服装探し


in カルデア
「伊織殿に飽きられたりはしないだろうか?」
 ふと不安を口にする。
 私——由井正雪は宮本伊織と目合いをしている。目合いと言うよりは魔力供給という意味合いが強いのだが……。このカルデアには見目麗しい御仁が多い。体型も豊満なものが多く、私の肉付きの悪い身体では大して楽しめないだろう。所詮は私の我儘なのだ。伊織殿が飽きれば、すぐにでも終わる関係なのだ。
「うーん、それって彼との付き合いになんか変化が欲しいって事?」
 たまたま食堂で席が同じだった御仁——アルクェイド・ブリュンスタッド殿が、私の独り言を拾い上げる。ちなみに今は第二再臨である。彼女は再臨毎に人格が変わる珍しい方なのだ。
「あ、き、聞いていたのか?」
「そりゃ、こんだけ近ければ聞こえるから。自然の嬰児が我欲を持つのは珍しいし、興味あるから聞いてあげる」
「迷惑ではないだろうか?」
「私、恋バナって好きよ」
「こ、恋バナ?」
「そう。恋の話。脆い霊基で物を壊すのはそれなりに楽しいけど、ここには志貴いなくて暇なのよね。なら、楽しい話がしたいじゃない?」
「楽しいものなのだろうか?」
「うんうん! 自分では面白くないと思っても、他の人からは案外面白いものだったりするのよ」
 そんなものなのだろうか? と思いつつ、せっかくの好意なのだ。有り難くのせてもらおう。
「なるほどねぇ。うんうん。なかなかの朴念仁。志貴と同じくらい。いや、それ以上」
 話を聞くなりアルクェイド殿は楽しげに頷いた。なかなかの聞き上手で全て喋ってしまった。今になって後悔がやってきて、耳まで熱い。
「飽きさせないってのが目的なら、服装を変えてみるとかどう?」
「服装?」
「うん! 志貴がね、私が服装を変えた時すごい興味を持ってくれたの! もう一度見せてほしいって言ったり、いつもよりツンケンしちゃったり! 志貴ってばね、私だけに馬鹿女とか言うんだよ」
「それは……」
「私だけって特別なの。普段はよくも悪くも志貴って人当たりいいから。でもね、私だけなの」
 えへへと笑いアルクェイド殿は頬に手を当てる。その様子は年相応の少女そのものだ。
「なるほど。それは嬉しいな」
「そうなの! って話ずれちゃった。とにかく、いつもとは違う服装にするだけでもきっと喜んでくれるよ」
「そうか。喜んでくれるのか」
 伊織殿が少しでも喜んでくれるのなら嬉しい。
「ヨシ! じゃあ、早速服を探しに行きましょ」
「探しに?」
「そう。あなたは自分で服とか作れないでしょ?」
 私は空想具現化で作っちゃうけど、とアルクェイド殿。
「だから、探しにいくの。マシュ曰く、カルデアには七大兵器とか言うすんごい服があるみたいなの。強そうなのでそれにしよ!」
 と私はアルクェイド殿に手を引かれてカルデア中を巡る事になった。私はアルクェイド殿に振り回されてすっかり忘れていたのだが、カルデアにはそんな七大兵器なんてものを探さなくても、ハベトロット殿やクレーン殿に頼めば服を作ってもらえたのだ。

 その夜、伊織の元に大変危険な獣が届けられたのはまた別の話。
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