no title


ーーー誰もいない競馬場が、俺の最初の記憶だった。

(ーーー自動修復が、完了したのか?)

俺は、ロゴスリアクト・レプリカ。「再演」の性質を持つ、ほぼ無限の情報記録媒体「賢者の石」を特定状態にして作られた……世界を破滅から救済する為の道具のレプリカ。
永く、この身ですら永く眠っていた気がしていたが……目覚めたという事はつまりは誰かが俺をなおしたという事だ。

(ーーーしかし、なんだこの世界は?)

何故、俺は競馬場に居るのだろう
何故、俺は競馬騎手の格好をしているのだろう
何故、俺の身体的データは、松岡マサミ騎手のモノなのだろう
……と言うか、何故俺に日本競馬の情報がインプットされてる?

【俺は、何を演算している?】
「目覚めたかい?我が一族の悲願」

空に、映画のスクリーンが如く画面が浮かぶ。そこに映った男は……今でも読み解くのが難しい、けれども確実に喜びを含んだ微笑みで俺を見下ろしていた。

「俺は《データ削除済》。君を修復することを命題とした一族の最後の一人。
【修復した者のみが、君を好きに扱う権利を持つ】と言う契約を果たした者であり……君の居る世界の製作者で、設定者[マスター]だ」
「……成る程、それでマスター。この世界はなんだ?俺は何を演算させられてる?」
「…………俺は、産まれる前から既に君の修復を行う人生が決定付けられてた存在だった。まぁ魔術師の家に産まれた以上一般的な道とは外れるのは仕方ないが、憧れと言うモノはどんな人間にも芽生えるモノでね」

側に置いてある……恐らく自作の芦毛のぬいぐるみを撫でながら彼は言葉を紡ぐ。

「両親の目を盗んで、いい歳になって初めて観たテレビで……赤い服の騎手と真っ白な馬が、まるで魔術を使った様な加速でゴールを決めてさ。あんな面白い世界があるのかって思った。
だから、両親が訳の分からない儀式に参加して死亡し、その後処理の最中に……何故か\ペッペカチュー‼︎/と効果音がするとは言え、光輝く黄金の杯(魔力の塊)を見つけた俺に、躊躇いは無「馬鹿かお前は‼︎‼︎‼︎⁇」

嗚呼、答えを導き出してしまった。彼はこんなささやかな理由で、模倣品とは言えアトラスの至宝を、この己を本当に私物にする気なのだ‼︎

「一かバチかの賭けだったけれど、俺は君の改造と、起動に成功した。修復に不足していたリソースは聖杯を使い、それでも落ちた君の情報処理能力を補う為にインターネット接続が出来る様、君の賢者の石の状態も変えて……そして何より重要な、君を含めたこの世界を決定する精神モデルは……すまない、片っ端から試した結果コレが適応してしまって」
「ヒヒン」

恐る恐る振り返ると……其処には二足歩行で歩いて此方へと向かって来る……俺の愛馬が居て。

嗚呼、もう一つ言わせろ。

「何故、この作品を候補に入れた‼︎?」

ーーー今、思えばあの時点で、あんなツッコミを入れれる俺は、俺達は……アトラスの至宝としては……とっくのとうに壊れてしまっていたのだろう。


◇◇◇


「薄々勘付いてだけど、やっぱりウチの聖杯製かココ‼︎」
「プボ⁉︎どうしたプボリュージ⁉︎」

ノイズ塗れとは言え、昼夜もきちんと設定されているこの世界。夜になり流石に休息をしようと眠って見た夢に、思わずツッコミを入れて飛び起きてしまった夜半の頃。

「あー……いや、ちょっと夢の中でツッコミ入れてしもて。……彼方のマサミとマスターさんの記憶やな、あれは」
「……どんな人達だったプボ?」
「……ますます、助けなきゃアカンと思う様な人達やったで」

夢の中のマサミとマスターは、あんなやり取りをしていたけれども……どちらも楽しそうな笑顔を浮かべていた。

「和田さん大丈夫ですか?」
「むにゃ……」
「すまん、マサミ、ウィンブライト」
「見張り買って出たのは俺なんで大丈夫ですよ」

慌てて此方の様子を見にきた二人にも夢の内容を伝える。

「……名前と容姿を、特に意識せず使用許可出した結果。回り回って俺の別側面(オルタ)……いや、牛若と景清の方が近いか?まぁとりあえず俺オルタが産まれて、世界滅ぼし掛けてるなんて……人生はわけわからないなぁ」
「俺はマサミなら、例え主戦がギンシャリのマサミでもきちんと助けるぜ。どのマサミには幸せになって欲しいからな‼︎」
「ふふ、ウィンブライト」コネコネ
「ひゅー、お熱いプボ……アレ、エレジーも起きたプボ?」
「むー……久しぶりにあの時の夢みて……」
「それで、周りの様子は」
「やけに鳥が騒がしい位だけど、人の気配は無いで「鳥が騒が……不味い‼︎‼︎」

カッ‼︎っと寝ぼけ眼を一瞬で見開いたエレジーに反応が遅れる。

「マスター、内田さん起きて‼︎サンコンさんが既に来てる‼︎‼︎」
《ふえっ!?》
「おっと」
「でも、人の気配は無いって……」
「【おっと、私も奇襲は失敗か】」

上空を飛ぶ、色々な種類の鳥から一斉に男性の声がしたと思った瞬間。それらが急降下し、バタバタと渦巻くと……。

「なんと」
「【私だけの裏技でね。私達とその他のモノは、普段は切り離しているだけで結局の所同じ賢者の石だ。
故に、少しパラメータを弄って、こんな吸血鬼の変化じみた事も出来るのさ。
では、はじめまして。私はムアイ・サンコン
……エレジーとペドロを、どうやって騙くらかしたか教えて貰おうか?ウィルスデータ」
《やっぱり誤解してるー‼︎》
「あちゃあ…」

黄緑と黄色の勝負服を着た男が、微笑みながら……静かに闘志を激らせ現れた。

「……僕もペドロさんも騙されて無いよ」
「【その言葉を信じてあげたいが、お前と好太郎が外部接続の際に、好奇心で踏んだスパムの数を言ってみろ】」
「うっ」
「……それは流石に駄目だぞ、エレジー」

ゴールドシップからの冷静な注意に凹むエレジーを横目に、彼は言葉を続ける。

「【しかし、お前達が確かにペドロとバーニングビーフから出走権を譲渡された事もまた事実。故にお前達にも……私は興味が湧いた。

ーーー来い、◻️◻️◻️◻️】」
「…………は?」

人の耳には認識出来ない言葉と共に現れた……アレは何だ?

「……本当に、バグじみて来たね」

それは、古くなったブラウン管テレビの様にチカチカと瞬きながら、幾重にも重なっていた。
ほんの一瞬だけなら、それはシマウマだった。
また別の一瞬ならば、それは鼻先に馬の張子を付けたゾウだった。
更に別の一瞬には、ゲートに入るか怪しい程の巨大な木馬だった。

だが、それらが重なり合っている……''同時に同じ地点で存在している''アレはなんと言えばいいのだろうか。

「サンコンさん……」
「【なぁに、キミと同じさ。エレジー。キミが曲がりなりにも、好太郎と離れて単独行動出来るのは、他のハリボテ種のデータで補強してるんだろ?
……私も、他の愛馬達を置いて行けなかった】」
「……置いて行けなかった?」
「【さぁ、かかってこいウィルスデータ‼︎この私達に勝てない様じゃ、マサミには歯牙にも掛けて貰えないぞ‼︎】」
「………説明は後で聞くわ、エレジー。
和田さん‼︎今度は俺とウィンブライトが出ます‼︎マスターは何時も通りアスクレピオスせんせを‼︎」
《またナイチンゲールに怒られますよマサミさん‼︎……先生‼︎そしてパリス君‼︎》

影の筈なのに何処か嬉しそうなアスクレピオス先生に、相手を視認した途端、虚空から黄金の林檎を取り出しポケットに仕舞い、銃を構えるパリス君。(……あれ、絆礼装の林檎やな)


「さぁ、俺とウィンブライトの戦い【聴いて貰おうか】」


第三節 疑念の鎧は幾重にも重なり
お知らせ
実務でも趣味でも役に立つ多機能Webツールサイト【無限ツールズ】で、日常をちょっと便利にしちゃいましょう!
無限ツールズ

 
writening