【会話ログ_海神酒場にて_】


「えぇ!?鉱山荒らしってやっぱりマジなんですね」

「そうだよ。僕なんて一度殺されたね…!
その時の記憶は無くて、スクロールのログから分かったことだけど」

【眼の前にいる男は朗らかに恐ろしいことを話す】
【私はロックンロール・アバンギャルドという企業に務めている。営業部門所属】

【話している彼はウチのお得意様の一人で、上級冒険者をやっている《ピッケルマン》という男】
【ソロ活動していて、お金欲しさに鉱石採掘を繰り返してるそうだ】
【一度仕事を見学した時、空中でつるはしを振れば岩がスッキリ削れていくのだから驚いた】

「殺されたって…アナタが?」

「そう。ギルドの“最新設備”のテスターに志望してなかったら詰みだったよ〜
だからこそ危険に足を突っ込んだんだけどね!僕も何だかんだ一介の冒険者なんだなぁ〜」

「買い取ってるウチからしたら笑えない話だなぁ…
第一、あなたがお金を集めてる理由だってご家族のためなんでしょ?」

「そうだよ。僕の力じゃまず手に入れられないモノがあってね。この国の“上”と金で交渉するのが一番早いと考えた」

【…私もその一員であるから言えることだが、ギルテシーア商会は全体として『物の価値』には真摯だ】
【大金を積めば応じる者もいるとは思う…成功するか甚だ怪しいけどね】

「比較的リスクを少なく大金を稼ぐために、鉱石マラソンを始めたんでしょ?死にかけたら元も子もないですよ」

「実際、鉱山荒らしなんて想定外だよ。それも衝合から間もないような土地で、採掘者を明確に殺しに来るなんて…」

「本当なら確かに奇妙な話ではありますね
…実はね、今被害の噂が挙がってるのはロングフリ山脈だけじゃないんですよ」

【ウチの社内に『鉱山荒らし』の話は既に駆け巡っていた】
【今ごろ事実確認や状況の深刻度合いなんかから、上司たちが対策を会議してるんだろう】

「アナタの持ってるスクロールのログには姿が残ってるんです?」

「うん。冒険者ギルドに提出したけど特に正体は判明せず…かなりの手練れなのは確かだね」

【彼がスクロールを見せてくる】
【音声は拾えておらず、視覚情報もノイズが走っていてハッキリは見えない】

「多分スクロールの記録を妨害する効果の結界みたいなのを張られたんだね。帰還用の転移も阻害された」

「あ、でも何かいる…」

【岩で身体を覆った4mほどの人型のようなものが見える】
【左手に異質な色をした巨大な爪。明らかに文明の利器だ】

「僕がつるはしで攻撃を3連撃飛ばすんだけど、あっさり防がれて…
ほら、地面にこっそり撃った4発目の本命まで見切られてる」

「お…おぉ?いや私の目には何が起きてるのか…」

【ただの商人に戦闘のプロの話はよく分からない…なんか超次元バトルしてるらしい(小並感)】

「ここで殺されたらマズいと思ったんだろうな。
最悪僕は死んでも蘇るとして、装備品と回収した鉱石を奪われたら終わりだ…
だから僕は一目散に逃げ出す」

「あぁ本当だ…凄いスピードで移動してる」

「…で、ここでログはブラックアウト。
結局ツルハシと鉱石箱は召喚術で取り戻せた辺り、殺される前に隠しきれたのかな」

「上級冒険者を圧倒する腕…脅威ですね」

「上級と一口に言ってもピンキリだよ?僕は下の方さ。このログだけじゃ鉱山荒らしの実力は読めない」

「下の方って…本当に?ソロでランキング1000位前後と聞きましたけど」

【冒険者稼業に詳しい訳では無いが、彼の持っているツルハシが超希少な素材由来だという情報は掴んでいる】
【セレネリオス周辺に纏わる、胡散臭いなにかだ】

「自認としてはね。ランキングだって実力だけで決まるわけじゃないし」

「…とにかく、このログ頂けますか?」

「構わないよ」

___

『……確認したぞォ』

【自分のスクロールにログの転送を行った瞬間、急に通信が来た。開発部の重役からだ】

「ひぃっ!?(反応はっや!)」

『鉱山荒らしに関する情報は既に幾つか集めたが、外見に関してはどれも食い違っているなァ…やはり組織的な犯行なんかこれは』

「何か精鋭の組織ぐるみだと行動の早さに説明は付くよね。例えば闇ギルドの上位ランカーとか」

「うへぇ、なんて物騒な」

『相手が誰だろうが商売終わらせるわけにいかねェよ。ウチは社長命令で破壊された採掘場の再開発を優先する事にした。人を集めてくれ』

「は、はい!」

【何てこった、これが終わったらやっと一息つけると思ったのに】
【トホホ…しばらく仕事で楽できそうにないや】


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【僕は《ピッケルマン》!冒険者だ】

【出身は実質セレネリオスさ】

【実質ってのは…まぁ、大砂漠に住む『原住民』の話なんてされても困るだろ?】

【ワケあって弟のためにお金集めをしている】


【…営業のお兄さんと会話を済ませた僕は、酒場を出て東に行くことにした】

【例えば《蒼い溶岩窟》とか、特に荒らしに狙われてない流行の鉱脈ダンジョンは幾つもあるしね】


【…よく考えたら】

【逆に言えば、鉱石マラソン界隈で流行のダンジョンを積極的に狙ってるんじゃないわけだ】

【ロングフリ山脈だってこの前までとっくに枯れた扱いで、生息する生き物の危険性から投げ出された地域】
【セントラリアが大戦後の復興のために過去に掘り尽くして、その跡地だけの場所だったって話だ】

【じゃあ何が目的で荒らす?愉快犯ではないのは確かだよね】


【……何か『採掘させたくないモノ』があって、それが存在する鉱脈の開発を妨害しているとか?】

【いやいや、それも無茶があるよな】

【現実的に厳しいし、そんなに効果無いだろうし…】




【…ま、僕が考えても仕方のないことか】


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