地右衛門 親愛売却BADEND【地獄行きの抱擁】


某奴隷調教シミュレーションゲームのエンディングのイメージで書きました。
親愛状態からの売却でゲームオーバーになるってゲームシステム的にはとんでもない地雷だなって思います。
でもそれって地右衛門の愛なの♪愛なら仕方ないね。




「……は?」

売却を告げた地右衛門が意味が解らないといった表情で固まった。
地右衛門には恋人のように接していたし、彼の方もこちらに少なからず愛情を示してくれていた。まさかこうもあっさりと売却されるだなんて考えていなかったのだろう。

「……なんでっ、どうしてだよ、俺は……っ!」

硬直から立ち直った地右衛門がこちらの腕を掴み、睨みつけてくる。
しかしその目に出会った頃のような鋭さはなく、縋るように弱々しく揺れていた。

「俺、俺は……」

お前の恋人だろう、と言いたいのだろう。
監禁、調教から始まった関係だが、何度も身体を重ねたし、その度に愛を囁いた。そして少しずつ地右衛門もそれを受け入れるようになっていった。
拾ってきた野良犬や猫がようやく懐いてくれたような、そんな達成感と愛おしさのようなものは確かにあった。だが。

──お前は奴隷だ。

あくまで自分の借金を返す為の、その為の駒に過ぎない。
そうきっぱりと言い放つと、地右衛門が腕を掴んでいた手を離した。その顔に浮かぶのは、紛れもない絶望。

「は、ははっ……。そうかよ……。はは……。そうだ、そうだよな……。こんな奴、信じた俺が莫迦だった……俺が、愛されるわけなんて……」

壊れたように笑いながら、ふらふらとした足取りで自室へと戻る背中を見送る。
ずき、と微かに胸が傷んだような気がしたが、気のせいだろう。





地右衛門を売却する当日になった。
地右衛門の自室へと向かい部屋の鍵を開けると、彼はもう既に起きて、ベッドの上へと腰掛けていた。
こちらに気付いた地右衛門の表情は、想像よりもずっと落ち着いていた。

「……最後なんだろ?だったら、少しだけ……」

地右衛門が甘えるように、腕を伸ばして抱擁を強請る。
まだ時間はある。少しぐらい甘やかしてもいいだろう。
そう思い、地右衛門をそっと抱き締めてやる。

──瞬間、背中に激しい熱と痛みが走った。

突然の苦痛に呆然としながら眼前の地右衛門を見ると、彼は口元を歪めて、くつくつと愉快そうに笑ってみせた。

「前に言っただろ?……裏切ったら殺す、って。テメェは忘れてたみたいだけどな」

笑い続ける地右衛門の声を聞きながら、記憶を辿る。
そういえば、前にそんな事を言われた気がする。
あれはたしか、地右衛門が初めてこちらの愛の言葉を受け入れて、小さな声で同じ言葉を返してくれた日の──

「もう、終わりだ」

そんな言葉が聞こえたと思うと同時に、背中の痛みが更に増した。
どうやら、刺さっていた刃が抜かれたらしい。夥しい血が流れ、視界が朦朧としていく。

「……地獄に落ちろ、外道が」

言葉に反して優しい声色に驚き、その顔を見ようとするが、霞む視界には朧げな彼の輪郭しか映らない。それすらもやがて、真っ暗になっていく。

「安心しろよ。お前一人になんてしねぇ。きっちり地獄まで付き合ってやる」

血に塗れた身体を躊躇なく抱き締める少し低めの体温。それがあなたが最期に感じたものだった。
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