暁のヒーロー


キラ、ラクス様。胸を抉る甘えた少女の様な声で両親をそう呼ぶ子供。
息子の異常を痛感した二人は、カガリとアスランの手を借りてなんとか彼をオーブの身内の元へ送り出した。

海岸沿いの洞窟に、小さな子供が蹲っていた。
祖父母の家から抜け出した子供は、自分に向けられた大人たちの憐憫の眼差しを思い出すと、ぎゅっと目を閉じた。

「あれ、誰だお前。ここは俺の秘密基地だぞ!」

洞窟の入口から響く声に、子供は怯えた表情でハッと顔を上げる。逆光に霞む相手の姿は、金色の髪を燃えるように輝かせていた。
ふと、相手の少年は驚いたように目を丸くさせる。

「あ、お前叔父さんちのヤツだろ。写真で見たことある!」
「…あ、君は…カガリさんの…」

なんの警戒も無く歩み寄って来たのは、初めて会う同い年の従兄弟だった。
海岸で拾ったのだろう枝を持ったまま、少年は極自然に隣に腰を下ろした。覗き込む様に見つめてくる瞳は、緑に金の光が混じる不思議な色合いをしていた。

「なんかおばさん達が騒いでたけどお前探してたのかな。えーっと、名前なんだっけ?確か…」

名を問う言葉に、厳しいシッターの声が蘇る。

違います、それは貴方の名前ではありません。何をおかしな事を仰っているのですか、その口調をお止しなさい。

少年がなんとか両親に縋ろうとした努力を粉々に否定するその声が、脳裏に木霊する。

「…違う…僕…私……私、フレイだもん、ミーアだもん…」

震える声でそう呟くと、隣の少年はキョトンと目を瞬かせた。

「フレイ?ミーア?名前2つあるのか、いや3つ?」
「……おかしい、のかな…。おかしい、よね…」

自問自答する声に、しかし少年は今度は目を輝かせた。

「名前何個もあるのカッコイイじゃん!父さんも別の名前使ってる事あるし普通普通!」
「……え?…おかしく、無いの?」
「え、変なのか?じゃあさ、この秘密基地だけのコードネームにしよう!フレイとミーアだっけ、面倒だから繋げてフレイミーア…長いな、フレーアにしよう!」

俺の事はアカツキマンって呼べよな!そう言って太陽の様に少年は笑った。

「アカツキマン…」
「なんだフレーア!」

呆然とした口調で言われたばかりのコードネームを呼ぶと、彼は当たり前にそう呼び返してきた。
なんの気負いもなく、否定もせず、そう呼ぶ少年に。
青い瞳の子供は、本当に久方ぶりに自然な笑顔を浮かべたのだった。
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