夜の森で


題名:夜の森で 作者:草壁ツノ

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<登場人物>
青年:不問 夜の森に住む青年。既に亡くなっており、亡霊のような存在。
少女:不問 夜の森に迷い込んだ少女。盲目。人間では無く、人や動物を生きたまま食べる。
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<役表>
青年:不問
少女:不問
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■注意点
特に無し
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■台本の規約について
 過度なアドリブ×
 一人称の変更×
 作中のキャラクターの性別変更×
 人数変更×
 不問→演じる方自身の性別を問わない役、という意味
 両声の方→男性が女性役、女性が男性役を演じる〇
 (その際はほかの参加者の方に許可を貰った上でお願いします)
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※夜の森の中、真っ暗闇から一人の青年が姿を現す


青年:「――や、お嬢ちゃん。こんな辺鄙な所になんの用?」

女の子:「迷子!」

青年:「迷子の割には元気がいいね。どうやってここまで来たの?」

女の子:「灯りを目印に歩いていたら、ここに着いた」

青年:「そうか。たまに迷い込むんだよね、人間が。
    でもね、ここは君のような女の子が来るような所じゃないよ。大人しく帰りなさい」

女の子:「帰りたいけど......」

青年:「けど、なに?」

女の子:「私、目が見えないの」

青年:「おやまぁ、それはそれは。
    と言うより、目が見えない子がそんなふらふら出歩いたらダメでしょ」

女の子:「おっしゃるとおりです」

青年:「難しい言葉知ってるね」

女の子:「えへ。お兄さんは、ここの人?」

青年:「人、では無いかもしれないね」

女の子:「違うの?」

青年:「うん。僕は、ここに留まる怨念みたいなものだから」

女の子:「怨念?」

青年:「まぁ、ある意味だと君と同じ、迷子みたいなものだね」

女の子:「おんねんが、ここにおんねん!」

青年:「ハハ、つまんない事言うねキミ」

女の子:「えへ」

青年:「仕方ない、今日一晩はここに泊まりなよ。
    明日の朝になったら、森の外まで案内してあげるから」

女の子:「お兄さん、いい人」

青年:「人じゃないってば」


※その夜


青年:「......おっと、いけない。眠ってた。
    あれ、あの女の子、どこに行ったんだろう。探しに行くか。
    おーい。女の子やーい、どこに行ったの?」


※女の子、暗闇の中で蹲り、なにか音を立てている


女の子:「じゅるじゅるじゅる......」

青年:「あ、居た居た。おーい、こんな夜の森、
    君みたいなか弱い女の子が一人でいると危ないよ......」


※女の子、横たわる鹿の死体の肉に食らいついている


女の子:「じゅる......」

青年:「......あ、お食事中だった? ごめんね。邪魔しちゃって。
    わぁ、凄い。鹿を丸かじりする女の子なんて、僕初めて見たよ」

女の子:「ぷは。お兄さんも、食べる?」

青年:「んーん。いいや、僕は食事とか必要無いから」

女の子:「美味しいのに」

青年:「僕はいいから、君一人で食べなよ」

女の子:「はぁい」

青年:「お嬢ちゃんはさ、いつからそんな風になっちゃったの?」

女の子:「むぉい?」

青年:「あ、ごめんね、食事中に」

女の子:「ごくん。ずっとこうだった」

青年:「そっか。お父さんとお母さんは、人間?」

女の子:「わかんない」

青年:「分かんないか」

女の子:「うん。だって、お父さんとお母さんは私が食べちゃったから」

青年:「......そっか。子供は食欲旺盛だものね」

女の子:「お兄さんは、お父さんとお母さんいる?」

青年:「......どうだろ。居たんじゃないかな。何十年か、何百年か前には」

女の子:「お兄さん、今なんさい?」

青年:「大人に年齢を軽々しく聞いたらいけないんだよ」

女の子:「そうなの?」

青年:「そうなの」

女の子:「そっかー」

青年:「記憶があるのは、二十三ぐらいまで。そこから先は、もう正確に覚えてないかな」

女の子:「すぐ忘れちゃうのは、おじさんなんだよ」

青年:「はは、年数だけで言えば、おじさんどころかお爺さんだよ」

女の子:「お兄さんは、どこか行かないの?」

青年:「行かない」

女の子:「ずっと?」

青年:「ずっと」

女の子:「そっかー」


※青年、腕についた手錠から伸びる、鎖を振る


青年:「......この鎖の音、聞こえる?」

女の子:「チャリチャリ鳴ってる」

青年:「僕はこの鎖でここに縛られてる。だからどこにも行かないし、どこにも行けない」

女の子:「可哀そう」

青年:「そうでもないよ。住めば都ってやつさ。
    さ、食べ終わったら残りは土に埋めよう。虫が湧くからね」

女の子:「はぁい」


※翌朝


青年:「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん。朝だよ、起きて」

女の子:「......でっかい肉......」

青年:「ほら、しゃんとして。この近くに川があるから、顔洗っておいで」

女の子:「ふぁい......」

青年:「戻ってきたら森の出口まで案内するからね」


※二人して森を歩く、森の出口が近づいてくる

女の子:「明るくなってきた」

青年:「あとはこの道をまっすぐ進めば、森の外に出られる。
    良かったね、元居た場所に帰れるよ」

女の子:「......」

青年:「どうしたの?」

女の子:「......お兄さんは行かないの?」

青年:「言ったろ。僕はここから離れられないって」

女の子:「......また会いに来てもいい?」

青年:「ダメ」

女の子:「どうして?」

青年:「僕は静かな方が好きなんだ。君みたいな子が毎回遊びに来たら、落ち着いて眠れない」

女の子:「やだ、遊びに来る」

青年:「強情だなぁ」

女の子:「......そうだ、お兄さん」

青年:「なに?」

女の子:「腕、出して」

青年:「腕? ......はい。出したけど、一体なにをするつもり」


※女の子、鎖にかじりつく。


女の子:「ばくん!」

青年:「あっ」

女の子:「ばり、ぼり......ごくん」

青年:「鎖が......」

女の子:「んん、口の中がザリザリする。変な味......」

青年:「どうして?」

女の子:「え?」

青年:「どうしてこんなことを?」

女の子:「お兄さん、どこかに行きたそうだったから」

青年:「え......」

女の子:「これで、どこにでも行けるでしょ?」

青年:「......そうだね。
    ふふ、ずっとこの鎖が疎ましかったのに、
    いざ手首がこんなに軽いと、なんだか落ち着かないな」

女の子:「?」

青年:「さ、僕のことはもういいから。早く行きなよ。
    このままじゃ、もう一晩ここで夜を明かすことになるよ」

女の子:「分かった。ばいばい、お兄さん」

青年:「じゃあね、不思議な女の子」


<終>
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