とある純血の独白


自分はある意味呪われているかもしれないと、最近思い始めていた。
自分は死んだと思っていたが、奇跡的に生き延びた様だ。
自分を救ってくれたのは、同じセブンスターズのラスタル・エリオン公だった。
自分を救った真の目的は恐らく政敵になると感じている自分の友 マクギリス・ファリドの情報と当て馬の為だとすぐにわかった。まず彼が語り出した今の世界の情勢は劇的なものだった。

まず、ギルバート・デュランダルのロゴス及びブルコス狩りに、我々ギャラルホルンも巻き込まれそうになったが其れを阻止したのは何とイズナリオ公とアンリ・フリュウ、そしてロゴスやブルコスに繋がっていたすべての関係者を差し出す形で首の皮一枚で繋いだのはマクギリスだった。
マクギリスがギャラルホルンを未だに破壊せず、残した理由は見当がついた。
アルミリアだ。
アルミリアの後ろ盾でもある自分の家を、
ボードウィン家をを守るためにはまだギャラルホルンが必要だから。未だギャラルホルンは生き残っていた。

ナチュラルとコーディネーターの二度目の戦争
第二次連合・プラント戦争は、ロゴス盟主ロード・ジブリールの死亡、デスティニープランを提唱したギルバート・デュランダル議長がラクス・クライン達を中心にした連合に敗北、死亡した事によりある意味
勝者の存在し無いまま終わりを告げた様だ。

その後、オーブが中心となりプラント、大西洋連邦の出資により、ラクス・クラインを総裁として招聘しギャラルホルンに変わる新たな治安維持組織が出来上がっていた。マクギリスの言う通りになっていた。

それが「世界平和監視機構 コンパス」と言う組織だった。
そこには、未だ規模は小さいものの陣営を問わずあらゆるエース達、エキスパート達が集結しており既に結果を残していた。あの鉄華団達すらもコンパスに所属しており、オーブに新たな支部も築き上げていたほどだ。
既に世界のあらゆる組織がギャラルホルンと言う古く、まともに仕事が出来ない組織に見切りをつけ始めていた。

そこには既に
マクギリスが
そしてアルミリアも
ギャラルホルンからの出向と言う形で参加していた。

マクギリスが他のセブンスターズや保守派幹部達の反対を押し切りコンパスで多大な活躍した事で多くの
特に若者を中心としたギャラルホルン兵達がマクギリス達に続く様に出向を望む者たちが急増した様だ。中にはギャラルホルンに退役を叩きつけるほどの者もいた。多くの若手が組織のやり方や方針、風習に不満を抱えていた者達だった。

これによりコンパスの力が大きく増し
逆にギャラルホルンは組織力の低下により、想像以上の速度で弱体化し、発言力をほぼ失ってしまった様だ。世間のほぼ全ての人々はこの結果に納得しているだろう。 ギャラルホルンを除けば。

保守派の者たちは自分達の既得権益を失いかけている事に怯えていた。
"このままでは、自分達は世界から爪弾かれると"
何としてもギャラルホルンの栄光を取り戻すと貪欲になっている様だと、ラスタルは呆れながら呟いていた。

ラスタルが自分を救った理由は其れに協力してもらう為だと語られた。ギャラルホルン弱体化の原因であるマクギリスと
コンパスを排除して、ギャラルホルンの権益を守る為だと。
保守派の強欲を、勝手に背負わされた様だ。
自分は最初、迷った。
最後に聴いたマクギリスの言葉。少なくとも、あの言葉から嘘は確かに感じなかった。
俺たちの友情は間違い無く本物だと。
しかし、俺は同時に不安になった。
本当のにマクギリスは約束を守ってくれるのか?と
カルタや俺を犠牲にしてまで入った組織は本当に信用できるのか?と

俺はマクギリスに、アルミリアに会い、真実を再び聞き出す為に、真意を図る為に、ラスタル公に協力する事にした。
暫くはリハビリを兼ねて潜伏する事になった。
アインの脳を阿頼耶識と共に移植し搭載したキマリス、否。
ガンダム ・ヴィダールと共に時を待った。

其れは突然だった。
火星から発掘された、厄祭のモビルアーマーが
イオク・クジャン公により再起動してしまった事件で
俺は、私は、マクギリスと仮面越しの再開を果たした。
私はマクギリスに正体を明かさぬまま、ムルムルの側で
バエルに乗る友に質問する。向こうも察している様だ。

彼女は元気か? 
アスハ代表やラクス総裁の指導を受けながら頑張っているよ。と返って来た
コンパスはギャラルホルンより信用たり得るか?
でなければ此処にはいない。鉄華団も信頼していない。
信用たり得る組織だ。と返って来た。
お前はやはりギャラルホルンを消すつもりなのか?
もう分かっているはずだ。と返って来た。
私は、確信出来た。あの日から変わっていないと。

間違い無く、マクギリスはアルミリアを大切にしてくれており、私との友情は今だ本物たり得ると。
私は其れを確認すると、ジュリエッタに後を任せて、クジャン公を連れて帰還した。

それからは少しギャラルホルンは荒れた。
今回のモビルアーマー騒動の責任追及の為に、
何と、アルミリアがラクス総裁を連れて本部にやって来たのだ。当然、テレビ通話でアスハや他国代表の姿もあった。
クジャン公の今回のやらかしや、作戦妨害の映像がしっかりと残されていた事により、なあなあにしようとした他のセブンスターズ達も、幹部達も、追及から逃げられなかった。
結局、クジャン公は半年以上の謹慎処分や特権一時完全剥奪をくらい、ギャラルホルンは犠牲者こそ出なかったものの、今回の事件を、混乱を避ける事を理由に隠蔽する代わりに、損害を受けた火星農業プラントの賠償を全額負担する形になり、コンパスとの作戦行動の禁止。
いわば、
もう何もしないでくれ。と世界から言われた様な物だった。

保守派幹部達は怒り浸透だった。
自分達が何故こんな状況になっているのか理解できないと。
何としても、
どんな手を使っても、
コンパスを消し去ると、
化け物の達の組織を破滅させてやると、
怨沙を上げているのを、
ラスタル公やジュリエッタ、
そして俺も頭を抱えて聴くことしか出来なかった。
せめて、そんな時が来ない事を祈りながら。

フリーダム強奪事件と謎の独立国家ファウンデーションが現れるまでは。
ラスタル公はかの国がテロリストに強奪されたフリーダムをまるで待っていたかの様に鎮圧し、地球に埋没していたモビルアーマーをコンパスや我々よりも素早く狩り倒して行くその異常な強さと正確さに不信感を抱いていた。
彼は昔の友人を潜入させ、報告を待ったがアコードと呼ばれる存在に関する報告を最後にそれから連絡が返ってくる事は無かった。
そんな時、コンパスとファウンデーションがミケール大佐捕縛の為、共同作戦中にフリーダムが作戦領土侵攻を犯し、ファウンデーションに他メンバー共々殲滅され、ユーラシアから放たれた核ミサイルによりアークエンジェルと共に消滅したという報告が上がった。
アリアンロッドやラスタル公は混乱していたが、保守派どもは下卑た笑みを浮かべながら喜んでいた。
自分達にとって最も邪魔な存在が消滅し、更に戦犯を犯したのだ。これでもかと、叩き下ろし国代表の会議にて自分達が正しかったと捲し立てた。
今度はファウンデーションが、報復として戦略兵器 レクイエムを発射。ユーラシア首都モスクワが消滅した。
彼等は自分達が新たな世界の導き手と称し全人類生活圏に
デスティニー・プランを施工する様に要求。
全てのプラント及びコーディネイターに対してラクス・クラインの名前を提示して蹶起するよう呼びかけたのだ。
これに対しギャラルホルンは、何と保守派達は合力すると発表したのだ。ラスタル公も私も驚愕した。

しかし、保守派の真の目的は別にあったのだ。
それは、
"現れるであろう敵対勢力共々ファウンデーションとプラントクーデター派を背後から討ち滅ぼし、彼等やコンパス創設に関わった国に全ての罪を擦りつけ、ギャラルホルンの権威復活を図れ"
と言う命令がアリアンロッドに与えられたのだ。
全員が頭を抱えた。無茶苦茶だと。
確かにラスタル公は少し悪どいやり方をとってでも、ギャラルホルンを護ろうとしたが、今回は事情が異なってくる。
一度味方になった勢力共々討て、というのはラスタル公のやり方では無い。
しかし爺共は、此処しかもうチャンスは無いと捲し立てる。
ラスタル公も此処が、自身が他以上の権力を確保し、改革に導くチャンスは無いと分かっていた。
作戦が決まり、ギャラルホルンの協力姿勢をファウンデーションに伝えると直ぐに艦隊は合流した。
そんな時、突如国際救難チャンネルにて何と全滅した筈のコンパスや鉄華団 生存していたキラ・ヤマトからファウンデーションの実態暴露によって大義名分が消滅。
宇宙に上がって来た"コンパス、鉄華団、地球連合、プラント正規軍連合"と"ファウンデーション、クーデター派、ギャラルホルン連合"による戦端が開かれた。

裏で条約禁止違反兵器"ダインスレイブ"による部隊配置が進む中、ラスタル公から私に与えらたのは、アコードと判明したラクス・クライン総裁とキラ・ヤマトの抹殺だった。

今回の発端は領域侵犯を犯した彼が始まり。
彼らをファウンデーションより速く討ち、大義名分を得よ、というのが理由の様だ。
情報規制を行ってファウンデーションを討ち、発端であるコンパスを、鉄華団を滅ぼせば我々は何とか持ち直せる。

私は迷いを抱えたままキマリスヴィダールで出撃。行動を開始した。
途中でクライン総裁がファウンデーションを認めていない旨をオープンチャンネルで全ての戦場に伝える放送を流していたが恐らくギャラルホルンの情報規制により、世界には伝わっていないだろう。
各宙域で、乱戦が行われている中、私は月でフリーダムと白騎士と黒騎士が戦闘しているのを見つけると、素早く乱入しフリーダムを狙う。
しかし、白騎士や黒騎士の妨害を受け、何度もチャンスを失う。
それが暫く続き遂にフリーダムが、力尽きる。
少し遠くから赤い機体が助けに来ているが恐らく間に合わない。私も白騎士の妨害により近づけない中、黒騎士がトドメを刺そうとし胸から短針が放たれた、

瞬間、何かが彼方からフリーダムの正面に轟音を立てて突き刺さった。黒騎士の短針は全てそれに防がれたらしく、フリーダムは無傷だった。
それは見た目は唯々巨大な鉄塊だった。
しかし、その見た目には何処か見覚えがあった。
私が呆けていると、何かに跳ね飛ばされ、跳ね飛ばした何かが黒騎士の前に再び轟音を立てて降り立った。
其れが鉄塊を剛腕で握りしめ黒騎士へ振るう。
黒騎士は危機を感知し避ける、と同時に砂利埃が払われる。

そこに、現れたのはあの機体だった。
2年前の火星からの因縁深いあの少年が乗っているであろうあの、ガンダム ・フレームが、鉄華団の白い悪魔が、
あの、ガンダム ・バルバトスが嘗てから姿を大きく変えて、
まるで天使を守る防人の様に姿を現したのだ。

バルバトスと黒騎士が戦い始めた瞬間、フリーダムが突然舞い上がった。私はそこを狙おうとしたが赤い機体に阻止され、何と中からジャスティスが姿を現し、隙をつかれ蹴り飛ばされる。
フリーダムに砲撃が叩き込まれたが、爆炎の中から新たな姿のフリーダムが現れた。

そこからは圧巻だった。
フリーダムが一瞬で敵勢力をたったの一撃で戦闘不能にし、要塞の残骸諸共、戦艦型誘導兵器を破壊して見せると、白騎士と戦い始めた。
バルバトスも最初は押されていたが、少しずつ相手に対応して行くと今度はバルバトスが黒騎士を相手に余裕すら見せ始めていた。
私はジャスティスと拮抗しアインと共に互角に戦っていた。
しかし、アインが勝ってにバルバトスの方へ行こうとするのを、何とか抑えていた。

そんな時、遂にラスタルから準備が整ったと通信が入った。
此処からは、我々の反撃が始まると確信した。
我々の偽りで塗り固めた治安が始まる。
俺は心の中で妹アルミリアに、友マクギリスに、謝罪した。
彼等の未来を壊してしまう事を。
彼等の幸せを踏み荒らしてしまう事を。

しかし、なぜか戦場にダインスレイブが放たれなかった。
俺は不審に思い部隊を見た。
そこには
いつのまにか現れたモビルアーマー共に蹂躙されるアリアンロッド艦隊の姿があった。
俺は混乱した後、ファウンデーションの目的に気がついた。
彼等がモビルアーマーに対し率先して戦ったのは治安の為では無く、モビルアーマーを戦力にする為だったのだ。
ファウンデーションは我々の作戦等お見通しだったのだ。
しかし、今更気づいたところで手遅れだった。次々にモビルアーマーに狩られていくアリアンロッド艦隊達。
ラスタルの旗艦にモビルアーマーが取り付きブリッジを焼こうとした。

次の瞬間、何かが流星の様にモビルアーマーの首を刈り取ったのだ。爆発したモビルアーマーの爆炎から姿を現したのは、

アグニカ・カイエルのガンダムが、
マクギリスが乗り込んだガンダム・バエルが、
地球外縁軌道統制統合艦隊とギャラルホルン改革派を引き連れて、姿を現したのだ。

マクギリスが、アルミリアがオープンチャンネルで、
全てのギャラルホルン達へ、
アリアンロッド艦隊へ、
保守派に大義がない事、
保守派は偽りの勝利により世界を騙し支配しようとした事、
ファウンデーションが再び厄祭を呼び覚ました事、
誰が正義かは自分達で見届けてほしいと戦場に世界に呼びかけたのだ。
私はテレビ中継を繋ぐと、世界にこの戦いが、放送がそのまま中継されていたのだ。
どうやら相手に電子戦に強い者がいた様だ。
最初からギャラルホルンの欺瞞はお見通しだった様だ。
これで、我々も大義を喪ったも同然だった。
マクギリスがギャラルホルン達をまとめ上げると、残りのモビルアーマーに向かっていった。
彼方は大丈夫だろう。
周りを見ると既に黒騎士はバルバトスに敗北し、肉塊とスクラップになっており、バルバトスの姿は無い。
フリーダムと白騎士の戦いも佳境に入っていた。
私も、俺も戦いにけじめをつける為、ジャスティスと再び交じり合った。
わかっている。
此れは俺の我儘。
過ちに気づいていながら何もしなかった自分の、兵士としての、ギャラルホルンとしての自分へのけじめ。
自分とアインの全てを持って、この戦いにだけは勝ちたい。
唯それだけの我儘。
俺たちの動きがジャスティス捉えた、
と思われたが逆に読まれて背後から撃たれた。
何と、リモート操作で我々の動きの裏を掻いたのだ。
相手も俺たちと同じように信頼していなければ出来ない妙技だった。
恐らく次が最後の一撃になる。
俺たちは今度こそジャスティスの動きを捉え、右腕を切り飛ばした。勝利を確信した。
と、思われたが、何と、ジャスティスの頭部から突如発生したビームソードが愛機の右肩に食い込んだ。
ナノラミネートをあっという間に剥がし、フレームにまで食い込んできた。
熱がコックピットに迫った瞬間、
何かが、潰れる音が聞こえた。すぐにわかった。
機体が、アインが、限界を迎えたのだ。
キマリスが力を失い膝を付いた。
見届けたジャスティスが遠ざかって行く。
爆散はしなかった。
俺の何かが解れて行く感覚を感じた。
俺は最後まで戦ってくれた友に感謝を伝えると、意識を手放した。

ファウンデーションが全滅し、
プラントの過激派クーデターが失敗し、
そして、ギャラルホルンの偽りの正義と大義が暴かれてからは、世界は再び大きく揺れた。

戦後処理や状況把握は当然だが、ギャラルホルンへの対応や不和が特に、大きく世界を揺らした。
ギャラルホルンは世界全体から大バッシングを受けた。
ラスタルは自ら部下達と今回の責任を取る為、自首逮捕された。
俺も救助され治療後、逮捕された。
他のセブンスターズや幹部が何を語っても、誰も最早、信じはしなかった。
世界が求めたのは
ギャラルホルンの解体。
存在意義を無くした組織の消滅。ただそれだけだった。
しかし、当然と言うべきか。
保守派の者達は猛反発。何と、ヤケクソになったのか、世界に向けて宣戦布告しようとしたのだ。

「武力をもって武力を制す世界平和維持のための暴力装置」
が「平和維持では無く既得権益を死守する為の暴力装置」に成り果ててしまったのだ。

しかし、それに対して阻止しようと動いた者達もギャラルホルンや以外な所から現れ始めたのだ。皆、マクギリスやアルミリアの影響や活躍を見て、それを追いかけて行った元ギャラルホルン達。
現コンパスの隊員達だった。
彼らは古巣の蛮行を阻止するべく、自主的に動いたのだ。
闘いは泥沼化すると思われたが、マクギリスやアルミリアの参戦。そしてコンパスにより沈静化された。
保守派達もアルミリアの指揮によりほぼ全員が逮捕された。
そして、アルミリアが発したギャラルホルンの段階的解体の指示により、他の組織や国も其れに同意。
その日、300年の歴史を誇った、治安維持組織
厄祭戦から世界を守り続けた組織
この数年で多くの問題を起こした組織
先祖の代から続いた組織
ギャラルホルンは
これからの歴史から消滅したのだ。
後の世に

「角笛動乱」

      と呼ばれる大規模内紛は終結した。
その後、俺はラスタル公がほぼ全ての罪を着てくれた事と、車椅子生活になったせいか、中立姿勢だった家族と共に辺境に飛ばされたが、意外に不自由無く安全な生活が送れた。
アルミリアが俺たちを庇ってくれたらしい。
ジュリエッタやパイロット達、ヤマジン・トーカらエンジニア達は、どうやら再活動が認められたコンパスに再編入される事になった様だ。向こうの話では、以外にも楽しく充実した毎日を送っている様だ。
そして、ラスタル公だが何と、マクギリスやアルミリアの弁護により死刑が回避され、終身刑へ減刑され現在は世界で1番安全な場所で財務整理・記録作成提出・隠匿保有兵器の記録を作成しているようだ。
形こそ違えど、同じ憂いを抱えていたからこそ、マクギリスとアルミリアはラスタル公を庇って弁護した様だ。
俺は最後まで共に戦ってくれたアインを丁重に弔い、一線から退いた。

MIAとなったクライン総裁に変わり、
新たにアルミリアが何と二代目コンパス総裁に任命され、
同じくMIAとなったキラ・ヤマト准将の代わりに、
マクギリスが新たな隊長に就任したらしい。
俺が映像越し見たアルミリアやマクギリスの顔は自信に満ち溢れ、これからを間違い無く担っていける顔をしていた。
マクギリスは必ずあの日、口にした約束を守ってくれると、アルミリアを命尽きるまで愛してくれると確信し、安心できた。

俺は、きっと二人なら大丈夫だと信じた。
二人なら、コンパスなら、
きっと世界は大丈夫だと、
心から信頼できた。


   イオク・クジャンを首領とする国際宇宙テロ組織

      「神聖ギャラルホルン」が現れ、

        世界を震撼させるまでは。

それを聞いた時、俺は耳を疑った。
彼が生きていた事もだが、彼が放った声明にも驚愕した。

端的に言えば彼は、全てのコーディネーターだけで無く、
ハーフコーディネーター達やそれらと関係を持つナチュラルやヒューマンデブリを含む全ての人類や勢力を殲滅すると言って来たのだ。
ブルーコスモスを遥かに超える超過激思想に、俺も両親も真っ青になった。
更に彼は追加で

『特に甚だ許しがたいのは、遺伝子の化物どもに加えて宇宙ネズミとも手を結ばんとするオーブ首長国である!
化物が振るう、野蛮なる力で以て統治するその政に徳なし!
だがカガリ・ユラ・アスハ、私は貴様に慈悲を与えよう!』

『ボードウィン家の令嬢とラスタル・エリオン公を解放するとともに、狂戦士キラ・ヤマトと裏切りのファリドの首を差し出し、
我が前に頭を垂れるのならば、貴様の賛同者に手はかけん』

『しかし私の言葉を聞いてなお歯向かうのならば!
私は世界中に蔓延るオーブの賛同者とハーフコーディネイターに、命で以て償わせる!!』
『このベルリンのように!!』
と要求して来たのだ。

私は最初、何を言っているのか分からなかった。
余りの横暴に。
映像に映るMSや
モビルアーマーに、プルーマに蹂躙される街を見て、
理解が追いつかなかった。
何故、彼がモビルアーマーを従えているのか?
何故、こんな事ができるのか?
疑問が浮かんでは消えていく。
我々が狼狽えてる間にも、あっという間に戦争が再び始まった。

コンパスも国軍と共に神聖ギャラルホルン相手に一進一退の攻防を世界各地で行なっていた。
オーブ本土で、スカンビナジア王国付近で、アメノハシラで、プラント付近で、ワシントン国境付近で、宇宙で、
時には中立の民間施設すら標的になり、
民間マスドライバー ギガフロートが制圧された。
戦争が苛烈さを増す中、あるニュースが飛び込んだ。

    コンパス総裁アルミリア・ボードウィン

    コンパス地上本部ヴィーンゴーングにて

       神聖ギャラルホルンに誘拐

          現在、捜索中
俺は膝から崩れ落ちた。
あのコンパスが、マクギリスが出し抜かれた事に。
どうやらテイワズからの、ネズミだった様だ。
鉄華団では無く、恐らくクジャン公と繋がっていたJPTトラストの者の犯行の様だった。
俺は、絶望した。
妹の、友の、世界の危機に何も出来ない事に。

そんな時、世界中に神聖ギャラルホルンによるジャック放送が流された。
捕らえたアルミリアを通して自らを正当化させるために。
俺は固唾を飲んだ。

しかし、アルミリアの口から放たれたのは、
神聖ギャラルホルンの正当性等では無く、
神聖ギャラルホルンの悪辣さと、
世界へ、宇宙へ、平和と融和を叫んだのだ。
自分の状況を逆利用して、ナチュラル達に、コーディネーター達に争いの無意味さをこれまでの戦争の無意味さを投げ掛けたのだ。

知らぬ間に俺の妹は、
オーブの獅子や、プラントの歌姫、
そして火星の革命の乙女にも勝る女傑に成長したようだ。
妹は、アルミリアは、一つ大人になった様だった。


放送が終わった後も俺は考えていた。
俺は必死に考えて、思い出した。
何故俺は動けないのか?
阿頼耶識がないからだ。
動くにはどうすれば良いか?
阿頼耶識手術を再び受ければいい。

俺は直ぐにある人物に連絡を入れた。
其れは、
嘗て俺の愛機を担当したエンジニア

ヤマジン・トーカに。



    二度と乗る事は無いと思っていた愛機に、
         再び背中を預け、
        今度は"一人"で愛機と、
         一つになった。

        恐怖も、嫌悪も無い、
      むしろ心地よい気持ちだった。

       愛機のカメラアイが輝き、
        ゆっくりと立ち上がり、
         バーニアが灯り、
          空を舞った。


ガエリオ・ボードウィンという男は、今日限りで死んだ。
今後、世界に現れる事は二度と無い。

両親が泣き崩れる。

命尽きるまで、世界の闇に潜み、邪な者達を討つ影になる。
此処には、おそらく二度と戻る事は無い。

両親が、行かないで、と泣き喚く

   指針を、平和を狂わせる者達を滅ぼす刃に、
           騎士になる。
        俺は一度外した仮面を、
         二度と外さぬと誓い、
          再び取り付けた。

        そうだ、今日から俺は

      何故、貴公が、貴方が、我々に、
    神聖ギャラルホルンに刃を向けるのです!
       ガエリオ・ボードウィン公‼︎

         違う、私の名は

          ヴィダール

       「純血の、ヴィダール卿だ」
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