アガパンサスの芽吹き


「いって…!」

トレーナーさんの手伝いで、テーブルの上に乱雑に置かれていた紙の資料を片付けていたら、指に一瞬鋭い痛みが走る。
指先を見ると、指の腹に斜めの線が出来ていて、その線から血が流れ、ジンジンと痛みを出し始めた。

「紙で切ったのか?」

あたしの指に出来た傷を見て、トレーナーさんが痛々しそうな表情になる。

「手当するから一旦作業を止めよう」
「こんなの舐めておけば治るよ」

トレーナーさんの手を煩わせたくなくて、あたしは指を口に含もうとした。
けど、それはトレーナーさんに手首を掴まれたことで止められた。

「ちゃんと消毒しないと駄目だ」

そう言ってトレーナーさんは、あたしの手首を掴みながら器用に後ろを向き、救急箱を探し始める。
あたしは、掴まれている手首を見た。
トレーナーさんの手は大きくて、あたしのヒョロい手首はトレーナーさんの掌に収まってしまっている。

(手…意外にイカついんだな…)

虫にビビって、あたしよりも力は無いのに、しっかりとした手は、あたしがトレーナーさんは大人の男の人だと認識させるのに十分な形と大きさをしていた。

(……なんか……顔が熱い……)

暖房の効いた部屋にいるけど、顔だけが異常に熱を持ち始め、心臓が坂路を走り終えた後のように激しく動いていた。

(頭もちょっとクラクラするし…風邪引いちまったのかな……)

だとしたらトレーナーさんに移す訳にはいかないから、早く距離を取るべきなんだけど……。
どうしても、この人の手を振り解きたくはなかった。






…カツラギエースが無自覚に恋心を抱き始めた一方、トレーナーはと言うと。

(いつも何百キロもあるダンベルを持ち上げていた腕…こんなに細かったんか…!!)

担当ウマ娘の体が思っていたよりも華奢だった事を知り、色んな意味で心臓を高鳴らせていた。


終わり
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