記憶


五月。
まだ知らない人の方が多い時期。
友達を作ろうとする人たちの声がそこらを飛び交う。
あたたかな春の日差しの中、マフラーをつけ、季節外れの厚手のコートを着た青年が一人で下校していた。
しかし周りの人にそれを気にするそぶりはない。
青年の名は孝大。品科高校の三年生だ。
孝大は駅の改札を通り電車に乗った。
電車に乗ってしばらく。一人二人と乗客が降りていく。
残り三駅となった頃、その車両は孝大と、孝大と同じ制服を着た一年生らしき青年の二人だけとなった。
この春からずっと彼とは同じ電車で、車両が少ないのもあってよく同じ車両になる。
しかし特に何か関わるわけでもない。のだが。
この日はいつもと違った。
青年が孝大に話しかけてきたのだ。
「あの…。」
声をかけてきたはいいものの、言い淀んでいる。孝大は話しかけられて、驚きの表情をあらわにした。
「その…。ずっと気になってたんですけど、なんでマフラーしてるんですか?」
どうやらずっとマフラーのことが気になっていたのに周りの人が気にしていないので聞いてもいいか迷っていたらしかった。
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