教えて!ハインライン先生!!


「オーラーイ!! オーラーイ!!」
「———」

 ———クレーンのややミニチュアが、そこにあった。
 ミニチュア、と表現したのは、地球にあるクレーン車では余りに大げさかつ目的物とサイズが合わないからだ。そうまでして、一体何を運んでいるのか。それはシンならひと目で分かるものだった。

「オーラーイ!! オーラーイ!!」

 ———吊り下げられたものは、デスティニーのキュアクリスタルだ。ご丁寧にも、クリスタルの周りにはクッションとそれらを格納する台座。括られてるのは正確にはその台座だ。

「オーラーイ!! オーラーイ!!」
「ぇ」

 以上のことを、シン・アスカは都合3分。実際の作業現場を目にしてから理解するまでそれだけの時間をかけたのだ。
 余りに意味不明すぎる。自分は本はそこそこ読む方なのだが、『言葉として書かれてるのを読める』と『書かれてる事を理解できる』には差がある事くらい分かってるつもりだった。
 まさか、それを活字どころか肉眼目視で実感するなんて。
 そういう思いとともに、背後に銀河を広げていたところ、その銀河に一人の男がやってきた。

「おや、珍しい」
「あれ、ハインライン、さん…でしたっけ?」

 アルバート・ハインライン。プラント王国における研究所のトップを勤めている男。噂ではこの人に泣かされたスタッフには枚挙に暇がないのだとか。

「ええ、ここには一体何用で?」
「あ、あの、えっと…」

 キラさんと意気投合してるのは見たことはあるが、まさかこうして鉢合うとは思わず、噂もあって緊張してしまう。

「アスランにデスティニーのクリスタル取り上げられてて…、訓練も終わったし、一体どうしてんのかなって」
「見学というわけですね」
「まぁ、はい」

 バッサリ用件をまとめられた。
 いつも忙しなそうだし残業もしてるそうだし、なんだか奇妙な話しづらさを感じてしまう。

「ではこちらへ。危ないので」
「はぁ…」

 そう言われて、フェンスがそういえばあったと思いながらそこから離れた場所へ通される。というか。
 危ない。危ないとは何なんだ。キラさんのもアスランのも、キュアクリスタルを他の人が扱ってるのは見たことあるけど普通に手触りだ。ここまで大掛かりにやってなんかなかったはずで。

「あの、何で、こんな大げさな…?」

 たまらずそう聞くと、ハインラインは答え始めた。

「私もごく始めはそう考えていました。結論から言えば未知かつ危険物だからです」
「へ?」

 危険物。

「そもそもクリスタルの事でプラントとオーブの研究者が揃いも揃ってこうして現場に集まる事自体異例なのですよ」
「異例、ですか」
「まずアレはザフト政権下とはいえ、法的にはプラントの管理下で発見された物、ということになります。オーブもプラントも一国として運営する以上、クリスタルの管理や整備は自前でできて然るべきです。その上で貴重なキュアクリスタルのサンプル、解析するのはプラントの責任ということで初めは議決しました。ですがそこに、オーブのエリカ・シモンズ女史、カガリ王女、そしてプラントのクライン王家が待ったをかけました」
「はぁ…」

 待ったを。プラントで見ようと思ってたところに。

「曰く、これは普通のキュアクリスタルではない、と。詳しくは言えないが、国の枠組みを超えて扱うべきである、と。内政干渉だと反発した研究員も勿論いましたが、その勢いで乱雑に手に取った途端、中に残ってただろうエネルギーが弾けて彼の手が吹き飛びました」
「———ブッ!?」
「無論、再生済みです。ですが、その事を受けて全員、認識を改めざるを得ませんでしたね」
 
 そんなことが。自分でも殆ど意識してなかったのだけれども、俺のクリスタルそんなブツだったのか。再生した、とは言っても体の一部を失うなど、地球人からすれば一大事もいいとこだぞ、と。

 『これを見越していたとするなら、さすがはクリスタルの原産地、扱いはあっちに一日の長といったところでしょうか』———などという言葉を尻目に慌てふためいていると。

「丁度、貴方にも色々聞きたいことがあったんですよ。ここに来なければ、私が自ら足を運んででもね」
「———」

 ハインラインがズイッと。いつの間にか目の前にいたのだ。
 圧がすごい。いつだかImジャスティスの件でエリカ主任にゴネてお叱りを食らったのといい勝負だろう。後ずされば同じだけ距離を詰めてくる。

 いつの間にか、クレーン操作と掛け声は止んでいて、この場にはシンとハインラインのみとなっていた。。

「まず一つ。あのクリスタル擬きはどこで手にした物ですか?」
「えっ、えっと、何か気づいたらありました…」
「それはいつからですか? 覚えてる限りで良いです」
「初めて変身、した時…?」

 目の前の男と比して低い身長が恨めしい。コレが壁ドンかぁ…などとつかぬことで現実逃避する。勿論腹芸なぞする間もない。

「分かりました。では次、貴方のプリキュアとしての経験について聞きます。一つ、プリキュアとして戦ってて、被弾した覚えがないのに怪我をしていた、あるいはどこか傷んだことはありますか?」
「あっ、それなら何度かあります」
「キュアデスティニー=ダークネスとして動いていた時もですか?」
「うっ……。……むしろ、その時のが色々酷かったです」

 あまり思い出したくないときの事も容赦なく聞くのか。

「ダークネスの時の方が酷い…、メンデル魔術? 歪な姿…、というよりは純粋に出力が増した分の反動であると見るべきなのか? 要考察…」

 一応メモ取りながらなので、医者の診察のようなものとおもって我慢しよう。

「では次、そのプリキュアとしての力、正確には素魔力なんですが、戦闘行為に直結するもの以外に使えたことはありますか? ああ、くだんの結晶解除は除きます。両国の王女の協力あってのことなので」
「えっと、それだとないです」
「ふむ、これは大方の予想通り、と。では初めて変身したとき、何を考えていました?」
「その時は、キラさん助けたくて、一杯一杯で…、こう、キラさんみたいに俺も戦えたらって。そんな事考えてたと思います。そしたら何かぶぁーって」

 ハインラインの目が。少し見開いたように見えた。

「なるほど…」
「あの、一体何なんです? というか、アレ返してもらえるんですか?」

 ここ最近、妙に狭苦しい思いをしてばかりなのだ。返却も実現できるとは思わないが、いい加減何かはあって欲しい。そう考えると文句の一つも出ようものなのだ。
 そうして出てきた文句は。

「いえ、ますます返却するわけにはいかなくなりました」
「ナンデェ!?」

 いとも簡単に。これ以上ないほどの形で弾かれてしまった。

「まず前提として。キュアクリスタルというものは、人工物です。間違っても無から生えてくるようなものではありません。大昔の、それこそオーブとプラントの名さえなかった頃の技術の結晶である、という結論が出ています」

 放心していると、いつの間にか講義が始まった。

「えっ、でもじゃあ、何でエリカ主任は再現に苦労してる、なんて?」
「秘密主義の古代人が製法を伝えきれなかったのでしょう。愚かにも。ええ、愚かにもです」

 おかげで我々物凄く苦労させられているんです。などと明らかに古代の叡智と呼ぶべきをディスるハインライン。

「幸い両王家に修復方法は伝承されています。加えて現代では魔術の水準も段違いです。だからシモンズ女史も私も、耐久にこそ劣るものの機能の再現に漕ぎ着けている訳です」
「そうなんだすげえ」
「話が逸れました。つまりはそういうことなんです。『そういう前提』のもとで貴方のクリスタル擬きを扱ったのがそもそもの間違いだったんです」

「って、さっきから『モドキ』って何すか『モドキ』って!!」

「擬きは擬きです。本来、クリスタルを解析すると古代人の叡智と呼ぶに値する術式が見えてきます。歴史上のプリキュアで攻撃ではなく治癒を得意とした者もいるのです。そして、研究員でもない王族が修復できるのもそういうことです」
「一方で、アナタのソレは解析しても見えるのはまるで子供のラクガキです。ムダなスペースが余りにも多くて、そのくせ見えてくるのも『とりあえずここに力通す』『何か爆発させる』くらいのものです」

「———」

「『助けたい願い』を以て覚醒し、いつの間にか手にしていた、と言いましたね。大方そのときにでも、貴方の『星の力』がキュアフリーダム辺りの真似でもしたんだと推測しますよ。真似した結果、表面的にクリスタルを真似た物まで出てきた。———そもそも、貴方の世界では魔法の概念もプリキュアもなかったんでしょうに」
「まじ…すか…」

 思った以上にとんでもない事になってそうだぞ、ということは理解できた気がする。文句はなんだか完全に吹き飛んでしまった。

「人の身には大きすぎる力を適切に制御する。そういう機構である以上、余剰分の適切な蓄積か排出も重要です。あのクリスタル擬きの場合、念頭に入ってないどころか、制御装置としてのあり方に真っ向から反する造りですね。反動の肩代わりに至ってはあんなの飾りです、とさえ言ってもいい。だから本来ありえない反動が普通の運用でも来るし、外部の刺激でエネルギーも暴発する。まして、こちらの世界の天地を合わせたような力———大方仮説としてはこんなところでしょう。とんだ掘り出しものです、ギルバートめ」

 ハインラインの中でどうやら、理論が固まったらしい。これが分かればまだやりようはあるぞ、と呟くのをシンは黙ってみていた。

「シモンズ女史には私から言っておきます。試作クリスタルを壊したときの制裁も少しは軽減されるでしょう」
「あっ、はい」
「ですが、貴方がやるべき事は何も変わりません。引き続きImジャスティスの試作クリスタルを使って訓練、並びに貴方の故郷の力のデータを提供してもらいます。壊さずにです」

 話は終わったかぁ、と一息ついた気分。エリカ主任のときもそうだったけど、こうも重大な理由があると突きつけられるなぞ思ってなかった。
 腹の底までの納得、とまでは行かない。が、理解もまたできる話。とりあえず今までどおり頑張っていこう。そう思ったところで、一つ思い出したことがあった。

「あのー」
「何ですか? 私はこれから設計に移らなければならないんです。手短に」
「いえ、ルナの事なんですけど」
「ああ、貴方の恋人ですか。そういえば彼女も貴方の影響かプリキュアになったんでしたか。彼女がどうしたんですか?」
「俺達の家族の結晶化解いたときになったんですけども、なんか『知らない間にクリスタルみたいな物持ってた、怖い』って———」

「———今すぐ!! 連れて来いッッッ!!!!!」
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