ヌオーと黒髭 “海の魔王の伝説”


 黒髭エドワード・ティーチ、彼は最後にして最悪最強の大海賊として名をはせている。
また海賊の黄金時代の象徴でもあり、彼の財宝伝説は今なお有名でトレージャーハンター達の典型的な標的である。

 そんな彼の最高の財宝はなにかといえば、ヌオーであったと当時の人々は記録している。
現代の人間は、ただの伝説だと片付ける者がほとんどだろう。
しかし当時のイギリス国王ジョージ1世は黒髭の首に3万ポンド、ヌオーを生け捕りにした者には10万ポンドの褒賞を与えるとした。

上記の金額を現代日本の給料で換算すると、黒髭の首30億円、ヌオーの代金100億円となる。
現代感覚だと高額なことは高額だが、そこまで驚くほどかと思うだろうが、当時の世界経済の規模は現代よりも遥かに小さいことを留意してもらいたい。
“海賊王”の異名を持つような大海賊でも懸賞金が1000ポンドであることを考えれば、当時の“黒髭”とヌオーがどれほど評価されていたかがうかがえる。

 さて、これほどまでに黒髭が評価される理由は、彼がヌオーを利用して、5000万ポンドを超える財貨を得たという伝説。
ヌオーの所有権をイギリス筆頭にヨーロッパ各国の海軍、無数の海賊と巡って争いながら10年にわたり保持し続けたからだろう。

 ヌオーの所有権がそこまで重要になった理由は、当時の船の現実が関係している。
当時の船の環境は、最悪の衛生環境に最悪の食事事情、それらがもたらす壊血病を筆頭とした死病の数々、それに船の脆弱さゆえの沈没や座礁の恐怖に常にさらされていた。
また帆船であるがゆえに風の影響も甚大で、安定的な航路の移動など望むべくもなかった。
上記の脅威は海賊船以上に船乗りにとっては身近であった。
それゆえに、交易に成功すれば途方もない莫大な富を産み出したともいえる。

 上記の問題点を全て、ヌオーの祝福は解決したのである。
ヌオーのもたらす清潔な真水は、衛生環境を改善し、食事事情もヌオーが用意する魚介類や穀物粉や野菜の数々が解決した。
また、わずかな傷でさえ死に直結するのが海賊船の日常だったが、ヌオーの麻酔を用いた手術で治療された船員は数多い。
他には順風の加護を受けて、巡航速度は2倍以上になり、船もまた明らかに耐久力が増していた。
 これにより黒髭は不安定な略奪よりは交易のほうが利益が出ると考え、中国やインド、メキシコにアフリカを歴訪し、莫大な量の緑茶に香辛料、金銀財宝を得たとされている。
彼の海賊行為の多くは、黒髭の財貨を横取りしようとした者への報復だった。

 黒髭とヌオーの出会いは1718年の初めといわれている。
宝の地図を頼りに、たどりついた無人島で暮らすヌオーを捕獲したのだという。
黒髭はヌオーの利用価値にすぐに気が付き、ヌオーを“アン女王の復讐号”の倉庫に監禁し、搾取したといわれている。

 当初は黒髭のヌオーに対する態度を見て見ぬふりをしていた船員達も、その多大な恩恵を受けるにつれて、ヌオーへの待遇改善を求めるようになった。
それを受けて、監視付きとはいえ自由時間を与えたりしたが、ヌオーは船員達をねぎらったり、いたわったりすることに使ったという。

船員達の日誌によれば1718年の終わりごろには、このヌオーを“姐さん”“女王陛下”もしくは“聖母”と大多数の船員が崇めるようになっていたという。
交易や略奪の分け前よりも、彼女への“謁見”を報酬に求める船員達には、黒髭は常にあきれ顔だったとか。

 当時の“アン女王の復讐号”の船員は、基本給で年1000ポンド(一般的な船夫の給料の30倍以上)もの報酬を得ていた。
とはいえ後ろ盾のない彼等が、それだけの財貨を地上で使おうにも役人に横取りされて殺されるだけである。
そもそも、地上にも他の船にも、ヌオーのいる“アン女王の復讐号”以上に快適な生活環境など無いのだからなおさらだった。

 つまり当時の黒髭率いる船団には、海賊や海軍の常識は適用出来ない、独自の世界観が構築されていたのである。
黒髭や船員達が、使いきれない財宝を、遊びで無人島に隠したのも、彼等の常識ならおかしくはなかったのである。

 当然ながら、そんな金余りの黒髭達への嫉妬は、同業者の海賊や、イギリスを筆頭とした欧州各国の海軍にまで広がった。
黒髭達の船団は、それらの襲撃を返り討ちにしたり躱したりしながら、悪名を広めていった。
1723年にもなると、黒髭は“海賊王”や“海の魔王”という異名を得て、武力と莫大な財貨を用いた脅迫と買収で、“黒髭”への懸賞金を有名無実にしたという。

 黒髭の黄金時代は続き、大海賊が次々に討ち取られていくのを尻目に、彼の影響力はどこまでも拡大していった。
黒髭のもたらす最高級の嗜好品(ヌオーが既存の香辛料や緑茶に手を加えた物)の数々に魅了された、イギリスの貴族達のなかには、黒髭を正式に提督に任命し、そのおこぼれに預かろうという動きがあった。
この頃には、黒髭は世界一周を自分もやろうと思い、過酷な航海で老朽化した“アン女王の復讐号”の乗り換えを計画していた。
新型の大型帆船をすでに予約購入していた黒髭は、その完成を心待ちにしていたという。

彼の黄金時代は、宿敵ロバート・メイナードが千載一遇の機会を得たことで終わりをつげた。
1728年11月27日、内通者からの情報で、メイナードは黒髭が“アン女王の復讐号”が単独で、沖合に停泊するという情報を得ていた。
またヌオーの力を一時的に封じる礼装を、時計塔との取引により入手していた彼は、11月29日の早朝にパール号とライム号で黒髭の船に強襲を仕掛け、ついにメイナードの手で黒髭は討ち取られた。
しかしメイナード側の被害も大きく、彼は片腕を失い、ライム号は廃船になり、船員も過半数は死亡したのである。

 この英雄的なメイナードの活躍への評価は非常に低く、黒髭の首の報奨金も満額もらえず、昇進も大佐どまりであった。
その理由は、ヌオーに逃げられ、黒髭のもたらす嗜好品が永遠に手に入らなくなったことへの政府高官の報復だったとされる。
彼が英雄として正当に評価されるのは死後100年の時間が必要だった。

 なお、メイナードが黒髭に強襲出来たのは、“アン女王の復讐号”の内通者の協力も大きかった。
内通者がメイナードに協力した理由はヌオーへの虐待だったという。
多くの時間を船の倉庫に閉じ込め、無数の品々を作製や加工させ、自由時間も船員の面倒を見させるのに使わせた黒髭を、その船員は憎悪していた。
ただし、彼の証言も全面的な信用は出来ない。
というのも、彼自身が黒髭に膝を撃ち抜かれたことや、その治療をヌオーがしたことで、認識にそうとうな偏見が含まれている可能性が大きいからである。

 捕獲され、後に処刑された“アン女王の復讐号”の船員の多くは、黒髭が愛していたのはヌオーだけで、彼女のとりなしで黒髭に殺されずに済んだ船員は多いと証言している。

 最終的に黒髭とその一党の死骸は、その死体はウィリアムズバーグの議事堂の道沿いに晒されたが、何者かに回収されて行方不明となった。

 また“アン女王の復讐号”の沈没の際に、船員達の手引きで逃げ出したヌオーは、もといた無人島に住んでいると噂されるが、その所在は現在でも不明である。

 黒髭の財宝は、今でも定期的に発見されるが、最高の財宝であるヌオーが見つかるのは、いつになるのだろうか。

余談

 ヌオー
 無人島で暇だったので、“アン女王の復讐号”には自発的に乗った。
彼女にとって、“アン女王の復讐号”での生活は忙しくも楽しい物だったのだとか。
船上で見る、世界の景色は新鮮で楽しかったという。
ちなみに、黒髭ことエドワード・ティーチには人間態も見せたことがあるが、彼にその姿を人目に晒さないように念押しされたので、以後は見せていない。
黒髭の反応から察するに、ドオーロラやエウロペ、マリー王妃に近い印象を与える容姿だと思われる。

 無人島への帰還後は、黒髭と仲間達の遺体を回収し丁重に弔ったという。

 ロバート・メイナード
 非常に不遇な男。
有能で愛国心も強く、黒髭を討ち取ったことからも分かるように戦士としても傑物であった。
だが、ヌオーの捕獲に失敗したせいで、「余計なことをした男」という烙印を押され、左遷までされるはめになった。
現在では海賊の黄金時代を終わらせた、偉大な英雄としてイギリスで大人気。
海賊を題材にした映画や漫画では、彼と黒髭はつねに最高格として扱われている。

 “アン女王の復讐号の船員”
 当時の海賊の多くが、金稼ぎのために海賊になったのだが、彼等の場合はヌオーをアイドル扱いするドルオタみたいだったと黒髭は語っている。
希望者が殺到したので、選別に選別を重ねた超精鋭で、その練度は当時でも最高だったとされる。
なお、階級が一番下の水夫でさえも毎年1000ポンドの報酬が出たとされる。(当時の海賊船は山分けの掟だったので、このような異常な額になったのだろう。 この額の異常さは商船の船長の年収と同じで、一般家庭の年収の20倍といえば、納得いただけるだろう)

 しかし使い道が限られていることや、金銭に価値を見出さない船員が多かったので、当時の海賊からしても馬鹿みたいな使い方。
例をあげると、寄港した町全体を巻き込んだ大宴会を行ったり、孤児や浮浪者に食料を配ったり、ボロボロの教会や孤児院の補修費を全額負担したりといった文字通り金を溝に捨てるようなことをしたという。

 彼等は、自分達が悪党らしい無様な最期を迎えることを理解していたが、“アン女王の復讐号”での日々が楽しかったので、それに耽溺して死んでいった。

 宝具“アン女王の復讐(クイーンアンズ・リベンジ)”
 船員に、かっての黒髭の部下やヌオーもついてくる。
ただしヌオーは幕間の物語「世界一の宝」をクリアしないと倉庫に籠っているので出て来ない。
幕間の物語の条件は第二部六章クリアで絆LV5である。
クリア報酬はスキル嵐の航海者が”海の魔王”に変化し、攻撃力と宝具威力のバフが10~20%に強化され持続ターンが1から2に延長され、弱体解除の追加効果も付与される。

 船員達はキモい部分はあるが海賊として優秀で、黒髭の指揮下にあれば、サーヴァントでもてこずるほどである。
また根っからの悪党なので、ヌオー以外に魅了された船員はノータイムで撃ち殺す。
宝具の基本効果である、船員の総力が宝具の性能に影響するのを考えると、非常に厄介である。
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