【閲覧注意】 アレクセイ・コノエ×アーサー・トライン


ターミナルからの秘匿任務がコンパスへと通達される。本来なら、ターミナルに所属するアスランたちの仕事であったが、今回はそうはいかないようだ。内容は地球連合の一部の幹部による、小さな夜会の調査。無論、位の高い人間ともなればこういった成金や富豪のような豪勢とはいかずとも、社交の場として夜会を設ける場合もある。
そもそも、コンパスが動かなければならない理由が依然と不明である。コンパスはあくまで平和監視機構、その名の通り、あくまで監視と制裁が主だ。
わざわざターミナルが、なぜ…この任務を通達されたときの総裁たちは、疑問に思った。言い方は悪いが、場違いだ。
それでも、ターミナルからの直々の任務。断る理由がない。
その夜会には一つのルールが存在した。

子を持ちたいかどうか、また子供が好きかどうか。

なぜ、子供が話題に上がるのだろうか。
この夜会が行われる理由、根本は…先の大戦で行き場を失った子供たちを引き取る、または孤児院の経営に協力してくれるスポンサーを求めることであった。
先の大戦では多くの人々が亡くなり、さらには子供まで戦渦に巻き込まれているのが現状だ。ハッキリと言ってしまえば、優秀な種を残せなくなったのも理由の一つだろう。この夜会の主催者含め、参加者の多くは家系の存続としての養子、子供が出来にくい、など理由で、参加している。子供を宿す種馬がいなければ、生存戦略および、優秀な人材を生み出せはしない。
ならばせめて、生きている幼い未熟な卵たちを育てなければいけない。戦争孤児でも、頭の回転が早いものだって居るのだから。世知辛く、生き汚さがあるといえる。
しかし、…結局は、これはツケとして返ってきたのだ。
…と、そんな理由が表立っている。
噂と言うのは、人が立っているときに生まれるものである。

では、誰がこの怪しげな夜会へと潜入するのか。
ハッキリと言ってしまえば、会場に集まるのは多くは軍人。女軍人を潜入させるのが最も適している。
しかし、この夜会のネックなところは、子供に対してどう思っているか、好きかどうか、さらには子持ちか否か。
コンパス内にて、女傑とも言える女性士官たちは何とも腕っぷしが強いが、子供に関してとなれば少し頼りない。いかんせん艦長に若いパイロット、さらには未婚ときた。家柄も良いというわけではない。
あまり言えたことではないが、夜会に行くには少しばかり似つかわしくはないと言える。
それに艦長ともなれば、船を留守にするわけにもいかない。
妥協案として、コンパス内で子供と接する機会が多い、副長アーサーが選ばれた。
反論も上がる。もちろん、士官クラスの中には夫婦と言った関係で、さらには子持ちも居る。
この夜会が、最低でも階級は佐官クラス。それ以下は逆に怪しまれかねないと言うのが無ければ、潜入は楽だっただろう。
ならばアスランたちエージェントは何をしているか、こちらはどうも裏取りとさらにはある研究の調査に出てしまっている。
逃げの一手は、正直お勧めできない。
「あの、僕ってば必要ですか?」
今更ながら、アーサーは了承したとはいえこれから起きる不安をぬぐえないでいる。だが、無常にもテキパキ、とアーサーの平時の黒い軍服は脱がされ、甲高い悲鳴を上げながらズルズルと試着室へと放り込まれる。
それは、まな板に乗る魚の様と言える。そんな様子を、ただただ見守ることしかできない者たち。
…しかし、彼を聞かざる女性士官たちに、これ以上口に出せばただでは済まない、と怯える者も居る。
「うーん身体が出来ているから、難しいわね」
「こういうのは一番目立つ肩とかを隠すのがいいですよ。足は幸い、細いみたいですし」
ルナマリアの助言をもとに、マリューはならこっちにしましょ、と手に持っていたドレスの一つを決める。
黒をベースとしたロングドレスタイプ。デザインとしては、ゴテゴテとしていないシンプルながら、上半身部分は花の刺繡をあしらったシースルー。やや薄い生地の白いボレロタイプで、肩幅を隠すコーディネイト。
ドレスが決まり、文句を言わせないまますぐに着替えさせられる。準備を進めていくたび、アーサーの目は死んでいっていた。そもそも女装の趣味もかけらもない、一般的な趣向しか持って
いないのだ。
そんなことを女性陣たちはかまう様子なく、今度はルナマリアを中心にアーサーの顔の化粧を施していく。素朴な顔立ちながら、二枚目とはいかずとも整っており、化粧で手を加えれば大分化けれる素材であった。
元の髪色に近い黒髪のウィッグをかぶり、それを元にファンデーションを施し、マスカラ、アイライナー、チーク…最後にグロスリップを使い彩らせていく。
されるがまま、アーサーはいつにもまして口数が少ない。それも、この夜会へと潜入するための仕様だった。
なんせ、普段から声が大きく通りやすいため、平時で聞いても女とは言い難い低い声を持っていた。
「あの、なんで女装…」
「しょうがないだろう。貴様の元古巣の者が面白おかしく、と言う理由で女性、として招待したのだぞ。生憎、私どもでは子供に疎い。
トライン少佐くらいしか、子供と接する機会が無いのだ」
「そ、そうかなぁ…」
あまり納得がいかない様子を見せるアーサーに対し、ナタルはピシャリと事の発端である女性の名を告げる。
付け加えるように、今後のアーサーの行動にもくぎを刺しておく。
「文句を言うならメイリン・ホークに言え。…それと、解っているが、口数は少なくしておけよ」
「はいはい」
「返事は一回でいい」
「はい…」
しょもん、といつにもましてナタルの手厳しい態度に肩を下げるしかない。
化粧も決まり、ドレスも着飾ったところで次にヒール選びが待っていた。さすがにアーサーもこればっかりは拒否を示すが、ナタルから再度ピシャリ、としつけられる。えうえう、と嘆きながらジェミーをはじめ、オリビアやAAのヒメコまで参戦してしまったのだった。


「うわ、副長…めっちゃくちゃ死んだ目してるじゃん」
「言うなシン。どのみち、佐官クラスで一番に子供と接しているのが副長くらいしかいなかったんだ。逃げられるはずがない」
「でもさ、…結構美人になってない?こっからでも…その、だいぶアレだぜ?」
「あのなぁ…ヴィーノ、もっとあるだろ。アレってなんだよ…。まぁ、言いたいことは理解できるし、化粧ってすげぇってことは理解できた」
シンをはじめ、レイ、ヴィーノ、ヨウランは元の副長と長い付き合いのため、様変わりする様子に新鮮さを覚え、騒いでいた。
その横では、AAクルーのノイマンとチャンドラ、それにムウがデバガメに来ていた。
三人はあのマリューとナタルがプロデュースする様子を見るべくやってきたが、予想以上の出来栄えに感嘆を上げている。特に男を女に見せる芸当だ、彼らからしてみれば半分は信じていなかったのだ。
その結果があの様変わり、である。やればできるのだな、と手痛いしっぺ返しが来そうな言葉を素早く飲み込んだ。制裁をよおく理解しているからこそ、その予防策を張ったのだった。
「ひゅう、ノイマン見て見ろよ。男が女になったぞ」
「茶化すな…ナタルもだいぶ楽しそうだな。アーサーがあれなら、案外ムウさんも」
「やめてくれよ、俺よりもお前たち生贄に出すぜ」
「年長なんだから積極的に逝ってくださいよ。不可能を可能にしてきたでしょ」
「俺でもね、嫌なモノだってあんのよ?」
「どのみちマリューさんとナタルに着飾られるんだから、諦めたほうが良いですよ。…ドレス、選定してましたからね」
ノイマンの言葉に、ムウは悲鳴を上げるしかなかった。この任務以降、彼…いや、彼らの尊厳破壊は免れないだろう。
「惜しいねぇ。アレが男じゃなかったら…」
「姐さん、悪食すぎるぜ」
「男でも案外行けるもんだな」
よほど惜しい、残念と言う感情をむき出しにするヒルダ。その悪食の様を見せるヒルダを横目に、二人ヒルベルトとマーズは軽く引いていた。もとより彼女の趣向には早々口に出すことは無かったが、今回ばかりはモノを言うしかない。

ところ変わって、別室ではコノエがアビーとドロシーによって着飾られていた。二人の有無を言わない雰囲気の中、小さくため息を吐く。そうして、こうつぶやくしかない。本来なら行わないはずのことに、疑問を抱くように。
「……私は艦長なんだが?」
「どのみち佐官クラスの男がコノエ艦長しか、居ないんですもの。唯一の佐官以上でもキラ准将はまだ若すぎますよ。
下手すれば周りが副長に対して、若いツバメをつまんでいる、なんて見られ思われますし」
それはイヤだな、とコノエはひそかに思う。それを決して口にはしない、口にすればこの二人に根掘り葉掘りと聞かれ、いろいろとひん剥かれてしまうと察したのだろう。こういったところでも、その生存力を発揮する…なんと悲しきかな。
「んー、ドロシーこれくらいが良いよね。よかったー、コノエ艦長がスーツを持っていて」
「この年になると、一着以上は持っているさね。…少しきついな」
髪型をオールバックに固め、ゆるんだジャケットの襟を整える。普段軍服姿が日常と化したコノエが、ひとたびスーツに身を包めば二人の黄色い歓声が上がった。無雑作の髪を綺麗に整え、ワックスで固めれば…垂れ目と口元が印象的な怪しげな色男が現れる。
元々素材が良いのだ、ちょっと化粧を入れれば化けるのは明白。
良い時間となったのだろう、ラクス自らが迎えに来た。その隣では、これまた着飾れられたキラが緊張に塗れた様子でいる。ガチガチと肩を張り、背も伸び、普段とは大違いの姿勢でコノエは少し吹きそうになる。二人もまた、同じように口元を抑え笑いをこらえた。
悪い意味ではない、若いなりに微笑ましい、と言う意味合いだ。そう三人は合致し、心の内で弁解。
「もう、よろしいでしょうか…あら、まあまあ…うふふ、お似合いですわ。コノエ艦長」
「総裁も一層お美しくなられましたな。准将殿、堂々としなければどこぞの馬の骨にかっさわれますぞ」
「い、いやだ…じゃなくて、はい」
「うふふ…それでは、参りましょうか」


小さな夜会とは言え、参加者は多く、地球連合の軍人をはじめ議員が参加していた。中にはプラントの議員やザフト軍人の姿もあった。このような場で身内の参加に、疑問と不審を抱く。幸い、二人の姿は向こうからは悟られていないらしく、その正体すらも見破られていない。
それどころか、議員は会場全体で参加者である女性に下心ある視線を通わす。アーサーも例外ではない。
別に恐ろしくはないが、気持ち悪さが先に出ているため、苦い顔をするしかない。
コノエは一度議員の視界から離れるように、アーサーを連れ離れる。ギロリ、とコノエが一つ睨みでも入れれば、議員の肩は震え、とっさに別のところへ視線をやった。
「腕を掴みなさい。そうすれば少しは楽だろう」
「…は、い」
ふらふらと慣れないヒールに苦戦するアーサーを横目に、コノエは腕を差し出す。繊細なものを扱うようにと腕を通し…ぎゅう、とわずかな力を込めコノエの腕を掴んだ。スーツにややしわが出来るが、コノエはそれを気にせず、アーサーの歩幅に合わせる。
そのまま、ややぎこちない様子で指定された夜会の会場で歩みを進めていった。
「ヒールで背が高くなったな」
「こんな、大柄な、女性…居ないですよ。バレちゃいます…ぉっと」
「急ごしらえだ、それに経歴では軍人女性で通っている。珍しくはないという事で、運任せにするしかない」
「不安、です…」
歩きなれないせいで足元ばかり見るアーサーに、胸を張って、とコノエは助言を紡ぐ。アーサーは顔色が悪いと言わんばかりに不安な顔を見せるも、ゆっくりと顔を上げ足を踏み出すと。先ほどよりも、ふらふらとした動きは少なくなった。
よく出来ました、とコノエが小さく呟けば…嬉しいようで、アーサーは小さく何度も頷く。
女性クルーの即興の指導で女性に見える仕草は覚えたが、アーサーは平時の自分よりも大人しく、反応をしないという行動に出ていた。そもそも口数を減らされているのだ、何を言おうとバレやすいと言うお墨付き。立場的にコノエの妻、に徹するのが無難と言える。
「…きれいだな」
「嬉しいけど、嬉しくないです」
「ふふ、ちょっと意地悪だったか?だが君なら、…っと、そろそろ動く頃だな」
続きの言葉を言おうとした途端、夜会は動きを見せた。コノエはひそかに、タイミングの悪い、と心の内で憎たらし気に毒を吐く。しかし、ここへは潜入、すぐに切り替え任務に集中した。アーサーはその先の言葉を聞けずに残念がるも、すぐに任務のことに意識を向ける。
うっそうとした会場内が、一気に静まり返り…段上の人物へと注目した。


長い一日が終わったかのように、きらびやかな中で、くすんだ劣情を孕んだ夜会は崩落していく。
件の夜会は決していいものではなかった。子供たちを使った強化兵士をはじめ、実験、奴隷に少年兵へと仕立て上げる。無論、ごくわずかながらこの夜会の全容を知らずに、子供を助けたいという意思を持った軍人や議員の姿もあった。
しかし、やはり善意より悪意が勝り…ろくな終わりとはならなかった。
ターミナルからの依頼達成の報告を終え、ミレニアムに帰還する。アークエンジェルは残党処理をすでに終え、アプリリウスへと先に帰港していた。
「え、こ、このまま?」
「幸い、アプリリウスまではそう掛からない。今はシンが代理副長として任に付いている。彼もそろそろ艦長としての任が出来るようにしておかなければな」
「じゃあ、ここでは…あの夜会についてのレポートですか?」
「それもあるが、今回は一番君が体を張っただろう。今はせめて休んでおきなさい」
艦長室に備えられたソファに腰掛け、不安な声を上げ抗議する。コノエはこれ以上の負担を強いらせる気は無いようで、アーサーを労う様子を見せた。
こんな格好され、逃げるように仕事をしたかったのだろう。アーサーはあからさまな態度で寂しげにはい、と消えそうな声で返答をするしかない。
艦長命令だ、私情で逆らうこともできない。

今のアーサーの格好は、普段よりいっそう見違える。黒いコンパス仕様の軍服を纏っておらず、代わりに女性ものを纏っているのだ。
少し髪型が崩れ乱れた髪。元はシニヨンで纏められていたが、任務の際に動き続けた結果、髪型が崩れてしまっていた。
恥ずかしさが浮き彫りになってまゆを下げ、少し憂い感情を見せた顔。わずかに顔も赤く、汗も出ている。化粧のおかげで、女性となっているためか若いながら熟れた大人の女を思わせさせる仕上がり。
髪をすくう仕草も、外観も相まって本当の女性と錯覚させる。
本来アーサーは、男であるはずなのに。コノエは少しばかり残念な感情を沸かす、女であれば確実に繋ぎ止められる手段に出れたのだ。物騒な思案を隅に置き、コノエはアーサーの隣へと座った。
「……」
おもむろにコノエが手をアーサーの頬を手の甲で撫でる。くすぐったそうに身をよじり、ジッとコノエを見上げた。
「コノエ艦長?」
「すまん、キスしていいか?」
「え、えぇええ?!ダメです、リップが取れちゃ…いや、もう任務終わってますけど、…付いちゃいますよ?」
「長くはしない…たぶんな」
えぇー、と情けない声を上げるが…すぐにコノエによって口を塞がれ、その続きの言葉を遮られる。
頭を抱えられ、腰に手を添えるコノエ。特に後頭部に力がかかった感触を覚え、ほぼ逃げなくさせる行動を取った。アーサーはこの動作にこれから起こることへの諦めが付いたのか、目を閉じ両手をコノエの肩に添え、受け入れた。
心の内では、すでに受け入れる気でいたが…アーサーは小さな仕返し、とコノエに対し小さな反逆とを取った。
触れるだけのキスから、上唇をついばみ、そうして口をかぶりつくように塞ぐ。角度を変えながら、口を塞ぎ、舌を滑り込ませる。
静まり返っていたはずの部屋に、粘着性のある水音と控えめなリップ音が響く。
お互いに、もう少し、もう少し、とずるずる引きずりようやく終わらせてみれば。アーサーの付けていたリップグロスは、とっくに剥がれ落ちるほど長い時間ディープキスを交わしていた。さらに言えば、唇から掛かる銀の細い糸も作られ、ぶつりとすぐに切れる。
「…いつになく、情熱的でしたね」
とろり、と目を潤ませコノエを見つめる。息を荒げ、余韻の含まれた吐息をこぼす。
「いやか?」
「いいえ…すごく素敵ですよ。でも、これ以上はダメです」
「解っているよ。…続きは、どっちでしたい?」
そう囁くように問いかける。アーサーは目を逸らそうとするも、腰に添えられた手に力が入った。腰に掛けられた力を感じ取り、無理矢理にコノエに意識を向けさせられる。そして、腰に添えられていた手は徐々に太ももへと降りていき、スリスリとドレス越しで撫でられる。外側から内側へ、乱暴でもなくただ優しいわけでもない、その気にさせるつもりのいやらしい触り方だ。
アーサーはゾクゾクとなんとも言えぬもどかしさで体を震わし、心臓が早まるのを感じながら…ようやっと、口を開いた。
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