10年後のコンパスモブパイロットから見たザラ大佐とヤマト中佐


『全員お疲れ様、本日はこれで終了です。作業班は今回のデータを……』

スピーカーから聞こえる凛とした女性の声が響く……彼女はアストリア・ザラ大佐。オーブからの派遣でコンパス所属の現在も大佐階級現役でMSパイロットをなさっているお二人の内のお一人だ。もう一人の名はシン・アスカ大佐だが今回は割愛とさせて貰う。

訓練シュミレーターから降りて身体を伸ばし固まった筋肉を解しつつ先程までザラ大佐が居た場所をボウッ見つめる……そんな事をしているから後ろから絡んで来る同期に気が付かなかった。

「おつかれー!いやーやっぱりデストロイはキツイよね!あの砲撃の嵐を潜ってビームサーベルで近接戦って本当にやれる様になったとは言えやっぱりエースは違うって事?」

「はは、おつかれ。だけど今は出来るからいいんじゃない?アレの時にやった機体だとビームシールドだってなかったらしいさ……」

「んー10年前の骨董品でやれるかってテストでのアレ?本当に同じ機体なのってレベルでアノ人達が乗ると動きが違うのよね。あーあー先は長くて険しいよー!」

この頭を抱えている同期は自分と同じコンパスに派遣されて来たオーブからのパイロットだ。コロコロと変わる表情と分け隔てない態度で小隊でも人気も実力もかなりの物なのだが、そんな彼女でも骨董品レベルにまでなってはいるが最高難易度に調整されたシュミレーターにはずっと手こずっている。各言う自分もザフトから派遣された優秀な人材ではあると自負しているが……1VS1でのシュミレーターだけはパス出来ないままなのである。

その内容はデストロイの撃破。既に下火も下火のブルーコスモスは出さないが混沌と化したユーラシアでは稀に出てくるのだあの暴虐の嵐を形にした兵器が……故にそれを矢面で受け止めているコンパスでは連携を中心として対処するマニュアルがあるのだが、エースパイロットである先程の大佐達はこれを難なくパスしているのだから未来のエースを目指している僕らには大きな壁なのだ。

「……それはそうと君は相変わらずザラ大佐を追ってるの?」

「ふぇい!?」

「バーレバレよ。君はザラ大佐が居る所はずっと見てるんだよ?隠せてると思ってたの?」

既に無意識の内に追っているからそう言われて顔がドンドン熱くなる、言われっぱなしも癪なので彼女にちょっとした反撃を試みた。

「うぅ……そう言う君だってヤマト中佐とはどうなのさ!君だってあの人に……」

そう僕がザラ大佐に見惚れている様に彼女もリョウジ・ヤマト中佐に熱い視線を送っているのである。

先程言ったアストリア・ザラ大佐の副官でもあるリョウジ・ヤマト中佐。コーディネイターが大多数を占めるこちら側の中でも珍しいナチュラルながらも長きに渡りに最前線で戦い続けているエースパイロットの一人である。彼のキラ・ヤマト准将殿の弟であり、戦場では鬼神の如く動きながらもMSから降りれば人当たりもよく艦内の調整役として種族間のいざこざすら超えてこのコンパスで多くの人から親しまれている潤滑油の様なお方だ。そんなヤマト中佐に彼女は声が裏返った返事をしたのは同期では誰もが知っている事で中佐にお近づきになろうと小動物の様に彼の周りを動いていた彼女だが……どうも今日は様子がおかしい。

「……何かあったの?ヤマト中佐と」

「あー……それがね。わたしも色々やれるだけやってみたんだけどさ。全然進歩が無くっちゃちょっと……ね」

いつもの笑顔でなく下がり眉の暗い顔の彼女は「あっちで話そ」と背を向けてシュミレーター室から退出していった。慌てて後を追いかけて人気の無い位置にある休憩室で彼女は膝を抱えながら話し出した。

「……色々とねークルーのみんなにもそれとなく聞いてみたのよ。そしたらヤマト中佐は昔は狙ってた人も居たらしいけど今もフリー。それは君がお熱なザラ大佐の方も……これはアスカ大佐からもそう言われたから間違いないわ」

「だったら、なんでそんなに悩むの?僕はまだザラ大佐に及ばないからだけどそっちは」

「そのザラ大佐が大問題なのよ……」

はーっと大きな溜息を吐く彼女、身体から滲み出てる負の感情が見えそうな位に機嫌が悪くなっていくのを肌で感じる。

「幾ら何でもさ!副官とだからってあの二人は近すぎない!?そりゃお二人が優秀なのはもうここのクルーなら分かってるのよ!それでもなんで恋人でも何でもないのにあんなに自然と二人きりで各々のアクションに反応出来て文句の一つもない位完璧なのよ!?MSに乗ってもそう!あの二人をどうにか出来るパイロットなんてここのクルーじゃアスカ大佐位よもう!!新参者のわたし達があの空気の中にはいっていくなんて無茶なのよー!!!」

あーんっと少し泣きじゃくりながら彼女は叫ぶ。……そう僕が見ているだけなのはザラ大佐の隣にはヤマト中佐が居る、ヤマト中佐の隣にはザラ大佐が居る。これがあの二人のどちらかを狙ってる僕らにとってはどうしようもない難題なのである。

10年前のコンパス設立以前から「ある時期からだけど」っとなるが、あのお二人はずっと同じ陣営で共に戦い抜き生き抜いてきたのである。既に大きな大戦は無くなった今ではかのヤキンドゥーエ戦を生き抜いただのメサイア攻防戦での戦場に居たと言うパイロットは減ってきている。がその両方を潜り抜けてきた数少ない生き残りがザラ大佐とヤマト中佐である。

あのお二人の間にあるであろうモノは文字通り過ごしてきた時間の密度が違う。内容が違う。向ける量も違う。とたまの休暇の時にはあのお二人が街に出かけたと言う声もある。これで付き合っていないのだから本当に勘弁して欲しいと思うのは我がままなのだろうか?

「ここでも大体は二人きりだし。プライベートもたまにとは言っても二人きりになってるしあんな無自覚なのを毎日見るのはもう辛いのよ~。いっそ付き合っちゃえばこっちも完全に諦めきれるのに~……」

同感である。傍から見たらどう見てもあの二人は恋人以上の……それこそ家族レベルで仲がいい。実際にご兄弟が結婚しているらしく親族になっているらしいから本当に家族ではあるらしいのだが……それでも当人達は付き合ってないらしいのである。

「ぶっちゃけ、この話をアスカ大佐から聞いたけど信じられなかったのよ。それで奥様でもあるルナマリアさんにも伺ったら同じ様な内容を言われちゃったのよ!あの時の何処か遠くを見つめるアスカ夫妻を見て確信するしかないのよー!」

彼女の叫びを反応したかのう様にプシューと突如ドアが開いた

「……騒がしいと思ったらお前達か―――少尉に~~~少尉」

「ありゃ、どうしたんだ?二人揃ってこんな場所で?」

『ザ、ザラ大佐にヤマト中佐!?』

ドアには今話題の中心であったザラ大佐とヤマト中佐が居た。それぞれオーブ式とザフト式の敬礼を慌てて返すがザラ大佐はよく聞こえる凛した声でこちらを落ち着かせる様に微笑みながら口を紡いだ

「何、たまたま寄っただけ。そう硬くならなくていい」

「もしかしてさっきの感想戦か?感覚が残ってる内に話せる事話しておきたいしなお前達二人なら猶更だ」

うんうんと頷くヤマト中佐に一瞬だけ視線を向けこちらを見直すザラ大佐

「なら、先に言っておいてもいいな。近々合同練習を行う為に一度オーブに降りる。その時はお前達にここの代表として頑張ってもらわないとな。期待しているぞ」

「日時は来月の中頃だ。あんまり詰め込み過ぎるなよ~そんじゃな」

プシューとドアが閉じる二人の会話がドンドン小さくなっていくのを確認してからお互いに無意識に止めていた息を吐いた

「……はー、心臓に悪いわよ。嘘でしょもしかしたらわたしのアレ聞かれちゃってたりする!」

「だったらヤマト中佐がもうちょっと別の言い方すると思うから大丈夫……だと思いたいそう言う冗談は言わない人だし」

冗談を言ったらそれこそザラ大佐の方から何かある筈だろうし、と付け加えて彼女は目尻に溜まっていた涙を拭いまた大きなため息をついた

「本当にお互いを分かりすぎてる……何処に付け入る隙があるのよ」

「本当にね……」

どうにもならない事は多々ある、だけどそれが当人達が納得できるかどうかはまた別の問題である

淡い二人の恋心は無自覚で近すぎる二人によって小さくなり消えていくのであった
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