掛け合い 龍と贄


巣で寝ていると、今は使われてない私への供物を捧げる祭壇、そこに気配を感じた。もしやと思い翼をはためかせ祭壇へと向かう。祭壇では1人の少女が祈りを捧げていた。
私は彼女に話しかけるために祭壇に降り立つ。
「少女よ、何故(なにゆえ)ここに来たのですか?」
そう少女に問いかけ、俯く彼女は顔を上げる。

(あぁ…その瞳は……)

少女の眼(まなこ)は黒ずんだ血のように赤かった。
「古の龍神さま、私はこの瞳ゆえに化け物と言われ村を追われました」
「それ故に…あの村を滅ぼして欲しいのですか?」
「いいえ!あの村は私の故郷です。私が食べられても構いません。どうか…これからもあの村をお守りください」
そう再び頭を下げる彼女の手は少し震えていた。

あぁ、なんと悲しく健気であろうか。
自らを見捨てた人たちなど…村など恨んでしまえばいいものを…彼女は恨みもせず、身をもってして守ろうとしているのだ。
ならば私は……私だけは彼女を……

「……いいでしょう。貴方の願い聞き届けました」
「本当ですか!ありがとうございます龍神さま!」
「ええ、では行きましょうか。背中に乗ってください」
「……え?」
少女が呆(ほう)けた顔になる

(あぁ…少し可愛らしいですね)

「えっと…私は食べられるん…ですよね?」
「いいえ、食べませんよ?確かに肉という物は好きですが…人の肉は食べようとは思いませんね。」

私だけは彼女のことを人として見よう。

「えっと…それなら何処に…?」
「私の巣です。よく聴きませんか?龍は自身の宝物を巣に集めると、貴方はもう私の物です。それを持ち帰ってなにか可笑しいでしょうか?」
「え…えぇと……?」
そんな言葉に少女は困惑しているようだ。

(死ぬ覚悟がふいになれば無理もないですか
…)

「さぁ、早くお乗りになりなさい」
「は、はいっ!」
そう言って彼女は急いで私の背に乗る。

軽い、比較する対象はないけれどもきっと彼女は人の中でも軽いのだろう。風で飛んでしまわないように気をつけなければ。

翼を広げ、舞い上がる。そうして飛翔を始める。

「うわぁ……!」
背中から感嘆の声が聞こえた。
「どうですか?この世界は。貴方の知ってる世界は小さきものなのです。いつか私と貴方で世界を回ってみましょう」
そう背中に乗る少女に言う、死ぬ理由を作って縋り逃げていた少女に。
「はいっ!」

この世界は、まだ見ぬもので溢れているのだから。
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