪のような模様は......?」

マリー:「(笑う)それは、《奴隷のまじない》よ」

ロイス:「《奴隷のまじない》......?」

マリー:「そう。そのまじないを刻まれた者は、主人の命令に絶対服従になるの」

ロイス:「はぁ? そんな、オカルトじみた......大体、どうしてこんなものを俺に。君は一体誰なんだ?」

マリー:「(笑う)あら。もしかしてあなた、意外と鈍感?」

ロイス:「なにを......」

マリー:「《私》の前に人間が現れた。丸腰でね。そしたら――
    まじないの一つや二つ、掛けられてもしょうがないって思わない?」

ロイス:「......まさか、お前は」


※女性が魔女の姿に変化する


マリー:「(笑う)改めまして、こんにちは。自己紹介が遅れたわね。私は《魔女》マリー。以後お見知りおきを」

ロイス:「ま、魔女......!? そんな、まさか実在するだなんて」

マリー:「(笑う)それはそうと、どう? 私からの愛のこもったプレゼント。気に入ってもらえた?」

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ゲオルド(蛙):「なんだなんだ騒がしいなァ。お客さんか?」

ロイス:「あ、お前っ! さっきのカエル!」

ゲオルド(蛙):「ゲロ? 誰かと思えば、さっき助けてくれた大将じゃないか! ひどい有り様だな」

ロイス:「呑気なことを言ってないで助けてくれ!」

ゲオルド(蛙):「それは出来ないなァ」

ロイス:「どうして!」

ゲオルド(蛙):「そりゃお前。他でもない嬢ちゃんがやったことだからな」

ロイス:「お前っ、魔女の手下だったのか......!」

ゲオルド(蛙):「ケッケッケロ。手下じゃない。言うなればこいつの保護者みたいなもんだな」

マリー、カエルを見下ろして怪しく目を光らせる

マリー:「ゲ~オ~ル~ド......」

ゲオルド(蛙):「ゲロッ!?」

マリー:「やっぱり、アンタが連れて来たのね......?」

ゲオルド(蛙):「つ、連れて来たんじゃねぇよ。着いて来たんだ! いやァ、モテる男は困るよなァ?」

マリー:「言い残すことはそれだけ......?」

ゲオルド(蛙):「ま、待てっ! 嬢ちゃん。ほら......手土産っ、手土産があるぞ?」

マリー:「て・み・や・げ......? そんなもので、私の機嫌を取ろうとしたって......」

ゲオルド(蛙):「ま、街で評判のデザートだ! 甘いぞォ、美味いぞ~! ほっぺたが落ちちまうぞ!」

マリー:「......(受け取る)特別よ。今回だけは生かしておいてあげる」

ゲオルド(蛙):「(小声で)ケロケロケロ。ちょろい」

マリー:「(溜め息)さようなら」


※マリー、カエルの足を掴んで持ち上げる


ゲオルド(蛙):「だーっ待て待て待て! やめて、助けて! 鍋に入れないで! あっ熱い! 熱い!」

ロイス:「くっ、この......なんだこの縄、結び目が無いぞ」

マリー:「(溜め息)アンタも分からない男ね。そう簡単に解けると思ったら大間違いよ」

ゲオルド(蛙):「げ、ゲロ......死ぬところだった......」

マリー:「次勝手な事したら、その時はアンタでスープのダシを取るからね」

ゲオルド(蛙):「ゲロォ......にしても嬢ちゃん、大将をどうするつもりだ?」

マリー:「もう考えてあるわ」

ゲオルド(蛙):「恋人にでもするのか?」

マリー:「冗談言わないで。ま、とりあえずは......尋問からかしらね」

ロイス:「じ、尋問?」

マリー:「ええ、そうよ。ゲオルド!(指を鳴らす)机とライトを用意して。はやく」

ゲオルド(蛙):「へいへい、まったく。カエル使いの荒いご主人様だ」


※ゲオルドが素早く動き回り、テーブルと椅子が用意される。
 テーブルの上のスタンドライトがロイスの顔を照らす


マリー:「さて。それじゃあ騎士様? ......ああ、あなた、名前は何て言うの?」

ロイス:「誰が教えるか」

マリー:「《お名前は?》」

ロイス:「ッ!? ろ、ロイス......」

マリー:「ロイスね」

ロイス:「な、なんだこれは......? 口が、勝手に......」

マリー:「さっきも言ったでしょ? そのまじないがある限り、あなたは私の命令に絶対服従。
    さて。これからあなたに幾つか尋問をするわ。正直に答えて」

ロイス:「断る......!」

マリー:「(発言にかぶせて)《分かりました、マリー様》」

ロイス:「ッ、わ、《分かりました、マリー様》......」

マリー:「(笑う)良いお返事ね」

ロイス:「......くそ。俺に一体、何を聞くつもりだ?」

ゲオルド(蛙):「ゲロン。それではこれより尋問を開始する」

マリー:「正直に答えなさい、いいわね?」

ロイス:「くっ......!」

マリー:「......人間たちの間で、よく食べられているお菓子は、なに?」

ロイス:「は? そんなものを聞いて、一体どうする......」

マリー:「聞き返すことは禁止」

ロイス:「か、菓子なら......プレッツェルが流行っている......」

マリー:「プレッツェル?」

ゲオルド(蛙):「ほら、さっき俺が持ってきてやったやつだよ」

マリー:「あぁ、あれがプレッツェルなのね。 初めて食べたけど、確かにあれは美味しかったわ......」

ゲオルド(蛙):「次の尋問を」

マリー:「わ、分かってる。(咳払い)次の尋問......人間は、贈り物を突然されたら、びっくりするかしら?」

ロイス:「......あのさ」

マリー:「なに? まだ尋問の途中よ」

ロイス:「俺が知ってる尋問と少し、毛色が違う気がするんだが」

マリー:「これがいまどきの尋問なのよ」

ロイス:「話を聞いてると、ただお前が人間に興味があるようにしか見えないんだが」

マリー:「な、何のことかしら?!」

ゲオルド(蛙):「バレるの早かったなぁ~」

マリー:「黙りなさいっ。い、いいわ? それなら本題に入りましょう」

ロイス:「今度はなんだ......」

マリー:「あなた、ひょっとして《魔女を探していた》んじゃない?」

ロイス:「何故それを?」

マリー:「街の噂はここにも流れて来るからね。それで? 《どうして魔女を探していたの》?」

ロイス:「......街に疫病が、広まっていて。それが、魔女の仕業だと、聞いたから」

ゲオルド(蛙):「疫病ねぇ」

マリー:「......ま、人間が考えそうなことよね」

ロイス:「どういう、意味だ?」

マリー:「別に。それで、あなたは魔女を見かけたらどうするの。捕まえる?」

ロイス:「俺は......分からない」

ゲオルド(蛙):「ゲロ? お前、教会の騎士なんだろ? 目の前に魔女が居るって言うのに、随分とやる気が無いな」

ロイス:「......こっちだって頭が混乱してるんだ。そんなにすぐに判断出来ない」

マリー:「......ま、いいわ。あなたが仕事熱心じゃ無い方が、私としては助かるもの」

ロイス:「そんなことよりもお前、俺をどうするつもりなんだ?」

マリー:「(笑う)安心して、殺したりしないから。あなたは今日から私の、召使いよ」

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※協会、礼拝を終え出て行く町人


住民1:「神父さま、私の話を聞いて下さりありがとうございました」

ソナペル:「構いませんよ、皆様の悩みを少しでも取り除くこと、それが私の使命ですから」

住民1:「神は......私の願いを聞き届けて下さるでしょうか?」

ソナペル:「ええ、勿論。神は誰に対しても平等。あなたのことも、きっと見ていますよ」


ソナペル、扉が閉まると深く溜め息をつく

ソナペル:「(深い溜め息)ようやく終わりました」

ポワソン:「(笑う)お勤めご苦労さん、神父殿」

ソナペル:「おや、居たのですか?」

ポワソン:「ああ......ところでさっきの信者、随分長いこと話していたが......一体何を話してたんだ?」

ソナペル:「覚えていません。そんなくだらないこと」

ポワソン:「(笑う)悪い神父も居たものだ」

ソナペル:「それよりも、あなたのおかげで少しずつ信者の数が増えてきていますよ」

ポワソン:「それは何より」

ソナペル:「(不適に笑う)ああ、本当に、我ながら自分の天才的閃きが恐ろしくなります......!」

ポワソン:「......また始まった」

ソナペル:「敵対する宗派の者達に怪しい毒を広めることで、人々の不安を煽る!
      そして不安に駆られた者達の下に、こう囁(ささや)く......《私達の宗教に入れば救われる》と!
      そうすれば人々は拠り所を求めて我が宗教に加入し、我が教会の信徒の数は増える!
      一方、気に入らない相手側の信徒は減る......これ程素晴らしい発想、他にありますか!?」

ポワソン:「はいはい、その通りだな」

猫:「マーオ」

ソナペル:「おお、私の愛しいマオたそ! ああ、今日も最高に美しいなお前は......」

ポワソン:「そう言えば」

ソナペル:「なんです?」

ポワソン:「さっき部屋の隅で、このネズミが転がっていた」

ソナペル:「(悲鳴)ね、ねね、ネズミッ! は、早くそいつを私の目の届かない場所にやりなさい!」

ポワソン:「はいはい。ところで、つかぬ事を聞くが神父殿?」

ソナペル:「(荒い呼吸)......なんです?」

ポワソン:「ネズミが駄目なのに、何故その猫は平気なんだ?」

ソナペル:「わ、私の愛するマオたそを、溝鼠(どぶねずみ)と同じだと言うのですか......!?」

ポワソン:「そうカッカするな。純粋な疑問だ」

ソナペル、わなわなと震える

ソナペル:「ネズミは不潔の象徴! どんな菌がついているか分かったものじゃ無いでしょうっ。
      それに比べ、私の愛するマオたそは毎日シャンプーを欠かせませんし、ブラッシングも怠りません。
      お~~よしよしマオたそ......お前は今日も可愛いねぇ......」

ポワソンM:さっきのネズミはその猫が咥えていた、と教えてやったら、どんな顔をするかな......

ポワソン:「......それはともかく、今回の報酬を貰おうか」

ソナペル:「ああ、すっかり忘れていました。こちらです」

ポワソン:「......確かに受け取った。しかし、反対派とは言えこの街の住人に、あまりにもやり過ぎじゃないか?」

ソナペル:「私の考えに賛同できないものは、この街に要りません。......ネズミと一緒だ。不衛生極まりない。
      私の理想とする街の実現のためには、少しでもネズミを減らさないとならないのです」

ポワソン:「......なるほど。まぁ、俺は金さえ貰えれば、あんたがどんな人間でも構わない。
      とりあえず、アンタから受け取ったネズミのリスト。そこに載ってる奴らには、全員手を回しておいた」

ソナペル:「(笑う)素晴らしい。あなたは実に優秀ですねぇ」

ポワソン:「そんな金にならない世辞(せじ)はいらない。しかし、大丈夫なのか?」

ソナペル:「何がです?」

ポワソン:「なるべく足がつかないようにやってはいるが、そのうち誰かが不審に思うだろう。
      もし俺とアンタが繋がっていて、このことが明るみに出れば――」

ソナペル:「ああ、その事ですか......(微かに笑う)」

ポワソン:「何か策でもあるのか?」

ソナペル:「いえ......(微かに笑う)どうせなら、この責任を《ネズミの親玉》に被(かぶ)ってもらえば一石二鳥でしょう?」

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マリー:「ねえロイス。この世で一番美しいのは誰?」

ロイス:「それは、あなたですマリー様」

マリー:「ふふん♪ それじゃあ、この世で一番知識に優れているのは誰?」

ロイス:「それはあなたに違いありません、マリー様」

マリー:「ふふふん♪ そうよねそうよね。それじゃあ、この世で一番振舞いが美しいのは......」

ロイス:「いい加減にしろ!」

マリー:「もう、なによ。人がせっかく良い気分だったのに」

ロイス:「こっちはお前の命令で、家中(いえじゅう)掃除してる真っ最中なんだよ!」

マリー:「ご主人様のために一生懸命働いて、偉いわね~」

ロイス:「(溜め息)そんなことより、カエル、お前もちょっとは手伝ったらどうだ?」

ゲオルド(蛙):「生憎(あいにく)と俺には雑巾はデカすぎるし、この家は広すぎる......それに。
       俺は今、自分を磨くのに忙しいんだ」

ロイスM:カエルの手には『必見!これであなたもモテカエル』という雑誌が広げられている。

ロイス:「(雑誌を破く)こんなもの、こうして、こうして......」

ゲオルド(蛙):「ゲローッ! こんの召使いめ、なんてことしやがる!」

ロイス:「誰が召使いだ!」

ロイス&ゲオルド(蛙):「ぐぬぬぬぬぬぬ......」

マリー:「掃除が終わったら次は洗濯もよろしくね。 (あくび)私、この後お昼寝の予定があるから」

ロイス:「......なぁ」

マリー:「なによ?」

ロイス:「......街に疫病を撒いたのは、本当にお前なのか?」

マリー:「......私じゃないって言ったら、どうする?」

ロイス:「え?」

マリー:「信じる?」

ロイス:「それは......」

マリー:「(笑う)それじゃ、おやすみ」

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※家の外で洗濯をしているロイスとゲオルド


ロイス:「はぁ、やっと洗濯が終わった......にしても、魔法が使えるならもっと簡単に済むんじゃないか......?」

ゲオルド(蛙):「ゲロ~。仕事は片付いたか? ご苦労ご苦労」

ロイス:「お前、本当に全く手伝わなかったな......」


ロイス、何気なく家の周囲にある石碑に目を向ける


ロイス:「......なぁ、この石碑......これって、一体なにか知ってるか?」

ゲオルド(蛙):「さァ、なんだろうなぁ」

ロイス:「文字が彫ってあるみたいでさ。けど、魔女の言葉なのかな。読めなくて」

ゲオルド(蛙):「そんな事気にしたってしょうがないだろ~。さ、ちょっと休憩しようぜ」

ロイス:「......ああ」


※昼寝を終え、目を覚ましたマリー


マリー:「ん~~。よく寝た。それじゃあ私は少し部屋に籠るから。邪魔するんじゃないわよ」

ゲオルド(蛙):「......さて、うるさいのが居なくなったことだし。俺たちもちょっくら出掛けるか」

ロイス:「お前、このあいだ散々ひどい目にあったばかりなのに、まったく懲りて無いな......」

ゲオルド(蛙):「当たり前だろ。そうだ。大将のために俺が良い場所に連れて行ってやる」

ロイス:「良いところって?」

ゲオルド(蛙):「ケッケッケロ。まぁついて来りゃ分かるさ」

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ポワソン(店員):「ゲロちゃんいらっしゃい! 久しぶりだな!」

ゲオルド(蛙):「おぉ。どうだポワソン、店は繁盛してるか?」

ポワソン(店員):「(笑う)まぁ、それなりにな」

ロイス:「......ここは?」

ゲオルド(蛙):「ここは酒を飲むところ。パブだ」

ロイス:「はあっ? なんだってこんな場所に......」

ポワソン(店員):「おっと、兄さん見ない顔だね。どこから来たの?」

ロイス:「え、いや、俺は......」

ゲオルド(蛙):「この大将がな、酒の味も知らんというから俺が連れて来たんだ」

ポワソン(店員):「へえ、若いのに今時めずらしいね」

ロイス:「お、俺は酒は苦手なんだ。それに、教会は飲酒を禁じている!」

ゲオルド(蛙):「教会は飲酒を禁じちゃいないさ。《酒を愉快に飲め》。これが教会の教えだろう?
       罪とされていることは《酔っぱらうこと》さ。」

ロイス:「ぐっ......」

ゲオルド(蛙):「何事も経験だぞ大将。それに教会勤めの騎士だと、規則が厳しくて中々羽根を伸ばせないんじゃないか?」

ポワソン(店員):「え、兄さん、教会の騎士さんなの? 珍しいな、話聞かせてくれよ」

ゲオルド(蛙):「それじゃあ、俺は向こうのテーブルで飲んで来るからよ」

ロイス:「お、おい! ちょっと待てカエル。俺を一人にするな!」

ゲオルド(蛙):「楽しめ人生を。くわっくわっくわ」

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※酔っ払っているロイスと介抱するポワソン


ポワソン(店員):「なあ、ロイス。飲みすぎじゃないか?」

ロイス:「ポワソン。俺は、別に騎士になんてなりたくなかったんだ」

ポワソン(店員):「けど、子供の頃からの夢だったんだろ?」

ロイス:「......幼いころは、確かにそうだったよ。けど」

ポワソン(店員):「けど?」

ロイス:「......自分を犠牲にして誰かを守るって、そういうの......偽善だろ?
     俺、誰かのためにそういう風に行動するとか、出来ないんだ」

ポワソン(店員):「なるほど......確かに、騎士って大変な仕事だよな」

ロイス:「......ごめん、変なことを話してしまって」

ポワソン(店員):「気にするなよ。......そう言えばさ、最近街で噂が広がっているの。知ってるか?」

ロイス:「うわさ?」

ポワソン(店員):「そう。なんでも最近広まってる疫病は魔女の仕業だって」

ロイス:「......あれのことか。あれは魔女じゃない。別の誰かの仕業だ」

ポワソン(店員):「え、そうなのか?! でも、街の皆がそう言ってるぞ」

ロイス:「本人がやってないって言ってた」

ポワソン(店員):「......ふーん。なあロイス。その話。もっと詳しく聞かせてくれよ」

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※少しして酔いつぶれるロイスと、それを見ている人物


ゲオルド(蛙):「ゲロ? なんだなんだ。もう酔い潰れちまったのか大将」

ロイス:「う、うーん......」

ポワソン(店員):「そうなんだよ。悪いんだけどゲロちゃん。連れて帰ってくれるか?」

ゲオルド(蛙):「しょうがねぇなぁ。お代はここに置いてくからよ」

ポワソン(店員):「まいどあり。また来るのを待ってるよ」

ゲオルド(蛙):「おう、それじゃあな」

ポワソン(店員):「(笑う)......なるほどね」

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※後日、マリー宅で外出を問い詰められるロイス


マリー:「あ・れ・ほ・ど言ったのに、また勝手に外に出歩くなんて......ほんと良い度胸ね、アンタたち」

ロイス:「ち、違う。あれはカエルに無理やり連れだされて......!」

マリー:「言い訳無用。ロイス。罰としてアンタは今日一日、私の部屋の掃除をすること」

ロイス:「分かったよ。ちなみにカエルは......?」

マリー:「家の周り全部の草むしりをしてるところ」

ロイス:「......」

マリー:「言っておくけど、部屋にはアンタの給料じゃ一生かかっても手が届かない物が山ほどあるんだから。
    壊したりしたら承知しないからね。分かった?」

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※マリーの部屋に移動したロイス


ロイス:「(溜め息)随分と物が溢れてる部屋だな......とりあえず、始めるか。
    よいしょっと。これはゴミだよな。これは......紐か何かでまとめておくか。あとは......」


※棚に置かれた、古いぬいぐるみを見つける


ロイス:「この......ぬいぐるみ。どこかで......」

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※家の外の物陰でゲオルドを見かけるロイス


ゲオルド(蛙):「お、大将良いところに来たな」

ロイス:「お前こんな物陰で何をしてるんだ。草むしりはどうした?」

ゲオルド(蛙):「シー。あれを見てみな」

ロイス:「あれ?」


※視界の先で、何人かの子供と、それを見下ろしている魔女がいる


マリー:「......もう、あなたたち、また来たの? 駄目じゃない。今度来たらカエルにするって言ったでしょ?」

ロイス:「子供......?」

ゲオルド(蛙):「まぁ見てな」

マリー:「ちょっ! 泣かないでよ。冗談よ冗談。まったくもう......子供ってすぐに泣くんだから。
     え、お腹が空いて泣いている? なによもう、ビックリさせないでよね......。
     ......そ、そうだ。あなた達。プレッツェルってお菓子、食べたことある? 
     うちに食べきれないほど沢山あるんだけど、良かったら......べ、別に嫌ならいいのよ。嫌なら。
     え、プレッツェル好きなの? ほんと? そ、そう。ならちょうど良かったわね。
     いいのよ! 沢山あるんだから、好きなだけ持って行きなさい」

ロイス:「......意外な物を見た気分だ」

ゲオルド(蛙):「嬢ちゃんは素直じゃないからなァ。ちなみにあの菓子、どうしたと思う?」

ロイス:「どうしたって?」

ゲオルド(蛙):「(笑う)あの子供たちが来るのを見越して、ここ最近ずっと家で準備してたんだよ」

マリー:「ふふ......って。ちょっと、アンタたちいつからそこに居たの!? ちゃんと仕事は済んだんでしょうね!」

ゲオルド(蛙):「ゲロッ! やばい、見つかった」

ロイス:「あっオイちょっと待てカエル!」

マリー:「こら! 待ちなさ~い!」

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※街の教会、ソナペルとポワソンが話している


ソナペル:「どうでしたか? 何か有力な情報は掴めましたか」

ポワソン:「ああ。――お前のところの騎士が、どうやら魔女と接触したようだ」

ソナペル:「なんと......それは一体誰です?」

ポワソン:「確かロイス、と言っていたかな。若い騎士だった」

ソナペル:「ほほう......ポワソン」

ポワソン:「なんだ、神父殿」

ソナペル:「最近のロイスの足取りは掴めていますか?」

ポワソン:「ああ。最近よくアイツが向かっている場所に調べがついている。あと、おかしなことに」

ソナペル:「おかしなこと?」

ポワソン:「道の途中で不意に消えたと思ったロイスが、しばらくすると突然また現れたという目撃情報もある」

ソナペル:「(笑う)なるほど、きっとそこがネズミの住処ですね。――すぐに向かいましょう」

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※扉がノックされる音


マリー:「なによもううるさいわね。ゲオルド? ロイス? そんなに鳴らさなくても聞こえてる――」

ポワソン:「動くな」

ソナペル:「(笑う)ご機嫌よう。こうして会うのは初めてですかね、《魔女》様?」

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マリー、腕に枷をつけられて連行されているのをロイスが見つける

ソナペル:「この女は魔女です。連れて行きなさい。くれぐれも、隙を見せないように」

ロイス:「ま、待って下さい!」

ソナペル:「おや......ロイス。どうしました?」

ロイス:「ソナペル神父。何故ここが......それに、どうしてマリーを連れて行こうと......!」

マリー:「いいのよ、ロイス」

ロイス:「違うんだマリー。誤解なんだよ。ソナペル神父達の誤解なんだ。ちゃんと説明すれば、きっと――」

マリー:「いいのよ。だって......私が全部やったんだもの」

ロイス:「......え? おい。マリー。お前、何を言って......」

ソナペル:「(笑う)どうです、ロイス。彼女もこう言っているでしょう?」

ロイス:「そんな、何かの間違いだ」

マリー:「何も間違いじゃ無いわ」

ロイス:「間違いじゃないならなんで! お前、俺を騙したのか......?」

マリー:「(笑う)......ええ、そうよ」

ロイス:「はじめから、全部嘘だったのか......?」

マリー:「アンタ、勘違いしてるみたいだから教えておいてあげる。魔女は嘘をつく生き物よ」

ソナペル:「さあ、話が済んだのなら早く歩きなさい」

マリー:「待って、その前に――《鎖を放つ》」

マリーが指をかざすと、ロイスの首のまじないが消えて無くなる

マリー:「......これで、あなたにかけたまじないは解けた。もう自由よ。どこへでも、好きな場所に行きなさい。
     もう二度と......ここに近付いたら駄目よ」

ソナペル:「連れて行け」

マリー:「それじゃあね。短い間だったけど……元気でね」

ロイス:「おい、待てマリー! くっそ、離せ!」

ソナペル:「(溜め息)どうやら気が動転しているようですね。......ロイス。しばしの間、地下牢で頭を冷やしなさい」

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※地下牢にて


ゲオルド(蛙):「よっ、大将。生きてるか?」

ロイス:「か、カエル! お前どこから......」

ゲオルド(蛙):「ゲロッ、この体で入れない隙間なんて無いさ。で、何やってんだこんなところで」

ロイス:「......見て分からないか、牢屋に入れられてるんだよ」

ゲオルド(蛙):「おやおや、ひきこもりたい年頃か?」

ロイス:「......からかいに来たのなら、帰れよ」

ゲオルド(蛙):「冗談だよ、ヘソ曲げるなって......あのな、嬢ちゃんが捕まった」

ロイス:「知ってるよ......俺は、ずっとあいつに騙されてたんだ」

ゲオルド(蛙):「本当にそう思ってるのか?」

ロイス:「......どういうことだよ」

ゲオルド(蛙):「大将。そもそも、何であいつが大人しく捕まったと思う?」

ロイス:「......それは、あいつが、街に毒を撒いたからだろ」

ゲオルド(蛙):「あんなもん、教会側が仕込んだことだ。嬢ちゃんは何もやってない」

ロイス:「そんなバカな......! それじゃあ、何で、あいつ何も言わずに捕まって......」

ゲオルド(蛙):「嬢ちゃんの家に、遊びに来ていた子供達が居たのを覚えてるか?
       あいつらが、魔女と結託して街に疫病を撒いたんじゃないかって、教会から疑いの目をかけられてたんだよ。
       それを知った嬢ちゃんが《自分が疫病を撒いた》って嘘をついてかばったんだ」

ロイス:「あいつ、それで......」

ゲオルド(蛙):「子供だけじゃない。疑われていたのはロイス、お前もだ。嬢ちゃんは、お前も含め守ったんだよ」

ロイス:「そんな......あいつ、何で一人で逃げないんだ。あいつなら幾らでもやりようがあっただろ」

ゲオルド(蛙):「さぁな。それは今まで、アイツのことを近くで見て来たお前なら、分かるんじゃないか?」

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※回想

マリーM:私が使える魔法? そうね......炎を出したり、雨を降らせたり......
     動物に変身させたり、......《疫病を広める》魔法も、勿論知っているわよ。

     けど、私は基本的に、魔法は使わないと決めているの。何故って? それは、人を傷つけないためよ。

     これまで亡くなった魔女たちの中には、悪い魔女も居たかもしれない。けど、良い魔女も居たのよ。
     ......家の外にあった石碑、見た? あれは、ありもしない罪で、命を落とした《魔女》の名を刻んだもの。
     私は、そんな理不尽な目に合う人達を守りたいし、そんな世の中を変えていきたいの。
     そして、私自身が証明したいの。この世には《良い魔女》も居るってことを。それに。

     私が魔法を使うなら、それは誰かを救うため。――そういうことのために魔法を使いたいの。

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ロイス:「......そうだ、あいつは、そういうやつだった」

ゲオルド(蛙):「さっき、街の広場を見てきた。時間が無い、今まさに、嬢ちゃんの処刑の準備が進んでる」

ロイス:「処刑だって!?」

ゲオルド(蛙):「ああ。どうやら教会のやってきた不祥事のすべてを、嬢ちゃんにかぶせるつもりらしい」

ロイス:「そんな、止めないと! くっ......でも、鍵が」

ゲオルド(蛙):「安心しろ。鍵ならちゃんとここにある」

ロイス:「お前。それをどこで......」

ゲオルド(蛙):「今はそんなことどうだっていい。お前はこれからどうするつもりだ?」

ロイス:「俺は......」

ゲオルド(蛙):「お前はもうあいつの奴隷じゃない。自由の身だ。しかし、お前は教会の騎士でもある。その上で、お前はどうしたい?」

ロイス:「......俺は確かに、教会の騎士だ。教会の決断に、俺は逆らえない。だけど......」

ゲオルド(蛙):「昔、俺の周りをチョロチョロついて回って来た子供が、よく言ってたっけな。確か、なんだっけな」

ロイス:「......《泣いてる人がいたら助ける、それが騎士だから》」

ゲオルド(蛙):「ケッケッケロ。ああ、それだそれ」

ロイス:「......すっかり忘れていた。そんな、当たり前のこと」

ゲオルド(蛙):「それじゃあ改めて聞くぞ? 《泣いてる魔女がいたら?》」

ロイス:「助ける!」

ゲオルド(蛙):「ケロケロ! オーケー、それじゃあ行くぞ。嬢ちゃんを助けにな」

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ポワソン:「魔女、食事だ。食べろ」

マリー:「......」

ポワソン:「お前には市民の前で刑を受ける大事な役目がある。その前に死なれたら困るんだ。ほら、食べろ」

マリー:「お断りだわ」

ポワソン:「そうか、なら......(腹を蹴る)」

マリー:「(苦しそうに呻く)」

ポワソン:「優しく言われているうちに従った方が身のためだぞ。もっと辛い目に合いたくなければな」

マリー:「......い、や」

ポワソン:「(笑う)まったく、《正直者は馬鹿を見る》とは正にこの事だよな」

マリー:「なにが、言いたいの」

ポワソン:「だってそうだろォ? 黙っていれば何とかなっただろうに、自分が魔女だってことをぺらぺら喋っちまって。
      挙句このザマだ。全く、魔女ってやつはみんなこうなのか? 救いようが無ぇよなぁ」

マリー:「......救いようが無いのは、あんた達よ」

ポワソン:「......なんだと?」

マリー:「自分のことしか考えず、その上子供まで使って自分の罪を隠そうだなんて。
     とんだ極悪野郎だわ。私が神だったら、真っ先にアンタ達に天罰を下してやるわよ」

ポワソン:「残念ながらお前は神じゃ無く魔女だ。可哀そうになぁ......? 懐の広い神様でも、お前は助けてやらないってさ」

マリー:「......」

ポワソン:「おっと。合図だ。さあ立てよ、魔女。お前の最後を飾る大仕事だぞ」

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※街の広場、磔にされたマリーと、その周辺にたむろする聴衆たち
 住人はマリーに石を投げている


ソナペル:「――皆様! しかと御覧ください。この女こそ、この街を恐怖に陥(おとしい)れた諸悪の根源、《魔女》です!」

住人1:「この魔女! お前のせいで!」

住人2:「お前なんか居なければ良かったのに!」

マリー:「......」

ソナペル:「さあ、魔女。何か言い残すことはありますか?」

マリー:「あの子たちは......無事?」

ソナペル:「ええ」

マリー:「そう、ならいいわ」

ソナペル:「ふん......我ら教会は異端審問(いたんしんもん)の結果、これより――この魔女に火炙りの刑を執り行います!」

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※街を走るロイスとゲオルド


ロイス:「やばい、広場から煙があがってる!」

ゲオルド(蛙):「これは急がないといけねぇな」

ポワソン:「そこまでだ。止まれ、ロイス」

ロイス:「!」

ポワソン:「今まさに、広場で処刑が執り行われている。悪いがここから先は通行止めだ」

ロイス:「何故俺の名前を......いや、そんなことはどうでもいい。急いでいるんだ、邪魔をするな!」

ポワソン:「(笑う)俺のことを覚えていないのか? ロイス」


※ポワソンがフードを外して顔を露にする


ポワソン:「あの日、酒場で楽しく飲み交わした仲じゃないか」

ロイス:「そんな、ポワソン......お前......どうして」

ポワソン:「こっちが本業でな。悪いが、事の全容を知ってるお前には、ここで消えてもらう」

ポワソンの剣とゲオルドの剣がぶつかる

ゲオルド(蛙):「おっと、大将を取る前に、まずこの俺を倒してからにして貰おうか」

ロイス:「カエル!」

ゲオルド(蛙):「いいからお前は嬢ちゃんのところに走れ! まだ間に合う!」

ロイス:「ああ、分かった!」

ポワソン:「......誰かと思えばゲロちゃんじゃないか。怪我をしないうちに帰った方が身のためだぞ?」

ゲオルド(蛙):「こいつは参った。こんな老いぼれのことを心配してくれるのかい?」

ポワソン:「ああ、とてもじゃないけど、アンタじゃ俺には役者不足だ」

ゲオルド(蛙):「(溜め息)そこまで言われちゃ仕方ない、ファンサービスにお答えして......特別に見せてやろう(薬を飲む)」

ゲオルド、隠していた薬を飲み干す。すると、ゲオルドの姿が大柄の男性に変わった

ポワソン:「へえ。喋るカエルなんて珍しいと思ったが、アンタ、人間だったのか」

ゲオルド:「――自己紹介が遅れたな。元騎士団長、ゲオルド。弟子に代わりお相手しよう」

ポワソン:「(笑う)こいつはとんだサプライズだ......嬉しいね! 久しぶりに、ゾクゾクしてきた」

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マリーM:空が赤い......これで、私もおしまいか。
     けど、不思議と後悔は無い。なんでだろう。
    
     魔女に生まれて、良い事なんてひとつも無かった。
     もし、次に生まれるのなら、今度は、普通の人間に生まれたいな。
      
      ああ、ゲオルド......あいつの魔法、解いてあげられなかったな。
      アイツは......無事に逃げることが出来たかな。

     ――そう言えば、昔、いたな。私が困った時に助けてくれた男の子が。
     あの子は、今どうしてるだろう。

ロイス:「(荒い呼吸)こいつは、悪い魔女じゃない」

マリーM:......誰?
    
ロイス:「確かにこいつは身勝手で、横暴で、自由奔放な魔女だ。けど、決して、人を傷つけたりはしない」

マリーM:幻聴かしら。アイツの、声がする。

ロイス:「いい加減に目を覚ませ! お前たちの考える魔女は居ない! ここに居るのはただの、心の優しい魔女なんだ!」

ソナペル:「何者です!」

ロイス:「知れたこと! 俺はロイス! あいつの、《魔女》マリーのただ一人の騎士だ! 我が主を返してもらいに来た!」

マリー:「ロイス......!」


※磔にされたマリーを救助するロイス


ロイス:「すまないマリー、遅くなった!」

マリー:「アンタ、まさか......助けに来たの?」

ロイス:「当たり前だろ。約束したからな」

マリー:「......本当に人間って、愚かで、考え無しで、どこまで......バカで......」

ロイス:「......もしかしてお前、泣いているのか?」

マリー:「なっ、泣くわけないでしょ。バーカバーカ。涙なんてもう、とっくの昔に枯れてるわよ」

ロイス:「(笑う)そうだよな、安心した。俺が知ってる魔女はそういうやつだ」

ソナペル:「おや......誰かと思えば、ロイスではありませんか。こんなところで、一体何をしているのです?」

ロイス:「ソナペル神父! どうしてこんなことを!」

ソナペル:「街に疫病を広めた魔女を処刑しようとしているのです。それの何がおかしいと?」

ロイス:「あれは誤解だと言ったはずだ!」

ソナペル:「誤解......(笑う)そうでしょうね、誤解に違いありません」

ロイス:「ソナペル神父......もしかして、最初から全て知っていて......?」

ソナペル:「(笑う)当たり前でしょう。何故なら、この筋書きを書いたのは私なのですから」

ロイス:「そんな......! なんのために!」

ソナペル:「なに、教会の信者を増やすためにあれやこれやと手を回していたのですが、
      いささか......火種が大きくなりすぎましてね。
      折角ですので、そこの魔女と一緒に、全て燃やしてしまおうと思っただけですよ」

ロイス:「そんなことのためにマリーを、処刑するつもりだったのか......!?」

ソナペル:「ロイス。あなたは教会の騎士です。教会のため、魔女をその剣で始末しなさい」

ロイス:「お断りだ」

ソナペル:「......何ですって?」

ロイス:「俺の剣は守りたいもののためにある。決して、お前らのような私利私欲のためにあるわけじゃない」

ソナペル:「(溜め息)残念です。あなたはもう少し物分かりの良い駒だと思っていたのに......」

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※ポワソンとゲオルトが剣で切り結ぶ


ポワソン:「(大笑い)どうしたどうした? もっと真剣にやってくれよ、騎士団長さんよォ! すぐ終わっちゃつまらないだろォ!?」

ゲオルド:「っとと。デカい口を叩くだけのことはある。中々良い剣捌きだ」

ポワソン:「当然! こっちは毎日命の奪い合いをしてるからな! 温室育ちの騎士様とはワケが違う!」

ゲオルド:「こっちだって、伊達に死線はくぐっちゃいないさ」

ポワソン:「あまり余裕カマしてると、痛い目見ても知らねぇぞ! そらっ!」

ゲオルド:「くっ! これは......暗器か!」

ポワソン:「そうさ、俺の得意技。言っておくが、刃に触れないように気を付けろよ? たっぷり毒が塗ってあるからな!」

ゲオルド:「(舌打ち)一対一の勝負に、飛び道具を持ち出すとは......!」

ポワソン:「(笑う)剣一本で戦おうなんて、いまどき古臭い考えさ。使えるもんはなんでも使う。それが俺の流儀だ!」

ゲオルド:「ぐっ!」

ポワソン:「ほおら、捕まえたぞォ!」

ゲオルド:「ぐっ、しまっ、た......」

ポワソン:「(笑う)さすがのアンタも、こう鎖で雁字搦(がんじがら)めにされちゃあ、身動き取れないよなァ?」

ゲオルド:「く、くそ......」

ポワソン:「さぁて、どう殺して欲しい? 少しずつスライスされるのがお好みか、分厚くカットされるのがお好みか」

ゲオルド:「......(笑う)」

ポワソン:「......なにがおかしい?」

ゲオルド:「駄目なんだよなぁ、素人って言うのは。完全に勝ったと思い込んで油断して勝機を逃すんだ。正に、今のお前のようにな」

ポワソン:「死ぬのを待つだけのカエルが、何を偉そうなことをほざいてやがんだァ?」

ゲオルド:「生憎と、俺の騎士としての魂は、お前程度の脅しには屈しない」

ポワソン:「(笑う)......ああ、そうかよ。それじゃあお望み通り、お前の騎士の心臓を一突きにしてやらァ!」

ゲオルド、その場から衣服を残して居なくなる。元の姿に戻るカエル

ポワソン:「なにっ!?」

ゲオルド(蛙):「おっと、ちょうど薬の時間切れか。《ついてる》な」

ポワソン:「こんの、往生際が悪いぞ、老いぼれジジイ!」

ゲオルド(蛙):「お前のような若造に遅れをとるほど、落ちぶれちゃいないさ」

ポワソン:「うるせえ! そんな姿で、一体何が出来る!」

ゲオルド(蛙):「(笑う)お前には、この一本の針があれば十分さ」

ポワソン:「ぬかせェ!」


ゲオルド、目にもとまらぬ速さで急所を突く。倒れるポワソン

ゲオルド(蛙):「この老人の太刀筋、目で追えたか?」

ポワソン:「ぐ、ぐうう......! そんな、馬鹿な......!」

ゲオルド(蛙):「ゲロッ。あいててて、久しぶりに動いたら、こ、腰が......。さて、こっちは終わったぞ。あとは......根性見せろよ、弟子」

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※箒にまたがり、上空から街を見下ろすロイスとマリー


ロイス:「ひとまず空の上なら安心か。それにしても......大丈夫か、マリー」

マリー:「なんとか。それにしても、酷い有り様ね......」

住民1:「(せき込む)神父様。街に、疫病が広まっています!」

住民2:「それに、広場の火があちこちに燃え移って......どうか、どうかお助けを......!」

ソナペル:「ええい、今はそれどころでは無いのです! 離しなさい!」

住民1:「ああっ!」

住民2:「なんてことをするのです!」

ソナペル:「黙りなさい! ネズミが何匹死のうと、私には関係ありません!」

マリー:「あいつ......!」

ロイス:「マリー。お前の魔法で街に広まってる炎を、なんとか出来ないか?」

マリー:「私を誰だと思ってるの。魔女マリー様よ? そんなこと造作も無いわ(指を鳴らす)」


※マリーが指を鳴らすと、街中に雨が降り、火の手が弱まって行く


住民1:「おお、おお......恵みの雨だ!」

住民2:「あれ、なんだか、呼吸が楽に......? か、体から斑点が消えていく......!」

マリー:「(笑う)今なら特別サービスで、疫病も治すおまけ付きよ」

ソナペル:「あの魔女め。余計なことを......! ポワソン! どこにいるのです! 今すぐまた毒を撒きなさい、今すぐに!」

住民1:「毒を......? 何を言っているのです神父様」

住民2:「まさか......神父様が街に毒を撒いたのですか?」

ソナペル:「(驚いて口を手で覆う)な、何を言っているのです。私は神父ですよ。そんなことするわけが......」


※ロイスとマリーが箒で降りて来る


ロイス:「いや、そいつがすべての元凶だ」

ソナペル:「ろ、ロイス!」

マリー:「安心して。私の魔法で、広まっていた炎はすべて消えたわ。それに、じきに疫病の症状も収まっていくはず」

ロイス:「さあ、ソナペル神父。これまでマリーに行ったことも含め、罪を償うんだ」

ソナペル:「ぐ、ぐぐ......」

ロイス:「さぁ、マリー」

マリー:「なに?」

ロイス:「皆、お前が悪い魔女じゃないことはもう分かってる。だからもう遠慮する事は無い。あいつに天罰を下してやれ」

マリー:「(笑う)......あらそう? そういうことなら」

ソナペル:「そろり、そろり......」

マリー:「あら神父様。どこへ行こうとしてるの?」

ソナペル:「(悲鳴)お、おや。誰かと思えば、魔女様ではありませんか」

マリー:「(笑う)そんなに怖がらなくても大丈夫よ。ところで私、あなたに質問があるの」

ソナペル:「し、質問? 私にですか......? 一体、何でしょう」

マリー:「あなた、《この世で一番嫌いな生き物はなに》?」

ソナペル:「な、何故そのようなことを?」

ゲオルド(蛙):「ネズミらしいぞ。前にネズミを見てぎゃーぎゃー騒いでるのを見た」

ソナペル:「こらっ、余計なことを言うんじゃありません!」

マリー:「(笑う)ネズミね。なるほど......」

ソナペル:「あの、魔女様? 一体、何の話をしているのです?」

マリー:「いえね。ネズミって、あなたにぴったりな動物だなと思って」

ソナペル:「と、言いますと......?」

マリー:「こういうことよ。《小さき者に姿を変えよ》(指を鳴らす)」


※マリーが指を鳴らすと、ソナペルの姿がネズミに変わる


ソナペル:「......チュウ!?」

マリー:「(笑う)せっかくだから、あなたにもネズミの暮らしを少しは体験して貰おうと思って」

ソナペル:「チュ、チュウ......」

マリー:「ほ~ら、猫ちゃんたち。あそこに可愛い可愛い、ネズミちゃんがいるわよ?」

ソナペル:「ま、待てチュウ、マオたそ。私だチュウ......」

猫:「マァー!」

ソナペル:「チュウ~~~!」


※猫に追いかけられ、ソナペルは街のどこかに消えて行った


ロイス:「やれやれ。これで一件落着か」

---------

ロイスM:後日。今日もマリーの家にはひっきりなしに手紙が届く。


マリー:「......ああもう! どうしてこう次から次へと仕事が来るの! ちっとも休めないじゃない!」

ロイス:「それだけ街の人間に頼りにされてるってことだろ。良いことじゃないか」

マリー:「もういや。私これ以上働かない。もう寝る。あとは全部アンタがやっといて」

ロイス:「おいお前仕事丸投げするなよ!」

ゲオルド(蛙):「ゲロゲロ。いや、実に平和だね」

ロイス:「......なぁ師匠。あのあとマリーにカエルの魔法は解いて貰ったんだろ? なのに、なんでその姿のままなんだ?」

ゲオルド(蛙):「いや、こっちの姿の方がなにかと居心地が良くてな」

ロイス:「そういうもんなのか」

マリー:「もう......あ。ロイス。こっちはアンタへの手紙よ」

ロイス:「俺に?」

マリー:「そう。街のパブで、最近暴れてるやつが出入りして困ってるって」

ロイス:「なるほど。それじゃあちょっと見て来るか」

マリー:「言っておくけど! その仕事が終わったら私の方も手伝うのよ! 分かった!?」

ロイス:「分かってるよ。......さて、それじゃあ今日も人助けと行きますか」

<完>
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