あらん限りのおめでとうを。


3月に入ったくらいから、旦那があたしの筋トレを見てくれるようになった。
しかも現役時代のようなしっかりしたトレーニングメニューまで用意してくれて、早朝に見てくれたりするもんだから本業に支障が出るんじゃないかと言ったんだけど、何かと理由を付けて付き合ってくる。
何か隠していると思うんだけど、旦那の指導のお陰でいい感じに引き締まっていって、1ヶ月経った頃にはドリームリーグになら出れるくらいの身体つきになっていた。

「ママー!ムキってやってー!」
「いいぞー、ふん!」
「すっげー!」

子供達にねだられて腕の力こぶを出してやると、オモチャで遊んでいる時より楽しそうに笑ってくれる。
腹筋が割れた腹を触らせたりして戯れていると、旦那がニコニコしながらあたしの隣に立った。

「さてみんな、明日は何の日か分かるかい?」
「「ママ(母ちゃん)の誕生日!!」」
「そうだね、だから明日はママのお祝いをするために、みんなで遠くまでお出掛けしよう」
「お出かけ!?」
「ネズミー!?ユニヴァ!?」
「そういう所じゃないなー」

じゃあ何処に行くのか聞いても、明日まで秘密と口を割ってくれなかった。
そして翌日、朝早くから旦那が運転する車で向かったのは、都内でも三本指に入るほど大きな商業施設だった。
学生時代、旦那と学園の畑で使う物を買いに来て以降全く寄らなかった場所で、あの時から更に増築されたようで、あたしの記憶の中の建造物よりも更に大きく、広くなっている。
もちろん、子供達は初めて来る場所なので、目を輝かせて建造物を見ていた。

「取り扱ってるのを探す方が早いくらい色んなお店が入ってるんだ」
「おもちゃ屋さんある!?」
「もちろん、おっきなトイ◯らスがあるよ」
「「行きたい行きたい!!」」
「はいはい、ママは何処か見たい所ある?誕生日なんだから、好きな物買っていいよ」
「じゃ、じゃあホームセンター!あと料理器具売ってるトコ!」

あたしも思わず興奮してしまい声が裏返ってしまったが、旦那は笑って承諾してくれた。


建物の内部は最早テーマパークのようだった。
海外からの輸入品が数多くあり、珍しい肥料と野菜の種、それから前々から欲しかったキッチン用品を数点買わせて貰った。
子供達は玩具屋の広い店内に大興奮していて、1人1個までという制約で旦那に玩具屋を買って貰っていた。
その後、少し早い昼食を取ることに。
あたしのために夜は豪華な料理を食べる予定だからと、お昼はハンバーガーのセットを食べた。
子供達は口の周りを汚しながらがっついていて、あたしも久々のジャンクフードに少しテンションが上がっていた。

そして昼過ぎ、あたし達は車に乗せられ、何処かへ移動していた。
お昼を食べたばかりで子供達は後部座席で寝ている。

「次は何処に行くんだ?」
「君にとって、そして俺にとっても思い出深い場所だ」
「あたし達に?どこだろ…」
「近づいて来てるから、そろそろ外の景色を見れば分かるはずだよ」

言われるままにあたしは窓の外を見る。
高速で流れる景色、その先に、見覚えのある建造物が見えた。

「え…アレ、東京レース場…?」
「そう、そこが今日のメインになる場所、君へ最高の誕生日プレゼントを贈る舞台だ」

旦那の言っている意味が分からない。
確かにあそこは、あたし達にとって1番の思い出が詰まっている場所だけど……。
そうこうしている内にレース場の駐車場へと着いていて、旦那は子供達を起こし車から降りた。

「パパぁ、ここどこぉ?」
「2人とも、ママがとても強いウマ娘達から逃げ切って優勝したレースを覚えているかい?」
「もちろん!ジャパンカップだろ!?」
「ママが日本のエースになった、あたしが大好きなレース!」

子供達は自慢げに言う。
休みの日になると、必ず録画したあの時のレースのビデオを見ていて、ちょっぴり恥ずかしくも嬉しい。

「そう、そしてここが、そのジャパンカップが行われたレース場だよ」
「……は!?」

背後から聞き覚えのある声がして振り返ると、ルドルフと、彼女の元トレーナーであり現旦那と、その2人の娘がいた。

「あー!ルド子ちゃーん!」
「娘ちゃーん!」

娘とルドルフの娘は会えた事を喜び、手を繋ぎながらピョンピョン跳ね回った。

「久しぶりだなエース、元気そうです何よりだよ」
「ああ本当に…ってか何でアンタ達が此処にいんだよ?」
「僕達だけじゃないですよ、ホラ」

ルドルフの旦那が指差した方向に目をやる。
そこには、見覚えのある奴らがこっちに向かって来ている。

「し…シービー!?」

なんと、海外旅行をしていると連絡が来ていたシービーとその一家が、キャリーケースを引っ提げて歩いて来た。

「エース!お誕生日おめでとう!」
「いやお前先に言う事がそれか!?ありがとう!!」
「シビトレ…!本当に今日帰って来れたんだな!」
「ああ、運良く飛行機の席が取れてな、コイツ(シービー)が飛行機乗れなかったら泳いで戻るとか行ってたから本当に取れてよかった…」
「シビ子ちゃんだー!ひさしぶりー!」
「どこに旅行いってたの?」
「んっとねー、暑くて寒いとこ!」

懐かしい奴らとの久しぶりの再会に驚いている。
旦那はトレーナー同士で話し合っていて、娘は娘で友達と楽しく会話している。
息子は知らない人やウマ娘が一気に現れたから人見知りを発動して、絶賛あたしの足にしがみ付き中。

「なぁアンタ、もしかしてこれがあたしへの誕生日プレゼントか?」

いやスッゲー驚いたし嬉しいけど。

「まさか、前菜に過ぎないよ」

前菜!?

「そうだよエース、アタシがエースに会うためだけに旅行を切り上げて来る訳ないでしょ?」
「お前なら南極に居たとしてもやりそうなんだよなー」
「あっはは!よく分かってる!」
「とりあえずレース場に行こうではないか、アレを見れば一目瞭然、きっと分かるはずだから」

と、あたし達一家とルドルフ、シービーの家族と共に東京レース場へと入る。
前に改装工事をしたと聞いていたが、玄関もロビーもあの時からすっかり綺麗になっていて、あまり懐かしさは感じなかった。
観客席のある場所まで来ると、何やら沢山の声が聞こえてくる。
そこには……。

「エースーーー!!」
「た、タップ!?」

後輩のタップダンスシチーが抱きついて来た、それに、トレセン学園の制服を着たウマ娘達が沢山集まっている。

旦那が「ターフビジョンを見て」とあたしの背中を押した。
言われた通りターフビジョンの方を見ると……。

「………『カツラギエース』…『バースデーエキシビジョンマッチ』……!?」
「エースの旦那、そしてアタシ達から君へ贈る。誕生日プレゼントだよ」
「は、は…?え、なん…ええ?」

未だに状況が飲み込めていないあたしに、ルドルフが説明してくれた。

「2ヶ月ほど前に、君の旦那さんから君の誕生日に何か大きな思い出の残るプレゼントを贈りたいと相談されてね、それならレース場を貸し切って一大イベントをやらないかと私の夫君が提案したんだ

レースをやるなら場所はもちろん、この東京レース場しかないと満場一致、URAに頭を下げて今日一日貸し切らせてもらった」
「そんなのあたし聞いてないぞ!?」
「言ったらサプライズにならないじゃないか!」
「ぐっ………んで、シービーやタップ達はどうして……」
「あたしらはエースの旦那にエースと走らないかって誘われたんだ!」
「『エースの誕生日にレースをするから来て欲しい』って、そんな事お願いされたら断る理由がないよね?」
「……まさか、あたしの筋トレを見てくれたり、メニューを作ってくれたのって……」
「ずっと隠しててごめんね、けど、やるなら君を出来る限り走れる体にしたかったんだ

ここに集まったのは初代日本ウマ娘のジャパンカップ制覇者…カツラギエースに挑戦するためにやってきた、あの時、あのターフで争ったシンボリルドルフ、ミスターシービー、そして……ジャパンカップ優勝し、君に挑戦したいと声を上げたウマ娘達だよ

観客は俺達と、トレセン学園生達にURAの一部関係者、みんな、君の誕生日を祝い、今日のレースを楽しみにして来ているんだ」
「……っ」

あたしの目の前にいる、ジャパンカップを制したウマ娘達の瞳は期待に満ち溢れていて、観客席からは、あたしに対する祝いの言葉や、レースの活躍を期待する声が聞こえる。

「ママ!」
「娘……」
「あたし…ママが走ってるところ見たい!」
「オレも!生で母ちゃんのレース見れるの、スッゲー楽しみ!」
「息子……っ」

子供達からの期待の声と眼差しに、あたしは逃げ場がなくなった。
………いや、逃げるなんて考えは、はなっからなかったのだ。

「………いいぜ、盛大に祝ってくれるんなら、それに答えなきゃエースじゃねぇな!」
「「ママ(母ちゃん)!!」」
「うん、それでこそエースだね」
「当然至極、誕生日だからと言って手加減しないぞ」
「ああ、そうでなくっちゃな、あん時の有馬記念みたいなルドルフの走りを見せてくれよ!」
「よし、それじゃあみんな準備しようか!」

あたし達は更衣室に向かい、そこで旦那から紙袋を手渡された。

「今日、君のために用意した勝負服だ、現役時代のを元に、今の君に似合うデザインに仕立て上げてもらった」
「本当に気合い入ってんなぁ」
「だって、ずっとやりたかった事なんだ、君の誕生日に、最高の場所で、最高のレースをプレゼントしたいって」
「……アナタ……」
「ちゃんとしたお祝いはレースが終わったらするよ、だから今は…レースを楽しむ事だけを考えてくれ」
「……ああ!ありがとうな、『トレーナーさん』!」

パァン!と、あたしと旦那は久々にハイタッチをした。
「子供達とウイナーズサークルで待ってるね」と言って、旦那は更衣室から出ていった。
あたしは早速袋から勝負服を出し、それに着替える。

「ちゃんとメンコと髪飾りまで…しっかりしてんなぁ」

旦那が用意してくれた勝負服は、旦那が言った通りあの頃着ていた物を意識したデザインになっていた。
違う箇所と言えば、通気性を重視していたインナーは同じ色の、ボタンが胸元までしかないワイシャツへ、ショートパンツは足首まであるロングパンツへ、白いスニーカーは黒いブーツへ。
ジャケットもブカブカしたのではなく、袖が捲られていない体にフィットした物だが、背中の『葛城栄主』の刺繍は変わっていない。
デザインの変わっていないベスト、内側が赤い手袋、白いメンコに、赤い髪飾りを付けて、準備が整った。

(まるで…あの頃に戻ったみたいだ)

鏡に映る自分の姿を見て、あの時の緊張感を久々に感じる。
あたしは頬を叩いて気を引き締め、更衣室から出た。
すると目の前には既に着替え終わっていたシービーとルドルフが、あたしを出迎える。

「ルドルフ、スカートじゃないんだな」
「流石にこの年であのミニスカートは勇気がいるからね」

シリウスの勝負服のようなロングパンツに、現役時代と同じデザインのジャケットと7つの勲章を付けたルドルフ、まるで軍人のお偉いさんのようだな。

「シービーは…変わってなくね?」
「よく見てよ!おへそ隠れてるでしょ!?」
「本当だ!」
「ジャケットも両腕長袖になってるね」
「アタシは昔のデザインでもよかったんだけどさー、旦那が『子持ちであの露出はいかんだろ!』って言うから仕方なく」
「相変わらず苦労させてんな…」
「ふふ、では行こうか、みんなが待っている」
「そうだな」
「うん、行こう!」

あたしを真ん中に右にルドルフ、左にシービー、3人横並びで地下通路を歩く。
通路を出た先の、青々と茂ったターフに3人同時に足を踏み入れると、観客席から歓声が上がった。
既にゲート前に集まっていた、歴代のジャパンカップ制覇者の満面の視線が一気にあたしに集まる。
彼女達はみんな笑顔で、そして、その瞳の奥から熱い闘志を感じた。

「全盛期をとっくの昔に終えたあたし相手だと現役真っ最中のお前達には物足りなく感じるだろうけど、今日はよろしく頼むな」
「はい!あたし、同じ逃げウマ娘で大先輩のエースさんと走れるのを楽しみにしてたんです!だからトレーニング頑張って来ました!今日はよろしくお願いします!」
「カイチョーに黒星を付けた相手と走れるなんて滅多にないチャンスだからね!誕生日だからって勝たせてあげないんだから!」
「相変わらずだなテイオー…」
「アンタに憧れて、アタシはこの日本にやって来た…そのアンタと同じ舞台で走れるなんてまさにDream matchだ!どちらが真の大逃げウマ娘か、勝負しようぜエース!」
「もちろんだ、負けないぜタップ!」
「アタシの事も忘れないでね、エースの1番のライバルとして、全員最後方からぶち抜いてあげる」
「こ、これが3冠ウマ娘の厚…!」
「いやお前も3冠ウマ娘だろ、シニア秋だけど」
「はーはっはっは!世界の強豪ウマ娘から逃げ切った偉大なるカツラギエース先輩!そして多くの3冠ウマ娘や実力のある強敵が勢揃い!その全てを薙ぎ倒すボク!!最高の舞台だ!!」
(ぼぼぼ僕…本当に此処にいていいのかな…運良く抽選で当たっただけだから場違いすぎないかな…!)

集まっていたウマ娘達と話していた時、ファンファーレの音が聞こえた。

「音楽隊も呼んだのかよ!?」
「URA側が手配してくれたようでね、だが一層緊張感が増すだろう?さぁゲートに入ろう、次に顔を合わせるのは、ゴール板の先でだ」
「エース、ルドルフ、そしてみんなも、今日は思いっきり楽しもう!」
「「「「はい!」」」」

シービー達がゲートに入り、あたしもゲートに入る。
あの時よりも身長が伸びて、目の前の風景は違って見えた。
けど、胸の高鳴り、緊張感、周囲から感じるプレッシャーは、あの時と変わらない。
例え引退して、結婚して、子供を産んでも

(嗚呼、やっぱりあたしは、何処までいってもウマ娘なんだ)

ゲートが開かれた瞬間、駆け出したその瞬間。
あたしは、あのジャパンカップのあたしに戻っていた。






東京レース場2400m、18人フルゲートで始まった、エースの誕生日を祝うレース。
歴代の日本ウマ娘のジャパンカップ制覇者はエースとルドルフを抜いて25人。
その全員に声をかけた所、全員がエースとのレースに参加したいと名乗りを上げてくれた。
しかし枠はシービーの枠を確保していたので残り15枠、申し訳ないが厳選な抽選を行い参加メンバーを決めさせて貰った。
抽選から漏れたウマ娘達も今日観戦しに来ていたが、みんな悔しそうに、羨ましそうにレースを見守っている。
俺は子供達と一緒に、ウイナーズサークルの横で、最前列でエースを応援していた。

「父ちゃん!母ちゃんが先頭走ってる!」

ターフビジョンに映るエースはタップダンスシチーと競り合いながらも先頭を維持していて、後方から大きく差を広げていた。
本当に現役を退いたウマ娘なのかと思うほどの走りを見せている。
後ろを走るルドルフも、シービーも、そして他のウマ娘達も、みんなエース達の影を踏もうと必死に追いかけていた。

「来た!母ちゃん来たー!!」

向こう正面、先頭を走るエース。
その後ろから続々とウマ娘達が迫っていた。
苦しそうな顔をしていたエースだが、横にウマ娘が並んだ瞬間口の端を吊り上げ、笑った。
そして息を入れて、ターフを蹴り上げた。
再加速したのだ、まるで、あのジャパンカップのように。

「ーっ!」

だが現役のウマ娘とレースを離れたウマ娘では出力が違う。
エースがゴール板の前を通るまでに何人もの若い娘達に追い抜かれ、1着にはならなかった。
けど、走り終えたエースは満足そうに笑って、先着したウマ娘達を讃えた。
俺はと言うと、目の前をエースが駆け抜けた瞬間、彼女の姿があの時の…共に3年間を駆け抜けたカツラギエースに見えた。
その時、俺の目から涙が溢れた。
今も、ただただ涙が止まらない。
後ろから大きな歓声が上がって、息子も興奮しながら「スゲースゲー!」と何度も言っている。
俺は涙を拭い、ずっと黙っている娘を見た。
娘はまるで目に焼き付けようとしているかのように、真剣な表情でレースを見ていた。
その瞳には渇望と憧れと、熱意が籠った光が宿っている。

(………そうだよね、君もウマ娘だもんね)

今日は、エースが歳を重ねた日であると共に、娘が大人の階段を一つ登った記念すべき日となったのだった。


〜〜〜⏰〜〜〜


その後、近くのホテルの大ホールにて、レース場にいた全員が参加するエースの誕生日パーティーが行われた。
これに関して俺は全く関与していない、トレセン学園の理事長とURAが結託して準備を進めていたと今日初めて知った。

「あの…経費はどなたが…」
「無論!全てURAが出すので君達は存分に楽しむといい!」
(よかったーー!!)

パーティーはバイキング形式で、豪華で高級な料理が並んでいる。
子供達は子供達用に用意されたテーブル席でお子様ランチを頬張り、娘と人見知りがおさまった息子は新しい友達を作っていた。
エースは出走したメンバーに再戦のお願いと、観戦していた歴代のジャパンカップ制覇者達から自分達とも走って欲しいと詰め寄られたじたじになっている。
俺も後輩トレーナー達からトレーニングやウマ娘との付き合い方のアドバイスをして欲しいとお願いされ、解放されたのはすっかり夜になっていた。
パーティー会場を出て、近くのソファーに座り一息付いていると、目の前にジュースの入ったコップが差し出された。
見上げると、ジャケットを脱いだエースが微笑みながら立っている。

「お疲れさん」
「エースも、お疲れ様」

飲み物をもらい、それを一気飲みする。
エースは俺の隣に座って自分用のジュースを飲む。

「今日は本当にありがとうな、あたしのために、ここまで大きなイベントを開いてくれて」
「このパーティーは俺が主催じゃないけどね…けど、エースが楽しめたようでよかった」
「ああ、久々に本気のレースが出来て、あの頃に戻った気分になったよ」
「……また、走りたくなった?」
「そうだな、自分の限界なんて知らない、昔の自分を思い出した、ずっとずっと走り続けたいって思った」

「けど」と、エースは横に小さく首を振った。

「ターフにあたしの居場所はもうない、あそこは、夢を叶えたいウマ娘の場所、夢を叶えた今のあたしの居場所は、此処だ」

そう言ってエースは俺に寄りかかり、肩に頭を乗せてくる。

「アスリートのカツラギエースは今日限りの復活で終わり、明日からはまたアンタの嫁、そして子供達の母親のカツラギエースとして頑張るからな」
「そっか……」
「本当に今日はありがとう、一生忘れられない誕生日になった」
「よかった、けど、まだ終わらせないでくれるかい?」
「え?」

俺はエースを起こし、彼女の頬に手を添えて、少し開いている彼女の口に静かに口付けた。

「エース、誕生日おめでとう、生まれてきてくれて、ありがとう、これからも君のそばで、君が生まれた日を祝わせてくれ」
「……っ…喜んで…」

エースは涙を浮かべながら微笑み、キスをし返してくる。
そのまま子供達が呼びにくるまで、俺達はずっとキスし続けた。





その日の帰りの車の中、娘がこう言った。

「あたし、大きくなったらトレセンに入って一人前のウマ娘になって、ママとレースする!」

エースの涙腺が崩壊し、車内はちょっとした騒ぎになったのだった。


終わり
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