【閲覧注意】 アレクセイ・コノエ×アーサー・トライン


たまに、彼はどこかを見ている。正確には、誰か…ある女性を見ている。
私の後ろに立っている、彼の初めての上司であり船の艦長…タリア・グラディス。ミネルバの艦長としての任を与えられ、メサイアにて議長と共に死亡。新造艦、それも新兵が多いミネルバにて経験が豊富であり、戦闘姿勢においても攻めを重点としていた。彼が彼女から学んだものは多く、時としてたまにとんでもない作戦案を出すのは、彼女なりの教育だろう。
ミネルバの撃沈を受け、長らく航行経験のブランクがあったはずだが…それを物言わせず、テキパキと指示と出し、副長としての補佐に徹する。
頼もしい軍人である。反応が大げさで、イレギュラーに弱い点を覗けば、だが。

「どうしました?【艦長】」

それは、どちらのことを言っている。
私か?それとも、君の視線に先に居るグラディス大佐か?
…今は、この私なんだろう。彼自身も解っている、この場にグラディス大佐はおらず私だけ、なのだから。
「いや、何でもない」
「そうですか?…では、何かあれば仰ってください。自分に出来ることが有れば、何なりと」
そう、普段から見るような柔らかな笑みを浮かべ、健気にもこちらを気遣う。…気が付かないだろう、と思っているのか。その奥底に、小さな恐れさえ見えている。
彼女が、彼に対しどういった態度と反応、それに叱咤などをしてきたか分からない、ただ、これだけは言える…彼は…グラディス大佐を、心から尊敬し、好いていた。悔しいが、彼にとって彼女は思い出の中で唯一、忘れないように思い出し続けていく重要な人だ。
ちり、と奇妙な感覚を覚える。決まってこの感覚を覚えるのは、彼が目の前の私と共に…グラディス大佐を重ねてのこと。
うっすらと見えたオレンジ色の目の先に、彼女が居る。幻覚だ、私の醜い嫉妬からだ…と言い訳を入れるも、納得が出来ないという結論がジクジクと火傷のように焦がしていく。無意識というのは、本当にたちが悪い。
「…少し、グラディス大佐がどんな人だったか教えてくれるか?」
「え。それはまた、なんで」
「君がグラディス大佐の汚名を回復させようと奔走したことは知っているのでな。…興味が湧いたのさ」
半分は本心、半分は嘘だ。
確かにどういった女性だったかを知りたい、本心である。それとともに、彼が私以外に見せる笑みが…ひどく、羨ましいと思っている。

「グラディス艦長はですね…」

ぱぁっと、先ほどの柔らかい笑みを引っ込め、まるで好きなものを話すようなテンションを表す。教師時代、生徒たちがそう言った笑みを良く見せてくれた。先ほどよりもいっそうに反応を良くし、スラスラと流れるように口を滑らしていく。それがまさに、自分のように嬉しいと言わんばかりだ。私がウソ半分な気持ちであっても、彼女を知ってくれるという事が何よりなんだろう。
純粋な善意と好意からその笑みが生まれている。
身体を使って大きく表現し、誇張しているのかと言わんばかりに、演劇役者さながらなリアクションでいつにもまして多彩だ。一人芝居、なんて辛辣なことを言ってしまいかねないが、本人はいたって真剣。
あぁ…本当に、羨ましい女性だ。


──【羨ましすぎて、どうにかなりそうだ】
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