バック・ドロップ・ギア 2話


バックドロップ・ギア 2話


■比率 ♂3:4♀

※比率は目安です。全員の負担が少なくなる比率を記載しております。



□役表□

〇斉藤玲児♂(さいとうれいじ)20代後半
 元暴力団担当の刑事。過去に闇を抱えているタイプの主人公。
 高身長のイケメンをイメージして演技してもらえると。


〇白塚 澪♀(しらつかみお)20代前半
 ふわふわしたOL。素直で穏やか。
 清楚系王道ヒロイン。
 綺麗で可愛い私立大学のテニサーにいる感じをイメージして演技してもらえると。


〇佐山 茜♀(さやまあかね)
 元レディース暴走族総長。
 口が悪いがちょろい。可愛い。玲児の同級生。
 田舎のヤンキーをイメージして演技してもらえると。

〇安藤♂20歳から23歳くらい ※兼可
 ネオン街のキャッチ。態度と口調が軽い。
 玲児とは昔から仲が良い

〇大場♂or♀40代後半から50歳くらい  ※兼可
 玲児の親変わり。とにかく優しい。
 かつてはバーテン、今は喫茶店のマスター

〇早川誠(はやかわまこと)♀19歳
 男の娘。オドオドしてて気弱。
 ファッションのことになるとテンションがあがる
 かわいいーく演じてもらえれば万事良し

〇円谷マドカ(つぶらやまどか)♀ 40代後半
 売れっ子ファッションデザイナー
 それっぽいことをそれっぽく言うが中身はない
 
・秘書♀or♂
 できる女
・男1
 ストーカー

・高校生
 中学時代の斉藤と佐山に絡むmob

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OP

◆メイド喫茶「ホワイトエプロン」前 夜
◇マコが店から出てくるところを隠れてみている男1

男1 マコちゃんは今日もかわいいなー。小さい身体、艶々の黒髪。大きなお目目。
   はぁはぁはぁ・・・好きぃ。好きだよマコちゃん。マコちゃん・・・。


2話




◆喫茶大場 前 夜
◇掃除をしている斉藤 
◇安藤登場

安藤 レイジさーん!おはようございます!
斉藤 もう十時だぞ。
安藤 俺らからしたらおはようの時間なんですよ!
斉藤 はいはい
安藤 今日こそ遊んでってくださいよー!!
斉藤 俺はニートだ。夜遊びしてる場合じゃないんだよ。つーかなんだ、店の名前。また変わったのか?「きょにゅうりゅう」?   
安藤 巨乳龍(デカチチドラゴン)っすね!
斉藤 ひでぇ名前だな。
安藤 オーナーが中国人っすからねー。
斉藤 だからってあんまりだろ・・・。
安藤 良いドラゴンガールが入ったんすよー!Gカップっすよ!G!!
斉藤 女の子のこと、ドラゴンガールって言うんだ・・・。
安藤 オーナーが中国人ですからねー
斉藤 それは関係なくないか・・・?
安藤 あの子顔もいいし!レイジさんもガチ恋しちゃいますよ!
斉藤 ガチ恋ってなんだ・・・
安藤 相手は商売なのに、ガチで恋しちゃうってことっすよ!

◇キーホルダーをくるくる回しながら話す安藤

斉藤 ひでぇ単語だな。てか、なんだそれ?
安藤 あぁ、これっすか。これクマのキーホルダーなんすけど十五分くらい録音できるんすよ。
   キャストの子に持たせておくと客の会話とかあとから聞けておもしれーんす。
斉藤 最低の趣味してるな・・・

◇ふたりでやんややんや言う

◇白塚登場

白塚 おいレイジ。ちょっとツラ貸せよー(棒読み)
斉藤 白塚さん?
安藤 どうしたんすか、その話しかた。
白塚 あれ?違いましたか?佐山さんに言われた通りやったはずなんですけど。
斉藤 わざわざそのままやらなくても・・・
白塚 レイジぃー!ちょっとツラ貸せよっ!(どんどん変になっていく)
斉藤 ・・・
安藤 ・・・なんすか、この可愛い生き物。
斉藤 (咳払い)白塚さん・・・。佐山が呼んでるんですよね。行きますので。もうその話しかたやめてもらって大丈夫ですよ?
白塚 え?あっ!はい!!お願いします!



◆メイド喫茶「ホワイトエプロン」 昼
◇斉藤・白塚登場

メイド達 いらっしゃいませご主人様っ!
斉藤 はいはい、ご苦労さん。
佐山 ってレイジじゃねーかよ!ストップ!メイド終了!やめやめ!
斉藤 呼ばれたから来たんだが。
佐山 だから裏口から入って来いっていつも言ってんだろ!
斉藤 そんなことより白塚さんに変な言葉教えんじゃねーよ。めちゃくちゃ困ってたぞ?
佐山 あ?変な言葉?
斉藤 白塚さんはお前らとは違って綺麗な言葉と綺麗な服装に包まれて生きているんだよ。
佐山 そりゃあ清楚系だからな!
斉藤 罵倒したのになんで得意げなんだ・・・
佐山 おい!(タバコを咥える)
メイド はい!姉貴!
斉藤 いつの時代のヤンキーだよ・・・



佐山 ちょっと頼みがあってな。
斉藤 だから呼ばれたんだろう?
佐山 うちで働いてる奴で客の男に付きまとわれてるのがいてな。
斉藤 ストーカーか。
佐山 店には直接来なくなったんだけど。店の前で待ち伏せされたり、家の前をうろうろされたりな。
斉藤 なるほど、勘違いして店のキャストにガチ恋か。
佐山 なんだガチ恋って?

◇マコ登場

マコ お疲れ様です
佐山 あぁ。上がりか!ちょっと待てマコ!
マコ はい?
佐山 早川マコ。こいつの送り迎えをしてほしい。
マコ え?
斉藤 おいおい。俺はいつからお前らの用心棒になった?
佐山 なにもタダでやれって言ってんじゃねーよ。
斉藤 あ?
佐山 これ。
◇封筒を出す佐山
佐山 十万入ってる。お前就活してんだろ?
斉藤 あのな、お前から金もらうなんて・・・
佐山 いつまでもそんな古いスーツ着てたんじゃ、決まる仕事も決まらねーよ。足しにしてくれ。
斉藤 ・・・
佐山 それに、信用できる男はお前くらいだ。警察も実害が出ないと動けないだとかで、警告しかしてくれねーんだ。
   結局、いつまでたってもウチらは自分の身を自分で守らないといけねーんだよ。
   族やってた時もそうだったろ?頼む。
斉藤 わかった。ただひとつだけ。
佐山 ?
斉藤 金はあいつが安心して生活できるようになってから受け取る。後払いだ。
佐山 ・・・。なるほど。わかった。よろしく頼む。
マコ ・・・



斉藤 家はどの辺なんですか?
マコ ここから十五分くらいです。
斉藤 結構距離ありますね。毎日付けられるんですか?
マコ 毎日ではないのですが・・・
斉藤 ・・・
マコ ・・・
斉藤 ・・・
マコ あの。
斉藤 はい?
マコ 送り迎え、別に要りませんよ・・・?
斉藤 え?
マコ お金が欲しいなら私は店長に言いませんし。このまま帰ってもらって大丈夫です。
斉藤 ・・・。ははは。
マコ 私、なにか面白いこといいました?
斉藤 俺と佐山は。施設にいた時からの仲なんですよ。
マコ 施設?
斉藤 児童養護施設。親がいない子供が入る施設です。
マコ ・・・
斉藤 あいつは両親がいたみたいですけど、母親の顔は見たことないらしくて。
   父親の顔は二度と見たくないって言ってました。
   俺は元々母親がいなくて。父親は俺が中学に入る前に死んでしまって。
   それで佐山と同じ施設に入ることになったんです。
       
◇回想(斉藤、佐山は中学生)

佐山 お前新入りか!
斉藤 え?う、うん。
佐山 だったら私のことは姉貴って呼べ!そしたらいつでも守ってやるからな!
斉藤 いつの時代のヤンキーだよ・・・
佐山 お前新入りのくせに生意気だな!!



佐山 へぇー!お前空手やってたんだ!
斉藤 お父さんが教えてくれた。今は道場に行けないけどね。
佐山 なんでだよ!行けばいいじゃん!
斉藤 連れてってくれる人がいなくなったからね。
佐山 そっか・・・そうだよな。
   でもお前が空手できなくなって弱くなっても、私が守ってやるよ!だから安心しろ!

◇回想終了

斉藤 中学生の時に学校の帰り道で高校生に絡まれたことがあって。

◇回想(斉藤、佐山は中学生)

斉藤 はぁはぁ(ぼこぼこにされた)
佐山 おい!レイジ大丈夫か!
高校生 なんだよ、こいつ。全然金もってねーじゃん。むかつくわー。
佐山 おい、糞ガキ!
高校生 あ?中坊が何言ってんだ?
佐山 てめー私のダチになにしてくれてんだ!

◇回想終了


斉藤 結局二人ともボコボコにされて。


◇回想(斉藤、佐山は中学生)

斉藤 お前までやられることなかったのに。
佐山 大丈夫。いっつもオヤジに殴られてたから。
斉藤 そっか・・・。
   今度は絶対、俺が守るから(小さい声で)
佐山 ?

◇回想終了

斉藤 ボロボロの俺たちを見た施設の職員は。別に心配するわけでもなしに。
   「あんまり暴れないでね?」って言っただけでどっかいってしまって。
   それからは二人とも。自分たちの身は自分で守るしかないって思ったんです。
   だから俺はあいつが守りたいものは守ってあげたい。
マコ ・・・
斉藤 それに、あいつは信じてくれるから嘘もつきたくないんです。だからマコさんもしっかり送ります。
マコ 嘘・・・
斉藤 それでも嫌なら佐山に言って・・・
マコ いえ、しばらくの間、送り迎え。よろしくお願いします。
斉藤 はい。こちらこそ、よろしくお願いします。



マコ このアパートです。ここで大丈夫ですので。
斉藤 わかりました。では。
マコ あの!
斉藤 はい?
マコ えーっと、あの
斉藤 ・・・?
マコ いいえ。明日もよろしくお願いします。
斉藤 ? よろしくお願いします。



男1 は?マコちゃん!?男!?マコちゃん!?そんなハズないよね?
   騙されてるんだよね!?僕が守ってあげるからね!!

◆喫茶大場

斉藤 今、帰りました。
大場 おかえりー。いっぱい封筒、届いてたよー。
斉藤 ほんとですか?
大場 うんうん!どうかなー?

◇封筒を開けて中身を見るたびに表情が暗くなる斉藤

大場 ・・・
斉藤 ・・・
大場 ま、まぁ!次だよ次!まだあてはあるんでしょ!?
斉藤 実は、白塚さんからもらった求人はこれで全部なんです。
大場 ・・・。
斉藤 ・・・。
大場 よしっ!ワイン飲もう!
斉藤 え?
大場 実はねー



大場 このワインねー。レイジくんのお父さんがレイジ君が生まれた時にくれたものなんだよー
斉藤 そんなものが。
大場 作られた年もレイジ君の生まれた歳でしょ?ね?(ワインを見せながら)
斉藤 ほんとだ。
大場 さぁ、のものも。



大場 あのねー?レイジ君!(ワインを飲みながら)
斉藤 はい。
大場 レイジ君のお父さんがよく言ってた教訓があってね。それを代わりに僕が教えてあげよう!
斉藤 言ってたこと・・・
大場 「ある三つのことが絡むとき、男はより一層気を引き締めなくちゃいけない!」
斉藤 三つ・・・
大場 それはね、「金と女と」・・・
斉藤 ?
大場 金と女と・・・。なんだっけ?
斉藤 え?めちゃくちゃ気になるじゃないですか。
大場 なんだったかなー!ど忘れしちゃった。
斉藤 自分から話しはじめたのに?
大場 ははは。ごめんごめん!思い出したら教えるね。
斉藤 とりあえず、お金と女の人ですね。
大場 バラバラなら大丈夫なんだけど、その三つが絡むときは気をつけなくちゃいけないんだって!
斉藤 それって三つ分からないと意味がないのでは・・・
大場 たしかに。
斉藤 (少し笑う)
大場 まぁ、レイジくんも少し元気になったみたいだし、よしとしよう!
斉藤 そうですね、ありがとうございます。
大場 さて、明日からもがんばれるように今日はもうねちゃおう!
斉藤 はい、おやすみなさい。



◆メイド喫茶「ホワイトエプロン」 昼

マコ おはようございます。
斉藤 おはよう。
佐山 おう!ストーカーぶっ殺したか!?
斉藤 そんな早い展開あるか。
佐山 んー。困ったなー。とりあえずあれだ!マコ!あれ見してやれ!
斉藤 あれ?
マコ え!?でも・・・。恥ずかしい・・
佐山 いいから見してやれ!
マコ ・・・はい。(恥ずかしそうに)
斉藤 これ、大丈夫なやつ?昼間に見せてもらって大丈夫なやつ。
マコ 笑わないでくださいね?(恥ずかしそうに)
斉藤 え?はい。
マコ これです。

◇ノートを取り出すマコ

斉藤 ノート?
マコ 見てください。
佐山 すごいだろー?
斉藤 んーっとこれは。服の絵?
マコ 服のデザインです。私、服のデザイナーになりたくて、田舎から出てきたんです。
   ちょっとずつ書き溜めてて。
佐山 ここでバイトしながら専門学校に行ってるんだよな?
   だからストーカーなんかに邪魔されてる場合じゃねーんだ。
斉藤 なるほど。で、なんでそれを俺に?
佐山 お互いのことを知ったほうが協力できるだろ?
マコ なるほど。たしかにそうですね!
斉藤 そうなのか?
佐山 マコは服の話になると元気になるんだ、覚えとけ(小声)
斉藤 なるほど(小声)
マコ どうですか・・・?私のデザイン!
斉藤 こういうの俺はよくわからないけど。すごく綺麗だと思いますよ。
マコ ほんとですか!?どのあたりがですか!?
斉藤 どのあたり!?
   えーっと。なんか、こう・・・女優さんが着ててもおかしくないと思います!
マコ ふへへ!ありがとうございます!

◇白塚登場

白塚 あ!マコちゃん!おはようございます。実は渡したいものがあって!
マコ ?

◇チラシを渡す白塚

マコ え!?これって!
白塚 ふふふ。前から言ってましたよね?「レジュリナ」好きだって!
マコ はい!澪さん覚えててくれたんですね!
斉藤 なんだ、それ
白塚 レジュリナっていう洋服のブランドがあるんですけど、来月、仙台に出店するんですよ。
マコ 私の好きなデザイナーの「円谷マドカ」っていう人が作ったブランドで、今では日本の女優さんだけじゃなくって
   海外のセレブも愛用してるんですよ!
白塚 私が今着てるこれも、レジュリナのTシャツなんですよー。古着でもすごく高かったんですけどねー。

◇チラシをまじまじと見るマコ

マコ え!?え!?えー!?
白塚 ふふふ
マコ デザイン公募!?
白塚 そうなんです!
   仙台に出店するにあたって、限定のポーチを出すからそのデザインを一緒に作ってくれる人を募集するって!
マコ 知らなかった!ツイッターも見てるのに!なんでだろ!
白塚 とにかく。マコちゃん!応募してみませんか?
マコ はい!ポーチのデザインはしたことないけど、もしかしたらあの円谷さんと一緒にお仕事できるかもしれない!
佐山 なんだかよくわかんねーけど!頑張れよ!
マコ はい!
佐山 ということだから!レイジ!ストーカーなんかに邪魔されないように頼むぞ?
斉藤 はいはい。



◇ダイジェスト
・マコを送り迎えする斉藤のカット
・部屋で必死にデザインを描くマコ
・バイト先でデザインを描くマコ
◇ダイジェスト終了



◆メイド喫茶「ホワイトエプロン」 昼
マコ できました!!
斉藤・白塚・佐山 おぉー!
マコ ど、どうでしょう・・・
白塚 すごく素敵だと思います!
マコ 私、どんな人でも着れて着た人が幸せになれるような服が作りたいんです。
   これなら(自分が書いたデザインを見て)それが叶う気がして。
白塚 きっと叶うと思いますよ(ほほえみながら)
マコ はい!さっそく明日応募しに行きます!



◆レジュリナ 外 昼

マコ ・・・
白塚 直接持ち込みじゃないと受付されないなんて、なんか変わってますね・・・
マコ デザイナーと直接触れ合って作品を見るっていう方針らしいです・・・
斉藤 直接見られるのもなかなか緊張しますね。
白塚 行きましょうか!
マコ ・・・
白塚 大丈夫です!すごくかわいいデザインですし、きっと円谷さんも気に入ってくれるとおもいますよ。
斉藤 (うなずく)



秘書 いらっしゃいませ。当店は来月のオープンを予定しておりまして・・・
マコ あの、チラシを見て・・・。ポーチのデザインを・・・。
秘書 あー・・・。かしこまりました。デザインを制作されたのはどなたですか?
マコ 私です。
秘書 では、ご本人様だけこちらの部屋へご移動ください。
白塚 え?
マコ ? わかりました。



◆レジュリナ 外 昼

白塚 本人だけしか入れないんですねー
斉藤 アーティストの世界ではそういうものなのかもしれませんね・・・
白塚 大丈夫ですかねー。マコさん。
安藤 どうですかねー!
斉藤 どうでしょうねー。
白塚 ・・・
斉藤 なんで、お前がいるんだ?
安藤 ナチュラルに会話に入れば溶け込めるかなーって!
斉藤 普通に会話に入ってこい。
安藤 こんにちは!白塚さん!
白塚 こんにちはー
安藤 今日も可愛いですね!どうですかー?うちの店で・・・
斉藤 なにしに来たんだ?
安藤 スカウトの邪魔しないでくださいよー!
斉藤 白塚さんはそんな仕事はしないんだ
白塚 ・・・?
安藤 最近レイジさんが女の子と毎日歩いてるから気になって調べてたんですけど・・・
斉藤 おいおい、何勝手に・・・
安藤 まぁまぁ!聞いてくださいよ!



◆レジュリナ 中 

秘書 デザインを見せてもらえますか?
マコ え?ここでですか?
秘書 はい。お願いいたします。
マコ は、はい・・・

◇デザインをまじまじと見る秘書

秘書 奥のお部屋へお進みください。
マコ ・・・はい。



◇部屋に入って円谷の前に立つマコ

マコ ・・・
円谷 服でも、企業のロゴでも、なんでもいいのだけれど。
マコ は、はい?
円谷 デザインって何だと思う?
マコ え?えーっと・・・
円谷 記号。
マコ え?
円谷 記号よ。デザインっていうのは人に何かを伝えるための記号なの。
マコ 記号・・・
円谷 うーん。わかりずらかったかしら。
マコ すみません、勉強不足で。
円谷 いいの。あなたのデザインはすごく複雑なのにそれでいて伝えたいことが分かりやすい。不思議よね。
   すごく不思議な記号になっているのよ。
マコ ・・・
円谷 素敵なデザインだわ。200万円でどう?
マコ え?
円谷 200万円で買うわ。
マコ それって・・・合格ってことですか?
円谷 そうね。でも条件があるの・・・

◆レイジュリナ 外

斉藤 学生アパート?
安藤 はい。マコさんが住んでるのはマコさんが通ってる専門学校で借りてるアパートなんですが。
白塚 マコさんはデザインの学校に通ってるのでおかしくないと思いますが・・・
安藤 いいえ、あそこにマコさんは住んでちゃ行けないんですよ。
斉藤 どういうことだ?
安藤 あそこは男子寮なんです。
白塚 ・・・?
斉藤 何を言ってるのかわからないんだが?
安藤 学校に電話して問い合わせたんですが早川マコなんて学生は存在しないんです。
白塚 それはメイドカフェで働くときだけの名前で、本名は違うとか?
安藤 代わりに。早川誠という男子生徒がいました。
白塚 それって・・・
斉藤 なるほど。

◇店から戻ってくるマコ

安藤 俺はここで。



マコ お待たせしてすみませんでした・・・
白塚 ど、どうでした!?マコちゃん!
マコ はい。えーっと。ダメでした(笑って)
斉藤 ・・・
白塚 そ、そっか・・・
マコ でも大丈夫です!またチャンスがあるかもしれないので。



男1 絶対に許さない・・・




◆喫茶大場 外
◇雑誌を紐でしばっている斉藤

安藤 レイジさーん!おはようございます!
斉藤 十時だぞ
安藤 俺らにとってはおはようの時間なんです。

◇雑誌の表紙に円谷が載っているのをみつける斉藤

斉藤 あ。
安藤 ん?あぁ、円谷マドカっすねー。
斉藤 ああ。
安藤 凄い人気ですよねー。いろいろと噂も流れてますけど・・・
斉藤 噂?
安藤 はい。うちのキャストの子に聞いたんすけど。
斉藤 お前の情報網はすごいな・・・
安藤 その子の友達にデザイナー志望の子がいて・・・



安藤 円谷マドカって昔からデザイナーのトップを走ってきた人なんすけど、最近はデザインが思いつかないらしくて・・・
   そんな円谷マドカが地方に新店舗を出すときって。デザイナー志望の子の中でも円谷のファンの子とかに限定してデザインの募集をかけるらしいんですよ。
   そのデザインを買って新商品として売り出すんです。自分が作ったものとして。
斉藤 白塚さんがレジュリナの服を着てたからチラシをもらったのか   
安藤 白塚さんが募集のチラシをもらったんすね。たぶんモデルかなんかと勘違いしたんでしょう。
斉藤 あぁ。
安藤 コラボなんてしたら彼女のブランド価値は下がりますけど、新デザインって発表すればかなり売れますからね。
   つまりデザインの公募は嘘のコラボを装ったゴーストライター探しなんです。
斉藤 嘘か・・・。
安藤 夢と希望を持った新人を騙して荒稼ぎしてるんすね。
斉藤 ・・・。

◇電話が鳴る

斉藤 もしもし、あぁ、佐山か・・・
   え!?わかった!今行く!

◇電話を切る

安藤 どうしたんすか?レイジさん。
斉藤 直接店にくるとは思わなかった・・・
安藤 ?
斉藤 行ってくる!あ、ちょっとこれ貸してくれ。


◇安藤のキーホルダーを取り走り出すレイジ


◆メイド喫茶 ホワイトエプロン 中
◇マコに後ろから包丁を突き付け羽交い絞めにする男1
対面には佐山、その他、従業員

男1 マコちゃん!どうして、どうして僕を裏切ったの!?
マコ やめて、く、くるしい
佐山 てめぇ・・・
男1 ぼくは、僕はこんなに思っているのに。どうして、どうして!!

◇駆け付けるレイジ

男1 お前!!マコちゃんをだましたのはお前だな!!
斉藤 落ち着け。
男1 変な男にそそのかされたんだよね?マコちゃんは僕だけのメイドさんだもんね!!
佐山 いいかげん離さねーと・・・
斉藤 お前も落ち着け。
佐山 店の大事な従業員が、あんな目にあってんのに黙って見てろって言うのかよ・・・
斉藤 警察には連絡してある。落ち着け。間に合わねーときは俺がなんとかする。
佐山 ・・・。

男1 マコちゃん。僕だけのメイドさんに戻るって約束してよ?ね?そしたら離すから・・・。
マコ (顔をそむける)
男1 嘘でもいいから!ね!!
マコ ・・・。嘘・・・。
男1 嘘でもいいよ。こんなことしちゃったんだ、きっと僕はもうじき捕まる。だから最後に!嘘でもいいから!俺に夢を見させてよ!!


斉藤 言うな
マコ ・・・


男1 お前は黙ってろ!!!!

斉藤 ぜってぇー言うな。
マコ 斉藤さん・・・?

斉藤 これ以上嘘はつくんじゃねぇ。お前がお前じゃなくなってしまう。
   

男1 ほんとに刺すぞ!
斉藤 刺すなら俺を刺せ。マコは悪くないだろ?だったら俺を刺せばいい。
   だから、少しだけ時間をくれねーか?
男1 ・・・

斉藤 嘘って便利だよな・・・。見栄、虚勢、ハッタリ。ものすごく便利だ。
   それに自分に突く嘘。自分を納得させる嘘。
   ありのままでいろとか、自分らしくとか。世の中そんな言葉があふれかえってるけど。
   そんなのできない。できるわけがない。そんなことしてたら人間は生きていけない。
   だから俺たちはたくさん自分に嘘を突く。そして他人にも。
   そうしてるうちに見えなくなっちゃうんだよ。絶対に嘘を突いちゃいけない自分の芯が。曲げちゃいけない芯が。
   マコさんにもありますよね?マコさんの、いや、早川誠の芯はなんですか?

マコ ・・・

斉藤 もしみえなくなっちゃってんなら。一度、着てる嘘を全部脱ぎましょう。

マコ ・・・はい。
男1 ・・・マコちゃん?

マコ 私は・・・いや、僕は・・・
   男です。

男1 はぁ!?

マコ 早川誠が僕の本名です。ずっと昔から女性の洋服やアクセサリーが好きで、大好きで。将来はデザイナーになりたいって思いました。
   でもある時尊敬しているデザイナーのインタビュー記事に書いてあったんです。
   「女の服は女にしか作れないって」すごくショックでした。
   だったら姿だけでも女の子に近づこうって。バイトも女の子として働けるところがいいなって。
   わざわざ知り合いのいない仙台まで出て。こっちなら女の子としてデザイナーを目指せるかもって。
   でもそれって、バイト先に来てくれるお客さんを騙してることになるし。なによりも私をすごく大事にしてくれる店長やみんなを騙してることになるから。
   それがすごく辛くて。ずっと嘘をついてて、すみませんでした!

男1 マコちゃんが・・・、男・・・。

◇床に座り込んでしまう男1。
 斉藤が取り押さえるが男に力はない。サイレンの音が近づく。


佐山 マコ・・・。
マコ すみませんでした。
佐山 お前も辛かったんだろ?それに気付いてあげられなかった私も悪かった。ごめんな。
マコ そんなこと・・・!
佐山 ・・・
斉藤 マコさん。もう一個脱ぎ捨てなきゃいけない嘘があるはずです。 
   マコさんの芯を隠してる糞みたいな嘘をぶっとばしにいきましょう。
マコ ・・・はい!



◆レジュリナ 中
◇無理やり入り込む斉藤とマコ

秘書 円谷は外出中で!
斉藤 嘘つくな。外に高そうな外車が止まってるじゃねーか。

◇円谷の部屋に乗り込む斉藤とマコ

円谷 ちょっと!あんた達なんなの?
斉藤 こいつが言いたいこと、あるらしくてな。少し聞いてやってくんねーか?
マコ 円谷さん。僕のデザインを返してください。
円谷 は?何をいまさら。契約書にサインしたし、それにお金も渡したじゃない!
マコ ・・・
斉藤 こいつは事を荒立てたいわけじゃない。そのデザインを嘘の材料にしてほしくないだけなんだ。
マコ お金は返します。このことは誰にも言いません。だから・・・
円谷 嘘でもなんでもいいから金になるものを作らないといけないの!!
マコ ・・・
斉藤 ・・・
円谷 このデザイン。すごいと思うわ。大抵持ち込みされるものは秘書が判断してはじくのだけれど。
   これは別。秘書も私もすぐにゴーサインを出した。お金が欲しいならもっと積むわ!いくらほしいの!

キーホルダー(円谷) いくらほしいの!

円谷 録音!?いつからそんなこと!!

マコ それを返してくれるだけでいいんです。そしたらこの音声は破棄しますし、絶対にこのことはいいません。
円谷 ・・・(無言で紙を返す)

◇紙を受け取ったマコも無言で退場

斉藤 あいつな。お前のことほんとに大好きなんだよ。
   だからもうこんなことしないで、あいつの為にも自分のデザインを作ってくれ。

◇斉藤も退場



◆喫茶大場 中
◇カウンターで夕飯を食べる斉藤、奥には大場

大場 あ!そういえばレイジくん!この間言ってた話なんだけどね?
斉藤 はい?
大場 ほら、レイジくんのお父さんが言ってたっていうあれ
斉藤 あぁー
大場 金と女ともういっこ。思い出したんだ!
斉藤 それって、「嘘」じゃないですか?
大場 正解。もしかしてレイジくんもお父さんから聞いてた?
斉藤 いや、そういうわけじゃないんですけど・・・。まぁいろいろとありまして。
大場 金と女と嘘が同時に絡むとき「男」は気を引き締めなくちゃならん!
斉藤 その通りだと思います・・・


2話「三種の神器」

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◆メイド喫茶 ホワイトエプロン 中
◇普通に働くマコ、男1と楽しそうに話している

斉藤 ・・・
佐山 よう!呼び出して悪かったな!
斉藤 なんでマコさん、普通に働いてんだ?
佐山 え?だって可愛いから。
斉藤 ・・・
佐山 なんか私もよくわかんねーんだけど、「男の娘」?
   流行ってんだってさー!もちろんマコは嘘ついてねーし、客もみーんな知ってるぞ?
斉藤 まぁ百歩譲ってマコさんはわかる。なんでストーカーもいんだよ。今頃檻の中だろ?普通。
佐山 マコが許すっていうからさー。
斉藤 被害者がそう言ったなら仕方ないのか・・・?
佐山 そしたらすぐ釈放されたみたいで、その足で謝りに来たよ。マコが男だったのはショックだったろうなーと思ったんだけど。
   新たな扉を開いたとかなんとか言ってたな。
斉藤 それぜったいに開いちゃダメな扉だと思うんだが。



佐山 あ、そうだ。これ。(封筒を出す)
斉藤 ん?
佐山 お礼だよ。まぁいろいろあったけど、あいつは楽しそうに働いてるし、ストーカーも扉の向こうに行っちまったみたいだし?
   受け取ってくれ。
斉藤 あぁ、金ならいらねーよ。
佐山 は?
斉藤 女の送り迎えは頼まれたけど、俺はただ、男のダチと一緒に帰ってただけだ。


   
end
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無限ツールズ

 
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