覗き見


「イオリが攻撃されている?」
 紅玉に言われて、私こと、ヤマ——いや、やめておこう。今の私はセイバーだ。兎に角、私は小首を傾げる。何故ならイオリは薄い布団で死んだように眠っているから。
「肉体ではない。精神的な話じゃ」
「精神か。イオリは精神面では隙が多いからなぁ」
 眠るイオリの顔を覗き込む。攻撃を受けてる割にはよく寝ている。表情に苦悶の気はない。むしろ、よく寝てると言わざる得ない。
「本当に攻撃されているのか?」
「それはぁ、そうじゃのぉ……」
 何やら、紅玉の声は煮え切らない。
「むむー?」
「このままでは、イオリが目覚めない可能性がぁ、あるような、ないような……」
「どっちなのだ?」
「と、兎に角、サーヴァントとマスターは精神的な繋がりがある! セイバーよ、伊織の精神に潜って、伊織を手助けやってくれ」
「まったく、イオリは。仕方あるまい。往くぞ」

 紅玉の手を借りて、イオリの夢の中へ。
 そこは月が綺麗な湊だった。ここは——。
「………」
 私は小さく息を吐く。ここの言及は今はいい。イオリを捜さねば。
 波を音を意識から除外して、耳をすます。すると、遠くから声がする。それはヤケに切羽詰まったような、追い詰められたような悲鳴だった。私はそれに気付いた瞬間、浜辺を走り出した。
 それは小さな小屋からしていた。気配を殺して、小屋に近寄る。イオリの声ではない媛の声だ。イオリの過去の一場面かと思い、私は心して小屋を覗き込んだ。
「は、ぁ、……や、やなのぉ……!」
 鼻につくような甲高い声。嫌だ嫌だと首を振りながらも、女の腕は男の背中に回っていた。
「もう、む、りぃ……! ひゃあ、また、イッ……!」
 女の身体が小刻みに震える。粘着質な水音が響く。
 そこまで見て、私は顔に手を当てた。
 女は由井正雪で、ユイを手荒に抱く男はどう見てもイオリだった。
「正雪がこれを望んだのだろう?」
「ら、らめっ! もう、おなか、いっぱぁい……っ。いっぱいなの……」
 何が攻撃だ! 紅玉め!
 一応、ユイが魔性の類だと言う事はわかる。夢魔の類なのだろう。だが、イオリに害を成す処か手玉に取られている。これではどっちが悪だかわからぬ。
 イオリの精力が吸われているが、生活には支障ない程度だ。……恐らく、イオリの奴、絶倫だな。
 イオリがユイへの評価が妙に甘かった理由を見た気がした。
 私は踵を返して、さっさと帰る事にする!
 明日はイオリに飛び切りのご馳走様を貰わねば割に合わぬ!
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