運命に出会った日 side黒服


神秘の研究、それは私にとって至上の命題。ゲマトリアとして『色彩』の脅威に抗う為にキヴォトスの神秘を解明する。その研究の為ならルールの上でどのような事でもやりましょう

ここアビドス区にある学校はカイザー社への借金によって廃校の危機だと聞く。カイザー社と協力関係を築ければもしかしたら神秘を持った学生を手に入れる事が出来るかもしれない。そのような意図を持って私は街にやって来た。だが、何をするにしても情報が必要になる。一応、依頼という形で出したが、我ながらあれに引っかかる者はいないと思う。学生限定などにはね
「仕事を探さなきゃ!」
声に振り向いた。1人の少女だった。小走りで去っていく彼女を私は足を止めて見ていた。暫くして、私は再び歩き出す
(先程の少女、学生ということは恐らくアビドス校の生徒ですね。ならば、私の研究対象の候補かもしれませんね。…覚えておきましょう)
そう思考した私でしたが、一つ間違いがありました。先程の少女、私は覚えておくと言いましたが、違う。忘れられないのだ

カイザーPMC

「フン…いいだろう。ゲマトリアという組織の支援については検討しておいてやる」
「ありがとうございます」
私は目の前にいる巨漢、カイザーPMC理事に頭を下げた。話してわかったが、この者は野心が強い。ゲマトリアからの支援を無碍にはしないだろう。一つの案件が終わった事に胸を撫で下ろす。すると、1人の社員が慌てて入って来た
「社長!すみません。取り逃しました!」
「おい、今は客人がいるところだぞ」
理事の凄みに社員がヒッ、と悲鳴をあげる
「いえ、私はこれで失礼します」
私はそう言って退出すると中から声が聞こえて来た
「何をしている。さっさと奴を見つけて金を取り返せ!」


街の中

あの後、社内で話を聞いたらかなりの大事だった。どうやら今カイザー社が追いかけてる男は学生を狙って卑猥な映像を撮って売り捌く人物のようだ。それだけならカイザー社も気にはしないが、その男は何とカイザー社を騙して金を盗んだらしい。豪胆というべきか命知らずというべきか。とにかくその男がアビドス区にいるというらしい。手配書まで回って来た本部の失態をあの理事が埋めたら上からの覚えがいいのだろう。そしてそれは私もだ。ここで彼の手柄になることをすれば労せず重宝されるだろう
(とは言っても見つからないとは思いますが…情報収集を兼ねてみ探してみますか)
「待ってくださ〜い!財布落としましたよー!」
その時、少女の声が聞こえて来た。見ると今朝見かけた少女が財布を持って必死に追いかけてるではないか
(彼女は随分とお人好しな様ですね。しかし、財布を落とした人も随分と耳が遠いようで……おや?)
彼女が追いかけてる相手を見ると社内で騒ぎになってるという男だった
(これは…幸先いいですね)
私は追いかける事にした。…かなりキツかったですが


人通りのない裏路地

(…なるほど。中々巧妙な手口ですね。)
あの男は金に困っている人、お人好しな人を見つけるのが得意なのだろう。そして財布を落としたふりをしてターゲットを人気のないところに連れて来てから犯行に及ぶ、と
(しかし幸運ですね。このままいけば奴のアジトとやらがわかりますね)
あの子には酷ですが、事に及んでいる間に理事に連絡すれば逃げる間もなくあの男を捕まえられる
改めて彼らを見る。どうやら上手くいきそうだ。お人好しな彼女の顔を見る。相手が騙そうとしてるなど全く思っていないその顔はどうなってしまうのか——関係ない。このままバレずについていけばいい。男が彼女の手首を掴む。思ったより力んでいたのか彼女の顔に僅かばかり苦悶が浮かぶ
「痛っ!」

「少々失礼」


……私は何をやっているのだろうか。
せっかくのチャンスだったというのにあろう事か前に出て来てカイザー社の手配書を見せてしまった。それで私を追っ手だと思った男は脱兎の如く逃げた。もしかしたらアジトも引き払うかもしれない
「あの…ありがとうございました!」
名前を梔子ユメと言った少女が感謝を述べる
…考えようによってはこれでいいのかもしれない。元々理事には時間かけて近づくつもりだった。代わりにヘイロー持ちの学生から一定の信頼を得られるかもしれない。そうすれば彼女を利用できる。なぜなら私の目的は神秘の研究だから
ユメさんを見る。私が何を考えているか全く気付かずに笑顔でいる彼女。先ほどあんな目に遭ったのにも関わらず笑顔でいる彼女に私は言う
「ユメさん、少しは人を疑う事を覚えた方がいいですよ。でないと————
”悪い大人“に騙されますよ?」
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