理想の境界線 Part1


僕は、戸惑っていた、運命とはこれほど残酷なものか、と。

これは自分を失ったある男のものがたり。


登場人物

・高岸彰俊 (たかぎし あきと)
 中等部3年3組の一員。
 自称”自堕落人間”

・中山鏡華 (なかやま きょうか)
 中等部3年3組の一員、転校生。
 自称"やる気なしの乙女”

・東開 進次 (とうかい しんじ)
 高等部3年3組のガキ大将。
 高岸の幼なじみ。
 自称”パワフルボーイ”

**
第一章
薄暗い蛍光灯

季節は冬、冬休みが明けてもまだまだ寒い1月の外。
僕は朝早くから学校に向かっている、吹雪のような激しい雪にあおられて
僕は、足早に学校へと向かう。
中高一貫の学校なので、この通学路はとても混み合う。
高等部の生徒たちが歩道を我が物顔で歩きながら
周りのことなど気にせずにわいわいと話している。
そんな喧騒をよそに僕は吹雪の中を走り抜ける。
15分かけてようやく学校にたどり着くことができた。
「私立 木山中学校・高等学校」の立て札が見える。
この学校が僕の通う学校だ。5階建ての古びた鉄筋構造の校舎である。
校門をくぐり、しばらく歩いた後、重たい押し扉を開けて下駄箱に向かう、
体育館シューズに履き替えるとこもっていた熱が一気に逃げて
足がかじかむ、急いで上履きのかかとを踏みながら僕は
自分の教室に向かう、教室へと向かう階段や廊下は
蛍光灯の電気が切れかかっているのか薄気味悪い雰囲気だ。
3階の表記が見えたところで足を止める。
ここまで、僕は誰ともすれ違っていない。
先生たちは朝礼をしている時間のようだ。
再び歩き出して、自分のクラスの3年3組を目指した。
古びた木製の引き戸を引いて教室の中に入る。
教室の中には誰も居なかった。
「おはようございます。」一応僕は挨拶をしておいた。
クラスの窓際に飾られたまばゆい色彩のポスターが目立っている。

教室の中は肌寒いのでエアコンのスイッチを勝手に操作して
すかさず暖房を効かせる、このクラスの人たちは皆空調を嫌う、
だから今だけでも寒さしのぎとして暖房を効かせておいた。
古びたエアコンから暖かい風がモーター音とともに流れ込む。
こんな、素朴な空気が僕は好みだ。

ガラガラガラ・・
突然教室の引き戸がきしみながら勢いを持って引かれた。
僕は背筋を凍らせたが・・、入ってきたのが中山だと知って安心した。

中山は戸を閉めた後、僕に近づいてきた。
「おはよう、あき君。」普段は笑顔を見せない彼女は僕にだけ
こうして笑顔を見せてくれる、変わらない笑顔にほっとしながら、僕も相づちを打って
挨拶を交わす、「おはよう、きょうかちゃん。」
中山はうっすらと頬を赤く染めた、

中山きょうかは2学期からの転入生だ、
転入当初はクラスの男子集団に美人だの騒がれたりしていたが、いつしかクラスの中で中山は孤立していった。
くりんとしたつぶらでかわいらしい瞳に笑うと小動物的な愛らしさのあふれる顔。
背は低くて、152センチあまりだ、運動神経はお世辞にもいいとはいえない、そんな彼女の友達は
僕一人だ、ほかの友達を作る気は無いらしいので、僕も暇つぶしの仲間として中山になついている。

中山は席について小説を読み始めた。
僕は鞄の中の整理をしていた。

**
第1.5章
独走、疾走、迷走。

朝のホームルームが終わって、次の授業はこの学校特有の
ランニングの時間だ、15分間の周回数をカウントして
自分の記録や、体力作りとして活かそうというもの。
高等部と中等部の合同授業の一つでもある。

僕はうしろから肩をたたかれた、
びっくりして誰かと思ってふりむくと進次の顔が見えた。
「よう、あきと、寒くねぇのか?」
僕はこう返した。
「進次のせいで余計に寒くなっちゃったよ。」
進次はニッコリ笑って、「さぁ、走ろーぜ?、走れば心も体もあったまるんだからな。」
と返してきた、僕は苦笑いしながらも進次についていくことにした。

進次は昔からの幼なじみで高等部の3年生だ。
身長も175センチという高身長だ、それを活かしてバスケ部に所属している。
人当たりもよく、女子受けもいい進次はみんなのムードメーカーだ。
いかにも体育会系というキャラが女子には人気らしい。

「おら、あきと、遅いぞおそいぞ!もうへばっちまったんか?」
僕は考え事をしているといつの間にか進次は50メートル先まで
走っていた、やはり、僕は貧弱な男だと痛感する。
グラウンドを吹き抜ける寒い風に凍えながら、
走り疲れて息を切らしながら僕は進次に呼びかける。

「だめだ進次、先行っててくれ!!」
情けないな、自分。
なんでこう貧弱でノロマなんだろうか。

僕がゆっくりとしたペースでグラウンドの土を踏みしめながら
足を進めていると横からきょうかが声をかけてきた。
「あき君?無理してるんじゃないかな、汗かいて顔赤くて、死にそうだよ??」
そう言われて僕は意地を張りながらこう返した。
「いいや、きょうか。 俺のことなんか心配するな、まだ行ける、やってやるさ・・!。」
息を切らしながら言われてもという顔できょうかは困惑していた。
そして、グラウンドを23周回った頃の僕は、よろけてしまい、地面にこてっと倒れ込んでしまった。
すぐに体育教師が僕の元に駆け寄る。
「おい、大丈夫か!、高岸!無理すんな、しばらくベンチで休んどけ!」
そう言って力の抜けた僕は体育教師におぶられて、ベンチまで連れて行かれた。

**
第2章
優しいぬくもりの中

あれ?ここはどこだ??
薄暗い照明が天井に取り付けられている・・・。
保健室か・・?僕は意識を失っていたようだ。
痛む首を我慢しながら回して見つめた先の時計は
午後13時を指していた。
隣には、イスに座ってすやすやと座りながら眠る鏡華の姿。
どうやらきょうかが僕をここまで連れてきてくれたらしい。

痛む体を急に動かしたからか、痛さのあまり僕は声を上げてしまった。
「ひ・・ぐぁあっ」情けない声だ。
鏡華は声にはびくともせず、すやすや寝息を立てて寝ていた。
寝顔はとても輝いて見えた。

頭の中での状況整理も全く追いついていない僕の意識はまた遠のいていく。

・・・・。

**
chapter3
Prologue


気づくと見覚えのない部屋に居た。
電気は明るく、清潔感がある。
古びたふかふかベッドと大量の文庫本が並ぶ7個の本棚が部屋にぎっしり置いてある。
まるで倉庫のようなたたずまいだが黒色を基調とする家具たちはシックな印象を漂わせている。
ふと1つの本棚を覗いてみるとライトノベルがぎっしり並べてあった。
にしてもおかしい、僕は全くこの部屋に見覚えがない。

古びた扉を開けて部屋の外に出ると、僕は驚いた。
すごく広い、ただただ広い、豪邸のようにシャンデリアが照明として玄関を照らしている。
廊下には部屋の案内板が置かれていた、ホテルじゃないんだから案内板なんか必要ないと思うのだが・・。
案内板をじっくり見ていると僕の部屋は書斎部屋だったと言うことが明らかになった。
でも、なぜ書斎にベッドが・・?、怪訝な目で何度も案内板を見返していると後ろから
背中を押された、誰かと思うと、それは鏡華だった、眠そうな目つきだ。
って・・鏡華?!なんでだ・・?僕は鏡華の家に連れてこられたのか?
思考が永遠と頭の中で続いて収まらない、そう慌てているうちに鏡華がこう言った。

「あき君、気がついたんだね、体の調子はどう?、
今日はうちに泊まって行ったらどうかな・・。あきくんのおうちまではここから2時間あるからさ・・。」

いろいろと頭の中でおかしくなっている。
いや、なぜだ?!、なぜ女性の家にお泊まりなんだ?!
しかも僕の家から遠すぎる!これは仕組まれた罠か?
緊張で胸がはち切れそうだ・・ああ・・・どうすればいいんだ?!。

「あきくん、落ち着いて、鼻の下が伸びてるよ。
 そんなに顔を赤くして・・、熱でもあるの?待ってて、今体温計持ってくるからね・・」

と言って鏡華は鏡面仕上げのされたピッカピカの廊下を颯爽と駆けていった。

一方、僕は、精一杯記憶を頭から引きずり出す。
なぜこんな風になってしまったのか。
思考の渦に飲まれた後、だんだん気怠くなってきて、僕は考えるのをやめた。
酷く体が痛む、今日一日は鏡華の家に泊まっていこう。

廊下にある窓から外を見上げる、鏡華の家は高台にあるようだった。
山から見下ろすような街の夕暮れがとてもきれいだ。

僕は書斎部屋に戻ることにした。

書斎部屋においてあるライトノベルの中には僕の好きな作家のものも入っていたので
少し読んでみることにした、僕はこのおかしな状況にだんだん慣れて行ってるのかもしれない。

コンコンッ 「あき君ー!」
木製の扉をノックする音が部屋に響き渡る、僕は急いでドアを開けた。
「はい、あき君、体温計だよ、熱あったら寝ててね。」

僕は戸惑いながらも体温計を受け取った。
体温計を脇の下に挟んで体温を測る。
しばらくすると体温計から電子音が発せられ
計測終了のランプが点滅した。
体温計は36度8ぶを示していた。
よかった、僕の平均体温だ、僕の平均体温は比較的高く、
高熱に対する耐久性のある体に仕上がっている。
だが、ここ最近貧血気味なのだ。

「平熱だよ。」
僕はそう鏡華に告げ、体温計を差し出すとベッドから立ち上がった。
「よかったねあき君!」
鏡華はなぜか知らないがにっこりと笑って僕の顔をずっと見つめている。
こんなに顔をまじまじと長く見つめられたのは2年ぶりだろうか。
そんな回想をしながらも日は一向に沈んでいく。
しばらく無言で佇んでいると、鏡華はこういった。
「あき君、晩ご飯、もうすぐできるから一緒に食べようね、
 部屋に呼びに行くよ、食事部屋があるんだ。」
僕の住んでいるボロアパートとは全く違うスケールだなと思いながら
自然と僕はそれにうなずいていた。

内心、僕は怖いのだ、また女性を傷つけてしまうのが。
だから心の内をさらけ出すようなこともしないし、
内向的な性格になりつつある、だけど、僕だって男だ。
恋愛もしたいし、自分を封じ込めたくない。
そんなもどかしい感情を抱きながらずっとこの中学生活を過ごしてきた。
けれど、このままではいけないような気がする、終止符を打とう。

「誰も傷けない。すべてを僕の計画通りに進めてやる。」

そこから僕の試行錯誤が始まった。
内面的性格の見直し、外面の見直し。
食事をするまでにはせめてでも上品な男子生徒になるという目標を立てた。
清潔感を身につければきっと周りから好印象に見られるはずだ・・。

なんて考えて部屋から出て広い廊下をうろついているうちに
また思考の海に沈んでしまう。

こうして、僕の挑戦は始まった。


**

part2に続きます。
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