シングル・タックス


作:草壁ツノ

奥隅 優(おくずみゆう):独身の男性。独身を集めた国の「恋愛復帰を目的とした更生施設」に連れて来られた。
立花 翔子(たちばなしょうこ):独身の女性。言いたいことをズバズバ言う性格。
西園寺 みう(さいおんじ):自称十八歳の独身の女性。男性に媚びを振り撒く。
案内係:更生施設の職員であり、施設の案内係。妻とは死別している。

<配役>
 奥隅役:男性
 立花役:女性
 西園寺、映画の女優、猫役:女性
 案内係、映画の俳優、ニュースキャスター役:男性

■台本の規約について
 過度なアドリブ×
 一人称の変更×
 作中のキャラクターの性別変更×
 人数変更×
 不問→演じる方自身の性別を問わない役、という意味
 両声の方→男性が女性役、女性が男性役を演じる〇
 (その際はほかの参加者の方に許可を貰った上でお願いします)

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奥隅:「――ねぇ、立花さん?」

立花:「なに?」

奥隅:「どうなっちゃうんですかね、僕ら」

立花:「どうなっちゃうんだろうね~」

奥隅:「......立花さんは、ここがどこか分かってるんですか?」

立花:「更生施設でしょ? 恋人がいない奴らを集めた」

奥隅:「突然こんな場所に連れてこられて.....無茶苦茶だ」

立花:「別に、今に始まったことじゃないでしょ。ドクシンゼイ? だっけ。
   政策が発表されたのも、もう五年ぐらい前のことだし」

奥隅:「え、そうなんですか......?」

立花:「......なに、あんたテレビとか全然見ないわけ?」

奥隅:(M)消費税、所得税、自動車税、固定資産税......
   次に政府が打ち出したのは、「恋人がいない、独身の人間」をターゲットにした納税義務。
   その名もずばり「独身税」だ。
   一定の所得があり、かつ二十代から六十代が対象で、三年以上恋人がいない者が対象らしい。

立花:「要するに、この敷地内の誰かと恋人になればいいんでしょ? 簡単じゃない」

奥隅:「どこが簡単.......大体、なんで無理にパートナーを作らないといけないんですか」

立花:「少子高齢化だからじゃない? 知らないけど」

奥隅:「もし、相手がずっといない状態なら、どうなるんですかね」

立花:「そりゃ、税金の額がどんどん上がっていくんじゃない?」

奥隅:「世知辛い......」


※施設の案内カウンターに近づく二人


案内係:「ようこそ、なにかお困りごとですか?」

立花:「私たち、ここに来るの初めてなの。施設の説明してもらえない?」

案内係:「かしこまりました。
     ――この施設は、二十歳以上、六十歳未満の方で、
     かつ現在パートナーの居ない方を対象にした、
     恋愛復帰を目的に作られた更生施設です」

奥隅:「......この施設の中には、どんな設備があるんですか?」

案内係:「順を追って説明致しますと、
     二階には談話室、カラオケルーム、
     三階には食堂、図書室、漫画喫茶、
     四階にはスポーツ施設、ゲームセンター、
     五階には浴場とバーがございます。お煙草はお吸いになられますか?
     喫煙所なら、地下一階にございますので、そちらをご利用下さいませ」

奥隅:「すごい、そんなに充実してるんだ」

案内係:「はい。この施設の中だけで日常生活が事足りるように設計されています」

奥隅:「......ちなみに、ここから出るには、どうすればいいんですか?」

案内係:「はい、半年の間この期間で過ごしていただくか、
     もしくは、その期間の間に施設内のどなたかと、恋仲になっていただくかですね。
     そうすれば、半年を待たずしてこの施設から出ることが出来ます」

奥隅:「半年か......長いなぁ」


※突然一人の女性が男性に突撃して来る


西園寺:「きゃー!」

奥隅:「え? うわっ!(走ってきた女性と衝突する)」

西園寺:「あいたたた......」

奥隅:「いつつ......あ、大丈夫ですか?」

西園寺:「大丈夫ですう♡ お兄さんこそ、お怪我はありませんかぁ♡」

奥隅:「(顔が引きつる)へ、平気......です」

西園寺:「良かったあ~♡」

立花:「今この女、あからさまにぶつかりに来たわよ」

西園寺:「え~? 私ですかあ♡ 私は、西園寺みうですう♡ 
    花も恥じらう十八歳♡」

立花:「いや名前なんて聞いてないし。大体あんた」

西園寺:「はい、なんですかあ♡」

立花:「ここに居るってことは独身税の対象でしょ。十八のわけが無いじゃない」

西園寺:「げっ......」

奥隅:「あ、そっか。確か対象は二十歳から六十歳って......」

西園寺:「そ、そんなことより~♡ お兄さんのお名前はなんて言うんですかあ♡」

奥隅:「え、僕は......奥隅 優(おくずみゆう)です」

立花:「あんたも何馬鹿正直に自己紹介してんのよ......」

西園寺:「キャーッ♡ 奥隅さんって言うんですねえ♡
    とても素敵なお名前♡」

立花:「ああもう鬱陶しい! あっち行きなさい、シッシ!」

西園寺:「あれ、もしかして奥隅さん達、この施設に来るの初めてですかあ♡」

奥隅:「え、そうだけど......」

西園寺:「そうなんですねえ♡ 良かったら私が案内してあげますよ♡」

立花:「げ」

奥隅:「え、いいの?」

西園寺:「もちろんです♡」

立花:「いいわよ。もう間に合ってるから......ほら、行きましょ」

奥隅:「あ、ちょっと! 待って下さいって!」

西園寺:「......ちぇ、既に相手がいたのか。ざーんねん♡
    ねね、受付のお兄さん♡」

案内係:「はい、なんでしょうか?」

西園寺:「良かったら、私とお友達の関係から始めてみたり......しませんか♡」

案内係:「すみませんが、私には妻がいますので」

西園寺:「えーそうなんだ。やっぱりなぁ......お兄さんかっこいいもんね♡」

案内係:「ふふ、恐縮です」


※シーン切り替え
※施設の中を歩く二人


立花:「はー、変な女だった。さっさと相手見つけてこんな所出ましょ」

奥隅:「......」

立花:「なに、どうしたの?」

奥隅:「え、いや。なんでも」

立花:「......ははぁん?」

奥隅:「なにが、《ははぁん》なんですか」

立花:「あんまりそういうのに、免疫無い感じだ?」

奥隅:「わ、悪かったですね」

立花:「あんた、簡単に悪い女に引っ掛かりそうよね」

奥隅:「......」

立花:「あ、ちょっと怒んないでよ。冗談じゃん冗談。
  でもさ? 独身税まで出来て、なんであんたは相手を作ろうとしないの?」

奥隅:「......苦手なんですよ。それだけです」

立花:「ふぅん、そっか」

奥隅:「立花さんこそ、どうしてここにいるんですか。
   相手なんて居てもおかしく無さそうなのに、なんで」

立花:「はい、それセクハラ」

奥隅:「はぁっ?」

立花:「女性にそういうデリカシーのない発言する所が駄目」

奥隅:「自分は聞いたじゃないですか」

立花:「あー、私お腹空いちゃった。食堂あるんだっけ、行こ行こ~」

奥隅:「あ、ちょっともう......! 待って下さいってば!」


※シーン切り替え
※施設の受付カウンターで話す二人


西園寺:「受付のお兄さぁん♡」

案内係:「なんでしょうか?」

西園寺:「さっきの二人って、もう付き合ってるんですかね♡」

案内係:「いえ、それは無いと思いますよ」

西園寺:「どうしてですか♡」

案内係:「この施設内でパートナーとなった二人は、窓口に申請する必要があるので。
     申請が無いということは、つまりそういうことです」

西園寺:「そっか♡ じゃあ気が向いたらツバ付けとこ~っと♡」

案内係:「もし気になる方がおられましたら、そちらの備え付けのパソコンで個人情報を調べることが出来ますよ」

西園寺:「わぁ、プライベートの欠片も無い♡
    でも、興味あるから調べちゃお~っと!
    へえ、みんなの過去の恋愛のデータが全て公開されてるんだ。こっわぁい♡」

案内係:「勿論、ご本人から申請があれば、内容を一部非公開にも出来ます」

西園寺:「なるほどね......立花っと。あ、本当だ、情報が載ってる。
    ......なになに。ええ、そうなんだ。そうは見えないな、意外♡」

案内係:「プライベートですから、あまり大声で言いふらすのはお控え下さいね」

西園寺:「分かってますよう♡ えっと、奥隅さんは......っと。
    あ、情報発見♡ なになに......え?」

案内係:「どうされました?」

奥隅:(M)片思い、実らず。
     片思い、実らず。
     片思い、実らず――......。

西園寺:「奥隅さんの恋愛履歴、全部片思いで終わってるみたいですね♡」


※シーン切り替え
※施設内のとある扉の前で立ち止まる女性


立花:「ねぇねぇ、ちょっとこっち来てよ」

奥隅:「なんですか?」

立花:「ほら見て、ここ映画館みたいよ」

奥隅:「そう言えば受付の人がそんなこと......
   うわ、上映中の映画、全部ラブストーリーじゃないですか」

立花:「そりゃそうでしょ。......あ、ちょっとどこ行くの」

奥隅:「......僕ちょっと、他の場所見て来ようかな~なんて......」

立花:「はいはい、逃げない逃げない。
   すいません、大人二人です~」

奥隅:「いや、僕はいいですって......!」

立花:「大人しく観念しろ。うわ、誰も居ない。貸し切りじゃん」

奥隅:「もう......あ、もうすぐ始まるみたいですね」


※真っ暗な館内で映画が始まる


映画の俳優:「こんにちは。花を一輪下さいませんか」

映画の女優:「かしこまりました。ふふ――どなたかに贈り物ですか?」

映画の俳優:「ええ。実は――私の、片思いの相手に」

映画の女優:「まあ素敵。そのことは、彼女は?」

映画の俳優:「いえ、恐らく知りません」

映画の女優:「そうですか......大丈夫。きっとうまくいきますよ。
       はい、どうぞ」

映画の俳優:「ありがとう。......あの、これを」

映画の女優:「え? ああ、ラッピングが必要ですよね。私ったらうっかり......」

映画の俳優:「いや――これを贈りたいのは、君なんだ」


※映画を見ながら話す二人


立花:「この映画。昔見たことある」

奥隅:「そうなんですか?」

立花:「あの時は彼氏と一緒だったけど」

奥隅:「そうなんですね」

立花:「うん」

奥隅:「......」

立花:「......」


※再び上映中の映画に戻る


映画の女優:「ごめんなさい、無理よ」

映画の俳優:「どうして。僕のどこが駄目なんだい?」

映画の女優:「いいえ、あなたが悪いわけじゃないの。悪いのは、私」

映画の俳優:「理由(わけ)を話してくれ。そうじゃないと、諦めきれない」

映画の女優:「言えないわ。言ったらきっと私、あなたに軽蔑されてしまう」


※映画を見ながら話す二人


奥隅:「......どうして人間って、恋愛をしたがるんですかね」

立花:「え?」

奥隅:「付き合って、別れて、しんどい思いをして。で、また別れて。
   どうしてそんなことを繰り返すのかなって」

立花:「拗(こじ)らせてますねぇ......」

奥隅:「どうせ、拗らせてますよ」

立花:「そりゃ、やっぱり寂しいからじゃない?」

奥隅:「......それは、そうなんでしょうけど」

立花:「楽しいことも辛いことも半分こ~みたいなね。
   そういうの共有出来る相手が居たほうが、やっぱり人生有意義じゃん」

奥隅:「......映画の中の二人なら、幸せになれるんでしょうね」

立花:「どうなんだろうね。結ばれないことも、多いと思うよ」


※1階の受付で話す女子と案内係


西園寺:「そう言えば、お兄さんの奥さんってどんな人だったんですかぁ♡」

案内係:「んー......そうですね。サバサバしていて、
     言いたいことをストレートに口にする。そんな女性でしょうか」

西園寺:「えー、素敵♡ なんかもうお似合いのカップルって感じ♡
    もう結婚してどのぐらいになるんですかあ♡」

案内係:「六年と、1周忌になりますね」

西園寺:「......あ、ご、ごめんなさい。みうってば、うっかり♡」

案内係:「いえいえ、今のは私が回りくどい言い方をしましたから」

西園寺:「それじゃお兄さん、独身税は払っているの?」

案内係:「いえ」

西園寺:「え?」

案内係:「独身税の決まりとして、
     婚約相手と死別した者は、納税の対象外になるんです。
     さすがに死に別れた相手まで納税対象にすると、世間からバッシングを受けるでしょうから」

西園寺:「そういうものなんだ......」

案内係:「ただ、その状態だと次の相手を探すことは出来ない決まりになっていますがね。
     次のパートナーを探す場合は、死別した相手との関係を破棄しないといけませんから」

西園寺:「お兄さんは、今でもその人のこと好きなの?」

案内係:「そうですね」

西園寺:「どのぐらい?」

案内係:「生涯愛する人は、この人だけだろうなと思える程度には」

西園寺:「......いいなぁ♡ 私も、それぐらい、愛されてみたいな~♡」


※再び上映中の映画に戻る
 映像の中の男女のセリフと、それを見る二人のセリフが繰り返される


映画の俳優:「僕は本気だ、君を愛しているんだ!」


奥隅:「僕は、こんなにも誰かを愛せる自信がありません」


映画の女優:「......嬉しい。本当は、私もずっとあなたのこと......!」


立花:「大げさ。そんな風に考えてるのなんて、ほんの一握りだよ」

奥隅:「それでも。
   僕はこういう恋愛にひたむきな人達を見るたびに、思ってしまうんですよ。
   ああ、なんて自分にはハードルが高いものなんだって」

立花:「ふうん......誰かと付き合いたいとか思わないの?」

奥隅:「そう思っても、あの人には僕よりふさわしい人が居ると思ってしまいますね」

立花:「......」

奥隅:「そんな奴に、好きになられても相手の人が困るだけだ。
   それならいっそ、犬か猫でも飼って満足していたほうがいい」

立花:「......なるほどね」

奥隅:「なにが、《なるほど》ですか?」

立花:「結局のところ、自分が傷つきたくないから。
   だから、都合の良い相手で満足しようとしてる」

奥隅:「......」

立花:「図星?」

奥隅:「......はいはい、そうですよ」


映画の俳優:「待ってくれ、話を......!」

映画の女優:「さよならっ......!」


奥隅:「......立花さんは、どうして相手を作らないんですか?」

立花:「どうしてだろうね」

奥隅:「え?」

立花:「私も、いい加減分からなくなってるんだ。
   何度も恋はしたよ。けど、どれも長続きはしなかった。
   私は一世一代の恋をしているつもりだったけど、実際は使い捨ての恋だったのかもしれない」

奥隅:「......」

立花:「誰かと一緒になれば幸せになれるなんて、考えていたけど。
   今ではそれもどうだか分からない」

奥隅:「世の中結婚して不幸になった人なんて山のようにいる。
   自分だけは幸せになれるなんて、幻想ですよ」

立花:「傷口に塩塗ってくるとか最低じゃん」

映画の俳優:「どうすれば、彼女に振り向いて貰えるんだろう......」

立花:「......まぁ、今時結婚しなければいけないご時世でも無いし。
   納税義務だけ果たしていれば、別に誰も文句言わないでしょうね」

奥隅:「......そうですよ」

立花:「でも私は性懲りもなく、また誰かを好きになるんだろうな」

奥隅:「怖くないんですか?」

立花:「怖いって?」

奥隅:「人に嫌われることが」

立花:「そりゃ、その時は怖いよ。別れた日は大泣きして、
   やけ食いして、ずっと一人で楽しかった思い出を繰り返しちゃったりさ」

映画の女優:「私、どうして素直になれないの......」

立花:「けど、恋愛って楽しいよ。
  好きな人のために自分磨いたり、相手のこと沢山考えたりして。
  どうすれば相手に振り向いて貰えるのかとか。そういう体験、したことある?」

奥隅:「......いえ」

立花:「そっか。私は、そういうのがあると生活にハリが出るの。
   だから幾つになっても誰かを好きになるし、
   例えその結果辛いことがあったとしても受け入れる」

奥隅:「......別れた後のこととか、考えないんですか?」

立花:「考えるわけないじゃん。
   最初からバッドエンドのこと考えるやつがどこにいるのよ」

映画の俳優:「ああ、こんなにも幸せな日がやって来るなんて。
       僕は世界一の幸せものだ」

映画の女優:「それを言うなら、私のほうよ」

奥隅:「立花さんは、どんな男性が好きなんですか?」

立花:「なんで」

奥隅:「今後の人生の教訓として、知っておきたいなと」

立花:「そうだなぁ......自分に自信があって」

奥隅:「はい」

立花:「小さなことでクヨクヨしなくて」

奥隅:「うっ」

立花:「男らしくてスポーツ万能で、背が高くて趣味があって、
   女性に優しくて包容力があって、仕事が出来て社交的で、
   歌がうまくて料理が出来て、笑顔が素敵で面白くて」

奥隅:「も、もういいですもう......」

立花:「ふふ、あんたもいい人見つけなさいよね」



奥隅:(M)それから、自然と立花さんと話す回数は減っていった。
   聞くところに寄れば、ある男性とこの施設を出て行ったそうだ。

   僕は自分の中のもやもやした感情に蓋をして、生活に戻っていった。



案内係:「今週はこちらの5組の方がペアとなられました。
     お二人の門出にみなさん、盛大な拍手を......!」

奥隅:(M)拍手をしながら、あ、と思った。
   なんか知ってる。この感じ。これまでの人生で何度かあった。
   周りが幸せを掴んでいく中、自分だけ置き去りにされている感覚。

   立花さんは幸せになれたのだろうか。
   そんなことを、僕はふと考えながら、無気力な拍手を繰り返した。


奥隅:(M)それから月日が流れ。


案内係:「奥隅さん、そう言えば今日が退館日でしたか」

奥隅:「はい。お世話になりました」

案内係:「結局、最後までお相手は作られませんでしたね」

奥隅:「そうですね。すみません」

案内係:「いえ、あなたのような選択をされる方も、これまで何人かおられましたよ。
     逆に、退館日が目前に迫って、急いで誰かを恋人に選ぶ方も」

奥隅:「そうした方が、良かったんですかね」

案内係:「さあ。それは私には分かりません。
     それで幸せになれた人もいるでしょうし、なれなかった人もいるでしょうから」

奥隅:「そうですね......」

案内係:「そう言えば、あなたに伝言がありますよ」

奥隅:「え? 伝言?」

案内係:「はい、立花様から」

奥隅:「立花さんから?」

案内係:「はい。《彼女が欲しいなら、自分語りは控えたほうがいいぞ》、だそうです」

奥隅:「......」

案内係:「奥隅様?」

奥隅:「最後まで言うことがキツいな、もう」

案内係:(M)――それから、数年後。


※シーン切り替え
※自宅で寛いでいる途中、男の携帯電話が鳴る


奥隅:「はい、もしもし」

立花:「やっほー、元気?」

奥隅:「......どちら様ですか」

立花:「うわ、薄情。覚えてないの? 私よ、私」

奥隅:「......立花さん、どうしたんですかいきなり」

立花:「いや、連絡先残ってたから電話してみた。どう、元気?」

奥隅:「はい、同居人と仲良くやってます」

立花:「ふぅんそっかはいはい......
    は? 同居人?」

奥隅:「はい、同居人です」

立花:「えっ、聞いてないんだけど!?」

奥隅:「そう言えば、立花さんには話して無かったですもんね。
   僕にもパートナーが出来たんですよ」

立花:「へ、へへへ、へぇー。そう。
   ど、どんな子なのかしらぁ」

奥隅:「あ、是非紹介したいんで、今から連れて来ますね。
    ちょっとこっち来て。おーい」

立花:「はっ? いや連れてくるって。
   ちょっと待って私まだ心の準備が......!」

猫:「ナァン」

立花:「......」

猫:「ナァ~ン」

立花:「おい」

奥隅:「どうですか? うちの同居人。可愛いでしょう」

立花:「......呆れた。独身こじらせる典型的なパターンじゃない」

奥隅:「確かに。でも、不思議と後悔は無いんですよね」

立花:「そ。なら良かったわね」

奥隅:「そう言えば、テレビ見ました? 今日、なにか重大発表があるらしいですよ」

立花:「へー、なんだろ」

奥隅:「あ、ちょうど今やってます。えっと......」


ニュースキャスター:「政府は、今日新たに《夫婦税》を導入する考えを発表しました。
           こちらは、結婚届を提出してから二年以上経過したものが対象であり......」

奥隅:「......だ、そうです」


<終>
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