【閲覧注意】 アレクセイ・コノエ×TSアーサー・トライン


満天の星空で、雲一つない快晴。これがキャンバスであったなら、押し付けて写し取らせておくだろう。それくらいに、その宙は画家泣かせなまでにきれいであったのだ。
一つ、残念なのはそれが満月ではなく…三日月であったこと。惜しいものだ。それでも三日月であっても、この遮蔽物の無い海の真ん中で、大西洋の真ん中で、あたり一周分の空は見事に綺麗と言える。
そんな空の下で、デッキに出て見上げる人影。この暗がりに紛れて見づらいが、確かに…そのシルエットを間違えることは無い、我が片翼の副長。
全身を黒い軍服で飾らせた、たおやかな女性。
うなじから伸びる暗いオリーブの髪を潮風になびかせ、空を見上げている。ちかり、と左手には銀色の光が鈍く光った。
大人として頼りなくオーバなリアクションであるが、その温かみある笑みと声で周りの心を一息、落ち着かせる。反面、その並列思考と射撃センスはあの不沈艦と言われたアークエンジェルを追い詰めるだけある。もっとも、前者の性格で打ち消されてしまっているが。
なんとも気の許せる人を認識してしまったら、信じてしまいがちな心配する性格。その性格さえも惚れた弱みとして済ませてしまっていた。
頼むから、私の手に届かないところで傷つかないでおくれよ。…いっそのこと私の手を物理的に繋がせてしまおうか、そうすればどこにも行かず傷つくことはない。
そんなことを思っていれば…私に気付いたのか、こちらを振り向く。嬉しそうにあどけない顔で、私だけにその微笑みを見せてくれる。まったく…どこにでもふりまかないでくれよ、その笑みは私だけのモノなのだから。こんな小言を言っても、君は首をかしげるだろうね。

「アレクセイさん」

猫なで声を上げパタパタと、こちらに駆け寄る。うしろから覗く彼女の長い髪の尾。走るたびにゆらゆらと揺れて可愛らしい。
距離を縮め、すぐにでも口を塞げられる距離感。何の疑いもなく手を取り、重ねる…いつにもまして情熱的だな。
私より少し小さめの身長、女性にしては珍しい高身長だ。最初は彼女はこの身長に対し小さなコンプレックスであったが、どれをとっても私の妻に非の打ちどころはない。否定する要素も無いため、ほぼ毎日、彼女を肯定し続け、情事でも他のコンプレックスと共に愛で続ければ…やっと、自信を持ってくれた。
何も知らなかった無垢な女、私だけが塗り替えることが出来る。私好みに彩られた私の片翼で、私だけの妻だ。
「久しぶりの海です。…以前は忙しくてまともに海を眺める余裕はありませんでしたから、つい見入ってしまいましたよ」
「確かに、ミネルバの頃のアーサーはいつになく忙しなかったな。それでいて…危なっかしい」
進水式を終えることなく、すぐに稼働し約三か月間。激動の月日を跨ぎ、月面にてその活動を終わらせたミネルバ。ミネルバの撃沈の報を受けた時、私は目の前が真っ白となった…彼女が成人してからずっと、長らく付き添った妻であった彼女が、殉職したと思い込んだのだ。
奇跡的に攻撃の難を逃れたとはいえ、報告を受けた時は…頭を思いっきり強打され、血の気が引き心臓を握られ、さらには議長に対し憎悪すら沸くほど。
議長もこの世界を思っての判断をしたのだ、それを無下にすることは無いが…いささか、その計画は未完成すぎる。
議長が居るメサイアの攻撃範囲内に入っていたのだ、そう思ってしまっても可笑しくはない。
だが…帰ってきてくれたのだ。

「アーサー、君が帰ってきてくれてよかった」
「私も、あなたの元へと戻れてよかった…もう、会えないって思いましたもん」

えひひ、と口元を緩ませ柔らかい笑みを浮かべ、こちらを見上げた。暗い中で上目遣いをし、その目はオレンジ色で視界を引き寄せるほど明るい。普段より色が映えている、リップか…薄く開いた唇が魅力的でかぶりつきたくなる。散々と愛でるように獣のように口づけをしてきたが、やはり飽きないな…慣れているはずなんだが。指輪が付いているほうの親指でつつ、となぞればくすぐったそうに身をよじりはじめた。
正直、あんな体験してから妻をどこにもやりたくもない上に、他の男の視線に目をやらせたくない。教え子で部下、それこそ信頼できるアルバートでさえも、その対象だ。
「アレクセイさん?」
「…いや、何でもない。そろそろ身体を冷やす」
夜も深くなり、いっそう月の光が明るくなっていた。
アーサーが小首をかしげ、先ほどまで彼女の唇をなぞり、髪をすくっていた私の手を取る。手のひらに自分の頬を摺り寄せはじめ、とろりと嬉しそうに頬を緩ませている。ふにふにとした頬の感触、少し冷えてきた体に温かい温度が巡る。
それにしても、どこでそんなおねだりを覚えたのか。
食い入るように見つめれば、クスクスと小さく笑いながら今度はこちらを見透かすような余裕ある笑み浮かべ笑っている。
本当に、と心の内でごちり顔を近づけ、きょとんとした顔のまま…その口を塞いだ。
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