子持ちファラクト


「お母さん……みんな……なんでぇ……」
スレッタは群れから追われ一人になってしまった。彼女はまだ幼く、一人で生きていくにはあまりにも未熟であった。
スレッタは涙を流しながら森の中をさまよっていた。家族と別れた悲しみが彼女を苦しめていた。
群れから追い出されたスレッタはどこに向かえばいいのかもわからなかった。自分の居場所を求めて、あてもなく歩き続けていたのだ。
スレッタのお腹がぐーと鳴った。もう何日も何も口にしていなかったのだ。このままでは死んでしまうかもしれない……。
「おなかすいたなぁ……」
スレッタは近くにあった葉っぱを手に取ってそれを口にした。それでも彼女はお腹がいっぱいにはならなかった。スレッタは木の下に座り込み、身体を丸めて目を閉じた。
「お母さん……会いたいよぉ……」
スレッタの目からは涙が流れていた。
そんなときだった。遠くから音が聞こえてきたのだ。何かが近づいてくる音だ。

「またかよ……最近ちょっと多くないか?」
5号は見回り中に群れの縄張りに入り込んだスレッタをすぐに見つけた。最近、縄張りに侵入してくるメカぐるみが多かったので5号はうんざりしていた。
「面倒だな……でも放っておくわけにも行かないし」
仕方ないとばかりに5号はスレッタに向かって飛んでいく。そして、あることに気づいたのだ。
(この子……あの子に似てる)
5号はスレッタの姿を見てあることに気が付いた。それはかつての番と自分の間に生まれた子どもに似ているということだ。でも、その子は死んでしまったはずだ。
「まさか、な……」
5号は気になってスレッタをじっと観察してみたが、やはり似ているとしか思えなかった。しかし、まだ確証がないと思いその考えを振り払ったのだった。
そして5号はスレッタに声をかけた。
「君、大丈夫?怪我はない?」
5号の声にスレッタはビクッとした。そして恐る恐る5号の方を見た。そこには黒い装甲に覆われた大きな人型の何かがあったのだ。
「ひっ……!?」
初めて見る存在に恐怖を覚えたスレッタは思わず悲鳴を上げた。そして疲弊した体に鞭を打って、振り返らずに逃げ出した。
「あ!待って!」
5号は急いでスレッタを追いかけた。逃げる彼女を捕まえるためだ。しかし、体力の無い幼体のメカぐるみであるスレッタはすぐに追いつかれてしまう。
「いやぁっ……!」
恐怖に駆られるスレッタは必死に抵抗するが、成体のオスの力に敵うはずもなかった。
「落ち着いて!君に危害を加えるつもりはないんだ!」
5号はスレッタの側に寄り、どうにか彼女を落ち着かせようとした。だが、その声は届かず恐怖でパニックになるだけだった。
「ごめんなさい……もう許してぇ……」
スレッタは泣きながら懇願した。しかし5号はスレッタを捕まえて離さない。そしてそのままスレッタを抱き上げたのだった。
「やぁっ!!離してっ!!」
暴れるスレッタだったが、5号の力には敵わなかった。彼は優しく語りかけるように話し始めた。
「僕はただ君を安全な場所に連れて行きたいだけなんだ。怖がらなくていいんだよ」
5号の言葉にスレッタは少しずつ落ち着きを取り戻していった。しかし、まだ恐怖心が残っていたためか体は震えていたままだった。
そんなスレッタの様子を見て5号はあることを思い付いたのだ。
(この子を安心させてあげたい……)
5号は優しく微笑むと、スレッタを抱きしめた。そして右手で背中をさすり、左手で頭を撫で始めたのだ。その行為にスレッタも驚きつつも安心感を覚えたようで体の震えが止まったのだった。
「もう大丈夫、大丈夫だよ」
5号は何度もスレッタに言い聞かせるように囁き続けた。その声が耳に心地よく響き渡ると、恐怖心は消えて安心感が湧き上がってきたのだ。
(あったかい……)
スレッタはその温もりに包まれているうちに眠気に襲われてきた。そしてそのまま5号の腕の中で眠ってしまったのだった。スレッタが眠ったことを確認すると、5号は彼女を巣に連れていくために飛び立った。

「みんな、帰ったよ」
5号が巣に戻ると4号とエランさまが出迎えてくれた。
「お帰り。その子は?」
5号が抱えてるスレッタを見てエランさまが尋ねた。4号も興味津々といった様子で覗き込んでいる。
「僕が見回りをしていたら、この子が縄張りに入り込んでいて……怯えて泣いてたから保護したんだけど……」
4号はスレッタをじっと見つめると、すぐに何かを思いついたようだった。
「この子は……僕らの子だ。間違いない」
あまりの飛躍した結論に4号は目を輝かせていた。5号もエランさまもその突拍子もない考えに驚きを隠せなかった。
「はぁ!?」
4号が言っていることはあまりにも信じられないものだったが、興奮している4号には何を言っても通じそうにはなかった。
エランさまは呆れた表情を浮かべてため息をつくしかなかった。
「なんでそう言い切れるんだよ?」
エランさまが問いかけると、5号も同意するように頷いていた。しかし4号は自信満々といった様子で答えるのだった。
「だって、この子の顔を見ればわかるよ。髪の色も顔もあの子そのものじゃないか」
その答えを聞いたエランさまは諦めて再びため息をついた。これ以上聞いても無駄だと思ったようだ。
そんな二人の様子などお構いなしに4号はスレッタを優しく抱き寄せると頬擦りを始めたのだ。その様子は愛おしくてたまらないといった様子だった。
4号の行動を見た5号は引きつつも、その気持ちが理解できなくもなかった。なぜなら自分自身も同じような気持ちだったからである。
5号が帰ってきた途端の豹変ぶりにエランさまはますます呆れ返るばかりだった。
「もう勝手にしてくれ……」
そう言ってエランさまは巣の奥に引っ込んだ。4号はスレッタを離さずに抱えたまま、一緒にベッドに寝転びそのまま眠りについたのだ。

翌朝、目を覚ましたエランさまは4号の姿を見てぎょっとした。彼はまだ眠っているのだが、スレッタを抱き枕のように抱えて眠っていたのだ。その光景にエランさまは思わず引いてしまった。
「こいつ……本当にやばいな……いよいよ頭がいかれたか」
4号はスレッタのことが可愛くて仕方がないのだろう。その気持ちはわからなくもなかったが、さすがにここまでくると少し心配になった。
「おい、4号起きろって」
エランさまは軽く肩を叩きながら声をかけた。すると4号はようやく目を覚ましたのだ。しかしまだ寝ぼけているようで、ぼんやりとした表情を浮かべていた。
そんな状態のままスレッタの頬を優しく撫でると愛おしそうな声で語りかけた。
「おはよう……スレッタ」
4号の言葉にスレッタはゆっくりと目を開いた。そして目の前にいる大きな存在に驚きを隠せなかった。
「ひっ……!」
スレッタは小さな悲鳴を上げると4号の腕の中から逃げ出そうと身を捩った。しかし、4号は逃すまいとさらに強く抱きしめたのだ。
「大丈夫だ、怖くないよ」
そう言ってスレッタを落ち着かせようと背中をポンポンと叩いたが、それでもスレッタの恐怖心は消えることはなかった。怯えている彼女に優しく声をかけながら5号が助け舟を出した。
「怖がってるだろ?やめてやれよ」
4号の頭を小突きながらスレッタを救い出し、4号をベッドから追いやることに成功した。
5号に小突かれた4号は不満そうな表情を見せたが、スレッタの怯えた様子を察したのか素直に引き下がった。しかしスレッタのことを諦めきれないようで未練がましく見つめているのだった。
スレッタは4号の視線から逃れようと5号の脚にしがみつくように隠れてしまった。その姿を見て5号は苦笑いを浮かべながらもスレッタを優しく撫でてあげた。
「まあ、とりあえず何があったのか教えてくれない?」
5号がそう言うとスレッタはコクンと首を縦に振った。そしてゆっくりと話し始めたのだ。
彼女は群れから追い出されてしまい一人になってしまったこと、お腹が空いたので地面に落ちていた葉っぱを食べたらお腹を壊して苦しかったことなどを拙い言葉で説明した。
「そうだったのか……大変だったね」
5号はスレッタの話を聞いて同情するように呟いた。そして優しく微笑みながら彼女に言い聞かせるようにこう言った。
「これからは僕らが守ってあげるから安心していいよ」
その提案にスレッタは目を丸くして驚いていたが、やがて嬉しそうに微笑んだ。そんな彼女の姿を見ていると5号も自然と笑顔になっていた。
そんな二人の様子を見ていた4号は不満そうに頬を膨らませてスレッタを引き寄せた。そして彼女を抱き上げるとそのまま自分の膝の上に乗せたのだ。突然のことにスレッタは戸惑っていたが、4号は気にせずに彼女を抱きしめて離さなかった。
「ずるい……僕が育てるから」
4号の独占欲丸出しの発言に5号は呆れつつも、自分の娘を守るかのようにスレッタを抱き寄せた。
「ダメだよ、スレッタは僕らの家族なんだから」
そう言ってスレッタを抱きしめる力を強めると、彼女は少し苦しそうにしながらも嬉しそうに微笑んでいた。
「家族……」
スレッタはその言葉を噛みしめるように呟いた。そして5号にギュッと抱きついたのだった。
5号はそんなスレッタの頭を撫でながら優しく語りかけた。
「そうだよ、君は僕らの娘だ」
その言葉にスレッタは大きく目を見開き驚いた様子を見せたがすぐに笑顔になった。その表情はとても幸せそうだった。5号とスレッタはお互いを見つめ合いながら微笑み合っていた。その様子はまるで本当の親子のようだった。
「じゃあ、名前を決めないとな」
エランさまはそう言うと5号の方を見たが、彼は首を横に振った。どうやら名前はまだ決まっていないようだ。
4号はスレッタを抱き上げると、じっと目を見つめたまま考え込んだ後、ゆっくりと口を開いたのだ。
「名前?この子はスレッタでしょ」
4号はそれが当然という様子で口にした。名前を決めること自体、おかしいと思っているようだ。しかし、5号とエランさまは納得しない様子だった。
「いやいや、スレッタはこの子じゃないだろ?」
「……?スレッタはスレッタじゃないか」
4号がスレッタを自分の子供だと思い込んでいることに呆れつつも反論する5号だったが、4号は聞く耳を持たなかった。
「ほら、スレッタ。僕のことは『お父さん』って呼んでごらん?」
4号は優しく微笑みながらスレッタに話しかけたが、彼女は怯えてしまい泣き出してしまった。
「うぅ……怖いよぉ……」
その様子を見た4号はショックを受けたようで固まってしまった。しかしすぐに立ち直り、スレッタを再び抱きしめた。スレッタは涙目になりながらも抵抗せず大人しく抱かれていた。そんな光景を見て5号は深いため息をついた後、言った。
「ああもう……君はスレッタでいいかな?」
4号に呆れながら問いかけるとスレッタは小さくコクンと首を縦に振った。
「じゃあ、これからよろしくね。スレッタ」
5号がそう言うとスレッタは嬉しそうに微笑んだ。そして彼女は5号に抱きつき甘えるような仕草を見せたのだった。そんな姿を見て4号は悔しそうな表情を浮かべながらも受け入れざるを得なかったようで何も言わなかった。
そんな二人の様子を微笑ましそうに見ていたエランさまは優しく微笑んでいた。こうして新たな家族が誕生したのである。
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